Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    iduha_dkz

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 44

    iduha_dkz

    ☆quiet follow

    https://poipiku.com/7684227/8963655.html の続きです
    桃吾の綾への態度をさらに氷解させるターンかつ、綾が自覚するターン
    相手を思う気持ちがたっぷりこもった料理は、とてもおいしかったみたいです

    円←桃(無自覚)前提の綾→桃 そのに綾瀬川次郎は怒っていた。寮のキッチンに寮生は自由に使っていいと置かれている食材で、犬にも人間にも美味しいおかずを一品作って、それをたろうにも少しあげたらなぜか桃吾が怒ったのだ。
    いわく、俺の方に懐いとるのが羨ましゅうなって食いもんで気ぃ引こうとしたんやろ、今日は散歩ついてくんなや、だ。
    たろうが喜んでくれたら嬉しいなと思ってやったことではあったが、桃吾が言うような子ども染みた自分が一番になりたいという考えでやったわけではなく、結果として二人は軽い口論になった。そして、売り言葉に買い言葉の応酬をしているうちに、やったらお前俺にもなんか作れと、桃吾が昨日試合の頼み事の権利を使ってきたのだ。それが少し前の話で、今桃吾はたろうの散歩に、綾瀬川は何かを作るためキッチンに来ている。
    何かってなんだよというあまりにも曖昧な指定を思い返して、少し乱暴な手つきで耐熱ボウルに入れた牛乳をレンジにかける。綾瀬川にも意地がある。わざわざ作るからには絶対に美味しいと思わせてやると決めていた。暖まった牛乳に溶いた卵と適量の砂糖を加えて泡立て器で混ぜていく。いつもなら俺も一緒に散歩してたのに。そんなことを思ってしまうのは、やっぱり俺たろうの気を引きたくて料理作ったのかなと綾瀬川は思う。
    綾瀬川が散歩当番の時はたろうと一緒にいたい桃吾がついてくるし、桃吾が散歩当番の時は日課になっていることを変えたくなくて綾瀬川がついていく。どちらがリードを持つかしか違わないたろうの散歩の時間は、いつも桃吾の機嫌がよくて、綾瀬川にとっても落ち着いていて好ましい時間だった。
    それを今日は取り上げられた上軽い口論にまでなって、しかもそれがわりと理不尽な理由とくれば納得もしがたい。
    綾瀬川はボウルの中身をぐるぐる混ぜ続ける。桃吾について考えながら混ぜ続けた中身は、大量の砂糖がしっかり混ぜられ甘さが溶け込んでいた。混ざりきったそれを容器に移して温めて固めていく。弱火でじっくり温める間、桃吾が散歩から戻ってきたらやりたいならたろうに作った料理の作り方教えてあげるようか、それでこんなことでもう怒らなくなるだろうしと、そんなことを考えながら時間がくるのを待っていた。


