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    ssuwwarru

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    gqED後シャリシャア(🟩→🟥)前提のアムとシャ〜前回の少し前の時間軸🟥視点
    ※シャリは出てこない
    ※しれっとアム🦢
    ※全部幻想

    星の行方(2):花の香り 次のお母さんの命日には、必ず花を供えてきてください。

    「どう思う?」
    封書だ。真っ白な紙に繊細な金の箔押しがされている。中にはカードが一枚だけ。先日、とあるルートで私のもとに届いたそれは、上品な花の香りがした。
     ソファに背を預けた私の手元を背後から覗き込んで、髪がくしゃくしゃのままの彼が言う。
    「どうって、文面の通りじゃないか?あなたたちのお母さんが眠る場所まで行って、花を供えてくる」
    あくび混じりの声に訝しんで目を向けると、案の定下着一枚で服を着ていなかった。
    「ええい、だから服を着ろと言っているだろう」
    「ララァはそんなこと気にしないよ」
    「私が気になるのだ。顔を洗って、髪も梳いてこい」
    「はいはい。お小言が多いよ」
    日は高く、家の外では行き交う人々の賑わいを感じる時間だというのに、ずいぶん呑気な足取りだ。どうせ昨日も遅くまで機械いじりに邁進していて、睡眠時間を疎かにしたのだろう。
     しかし、これは一体どうしたものか。暫し同じ体勢で悩んでいると、身なりをさっくりと整えた彼が戻ってきた。
    「何をそんなに悩むことがあるんだ?一度も供えられていないんだろう?これを機に行ってくればいいじゃないか」
    彼は戸棚からカップを手に取り、冷蔵庫のミルクを注いでから、それをこぼさないようにゆっくりと私の横に腰かけた。彼の重みでソファの座面が沈み込む。そうだな、と返しはしたが、あまりにも所在なさげな声だったためか、余計に隣の彼は不思議そうにしている。
    「私が花を供えてもいいものかな」
    それを聞いて、ただでさえぐりっとした大きな瞳を、さらにまあるくして私の顔を見た。
    「あなたって、変に律儀で真面目なところがあるんだよな」
    だからいつだって生き辛い人生を歩んでしまうんだろう、と続きそうになった言葉をかみ殺した顔をしている。きみこそなんて分かりやすくてデリカシーに欠ける男なんだ!
     アムロくん、と反射的に臨戦態勢になったところで、彼が再び口を開くものだから勢いを削がれた。
    「セ…アルテイシアさんがいいって言ってるんだから、行かないほうが不義理じゃないか」
    ミルクを飲みながらの彼の言い分は、まったくもって正しいように響いたので、うん、と今度こそ萎れるような格好のつかない返事となった。横目で伺った彼の表情は、面倒な人だなあという感情を隠しもしない。かといって黙って離れていくこともしなかった。別に私のためではないのだろうが、こうして在れること自体が、嘘みたいに得難い経験であるということが今の私には分かった。家の外から聞こえる賑やかしい声が、ひときわ大きくなった気がした。
     窓から差し込む光が、飾り棚のフォトフレームに反射してきらきらと輝かせていた。ララァが大切に持っていた彼女の家族の写真や、この地で慈善活動を始めてから出会った子どもたちや仲間と撮った写真が飾られている。
    「そういえばララァはどこに?」
    「今朝早く近所の子どもたちに手を引かれて出かけて行ったよ。聞いていなかったのか?」
    「いや、聞いていたよ。そうかあ、今日だったのか」
    最近こもりっぱなしで機械いじりをしているせいか、月日の感覚が鈍っているようだ。
    「きみも少しはララァを見習って、子どもたちと外で遊んで来たらどうだ?」
    「フラフラしすぎて猫みたいに居場所が掴めないあなたに言われたくないよ。また拠点を移したんだって?何回引っ越しすれば気が済むんだか」
    今度はずいぶんと呆れた顔をしている。本当に分かりやすくてデリカシーに欠ける男だ。
    「それでもって昨日みたいに急に来て、我が物顔で俺たちと一緒にご飯を食べて、まあ、ララァは本当に喜んでいるんだが」
    「うん」
    「そこで頷くだけなのがあなたの悪いところだ。あなたって、どうしてそうなっちゃったんだろう。まるでじっとしているのが怖いみたいだ」
    そう言われて考える。怖い…怖かったのだろうか?変わらず手元にある真っ白な封書を見る。次のお母さんの命日には、必ず花を供えてきてください。当たり前だけれど、書いてあることが変わっていたりはしない。ついと窓の外の空を見上げる。本日は快晴で、雲がほとんど見えない。眩い青色が広がっている。空を越えた先には私たちの生まれた宇宙があり、偽物の重力で今この時も人々を育んでいるだろう。
     アルテイシア。
    「それより俺は、あなたが宇宙に戻って、あれが大丈夫なのかが気になるんだが」
    「あれ?」
    何のことか分からず、思わず空を見上げていた顔を彼に戻すと、ずいぶん形容しがたい表情をしている。苦い薬を口に含んだ後上手く呑み込めなかったときとか、皿を洗おうとして蛇口を捻ったら水が勢いよく飛んできて服がびしゃびしゃになったときとか、まあそういった類のあまり美しいとは言えない表情である。
    「なんだね?」
    「あれだよ、あなたが妙な企み事をしようとすると宇宙から降ってきてあなたを刈り取っていくとかいう、出来の悪い子ども向けの童謡みたいな人のことだよ」
    「ああ…」
    面倒なことを思い出してしまった。3年間、あの男との直接的な邂逅は(幸運なことに)無かったが、明らかにあの男の息がかかっているであろう人間たちが、定期的に私とララァの周りをちょろちょろしているのだ。ララァはそれらに寛容だが、私は気の長い人間ではないので正直うんざりとしている気持ちはある。何かのボーダーを超えてしまえば、やつらに水をぶっかけて追い払ってしまいそうなそんな笑えない予感である。ララァとアムロくんにしこたま怒られるであろうから今のところ実行に移す予定はない。
    「キケロガマン…」
    「は?」
    「いや、何でもない。そのあたりはアルテイシアが根回ししているだろう。そうでなければ私はターミナルで空の塵となる」
    「最悪なことを言わないでくれ。またララァを泣かせる気か?許さないぞ」
    「なに、きみたちの結婚式までには必ず戻るよ」
    自分でも存外にやわらかな声が出たなと驚いたのだが、私の言葉を聞いた彼は本当かよ、と聞こえるような胡乱な目つきで私を見ている。今彼の頭の中では、2年前にこの地でララァを連れた私と出会ってから今までの記憶と、ララァとの出会いで見ることとなった刻の向こう側の記録が恐ろしい勢いで流れていることだろう。私の発言の信憑性を計る材料を探しているのだ。
     我々3人は暗黙の了解のもと刻の向こう側の話をしないが、こうして時々お互いの瞳の奥に刻の向こう側の光を見る。あまり見つめすぎると、どろりとした巨大な重力を伴って私たちの四肢に絡みついてくるので、今この時の私たちとは丁寧に切り分けなければならないのだ。少々難しいときもあるが、刻の向こう側とは8年前のゼクノヴァからの長い付き合いだ。まあ慣れたものだといえる。
    「確約できる証拠もないのでこればかりは私の言葉を信用してもらうほかない」
    彼は空を見て逡巡の末、まあ、それもそうかと呟き、この場は収めた様子だ。
     私は居心地の良いソファに沈み込んでいた体を起こす。立ち上がると、世界が少し遠くなったような不思議な感覚がした。
    「出かけるのか?」
    「ああ。今朝出かける前にララァに買い出しを頼まれたのだ」
    「ふうん。手伝おうか?」
    「いや、大丈夫。大した量ではないよ」
    ソファに座る彼の頭を見おろす。多少は整えられたようだが元々のくせっ毛で、上から見たってつむじの位置がまったく分からないのがなんだか可笑しい。
    「ふ」
    「なんだよ」
    「なんでもないさ」
    「変なやつだな」
    手早く身支度を済ませる。この地の日差しは私にはどうにも強すぎる。難儀していたところにララァが手ずから編んだ大きな帽子を贈ってくれたので、日中は愛用している。身に着けた白いシャツは少しくたっとしてきたが、丈夫で風通しが良くて気に入っている。鏡を覗いて、軽く襟元を整えた。少し髪が伸びてきたな。
     例の封書にカードを仕舞い、丁寧に折りたたんで、食事の際に決まってララァが私に用意してくれる椅子の裏に挟んで隠した。視線を感じたので、そういえばと言っていなかったことを思い出す。未だソファに背を預けている彼の方を見やると、やはり私に視線を向けていた。
    「近いうちに、アマテとニャアンが来るそうだ」
    「あの子たちか。久しぶりじゃないか」
    「そうだ。そのための買い出しなのだそうだよ」
    「ララァはやさしいな」
    「うん」
    扉に手をかけ、さて出かけるぞというところで、もう一つ言い忘れていることに気が付く。
    「カップは洗って、乾かしておくんだぞ」
    本当にお小言が多いよあなたと背中に投げられるボヤキを受けて外へ出る。窓から見えていた景色に違わず本日は晴天で、人々の賑わいが青空に溶けて広がっている。乾燥した空気を吸って人波を避けながら、椅子の裏に隠した真っ白な封書のことを思い返した。上品な花の香りが、宇宙から私に向けて漂ってきているような気がした。
     それはきっと、私の代わりに摘まれて活けられた、愚かで哀しい愛しい花だ。
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