    冷蔵庫で十分に冷やしたら、散歩から戻ってくる時間はとっくに過ぎてしまっていた。いなかったら出直しかなと考えながら、綾瀬川はとりあえず桃吾の部屋を訪ねる。こんこんと軽くノックすると返事が返ってきて、そのまま扉が開く。
    出てきた桃吾は綾瀬川を見ると金色の目を瞬かせて、訪ねられたことに驚いていた。
    「なんやねん急に」
    「桃吾が何か作れって言ったんじゃん」
    「部屋に持ってくるなんて思ってへんかった」
    夕飯の時とかでええやんと桃吾は続ける。言われれば確かにそうなのだが、綾瀬川はごく自然に冷えたらすぐ食べてもらえるよう部屋を訪れることを選択していた。
    「冷蔵庫に置いといたら間違って食べられるものの代表だし、プリン」
    そんなことを言えば桃吾は納得したのか、扉を大きく開いて入るように促してくれる。遠慮なくお邪魔すると机の側の椅子を勧められた。桃吾はベッドの端に腰かける。寮の個室はそこまで広くなく、机の側からベッドの端にいる桃吾にも、二人が腕を伸ばせばそのままプリンとスプーンを手渡しできる。
    綾瀬川は桃吾が口をつける前に先に一口プリンを食べた。うん、ちゃんと美味しいと出来映えに満足して、それから関心は桃吾の反応に向く。綾瀬川が作ったという一点から、素直に美味しいと言わない可能性もある。そうなったら、どんな風に本音を感想を引き出そうかとそんなことを考えていたのに。
    「……うっま」
    まったく飾らない素の反応が出てくるとは思っていなくて、そしてその笑顔は拾ってきてからずっと大事にしているたろうに、いつも向けられているのと同じ顔で。
    少しの間そのままプリンを見つめていたその眼が、綾瀬川の方を向く。キラキラとワクワクが詰まった金色の瞳は、まっすぐ綾瀬川を射貫いていた。
    「めっちゃウマいやん。ほんま手作り? ありがとな!」
    笑顔がまぶしいから、なんて浅い理由だと自分でも思う。それでも「好き」という感情は道理のあるものではないのだと、綾瀬川は心底理解せざるをえなかった。
    「……えっと、なんか、素直じゃん」
    顔が熱くて、もう真っ赤になっている。桃吾の反応に動揺したことはもうバレても仕方ないが、桃吾から尋ねられたら余計なことまで喋ってしまいそうで、綾瀬川は驚いたことは正直に見せつつ、桃吾に問いかける形にした。
    「やって……、ほんまにウマいで。おまえ料理得意なん?」
    桃吾も少し気まずそうな顔をしたが、でもそれは一瞬でまたすぐキラキラ輝く眼で綾瀬川を称賛しだす。それが、綾瀬川にはただこそばゆくて仕方ない。
    「家では手伝ってたけど、得意なの、かな? たまたまプリンが桃吾好みの味なのかもしれないし」
    得意と言えば気を引けそうなのに、失望されたくなくて謙遜してしまう。気持ちを整理するためにこの場を離れたいし、美味しそうに大事にプリンを一口ずつ食べる桃吾をずっと見ていたい。そんな矛盾した気持ちを抱えながら、綾瀬川は目の前の眩しい人と話し続ける。
    「なんでプリンにしたん? メシに合うおかずやと思っとった」
    「えっと……材料揃ってて、なんとなくだけど。……ほらプリンなら、夕食のおかずと被るとか考えなくてもいいし」
    その返事で桃吾はなるほどなーと納得したが、綾瀬川は内心焦っていた。何を作るかは使える材料を見て決めたが、夕食に添えるおかずという選択肢は最初からなかった。そしてその理由は、桃吾に話した被るかもしれないというものではなく、完成したらすぐ届けてその時桃吾に会いたかったから、だ。
    俺、もう、だいぶ、好きじゃん。
    今笑顔が向けられたのは気づくきっかけで、もっと前からずっと意識していた。自分でも笑顔にできるのだとわかって、もっとそうしてあげたいという欲が生まれたというものある。今桃吾の眼がキラキラ輝いているのは紛れもなく綾瀬川の功績で、それだけのことが途方もなく嬉しい。こんなことでチョロいという思考は綾瀬川の脳裏を過ぎるものの、嬉しそうに輝く黄金色の眼を見たらそんな無粋な批判は吹き飛んでしまう。
    「ウマかった。ごちそうさま。ありがとな」
    桃吾はあっさりと食べ終わってしまったことを惜しんでいるが、綾瀬川の方こそもっと桃吾に食べていて顔をほころばせていて欲しい。
    「そんなに美味しかったなら、こっちも食べる?」
    だから、こんな提案が出たのは綾瀬川には自然な流れだった。
    「おまえのやろ?」
    「なんか桃吾すごく幸せそうだったから」
    正直な気持ちを綾瀬川が伝えると桃吾は驚いて、それから少しだけ考え込む。
    「んー、じゃあ一口。あとは打点入れた時また作るの頼んでもええ?」
    そして、桃吾は綾瀬川にとって一番嬉しい選択を与えてくれた。これからもまた作って欲しい、なんてむしろ綾瀬川から作りたいと頼みたいくらいのことで。桃吾から望んでくれるなんて、綾瀬川が桃吾を笑顔にすることへの嬉しさごと受け入れられたようで、感情が溢れ出しそうでうまく返事ができない。
    「いい、よ」
    なんとか短い一言で取り繕った返事をすると、桃吾はやったとまた楽しそうに笑う。
    「ありがとな!」
    そして自分のスプーンを綾瀬川の差し出す容器に突っ込んで、プリンを一匙すくっていった。後に残ったのは中央がへこんだプリンで、そのくぼみは桃吾が口に運んでいたスプーンで作られたものであり、つまり。
    これ、間接キスじゃん……。
    そう思うと食べるのに勇気が必要になるが、キラキラした眼でプリンをまだ見ている桃吾を前にして食べないわけにもいかない。自覚してすぐ、好きな人に見つめられながら間接キスって、俺なんか悪いことしたかなと綾瀬川は思う。
    掬って食べた間接キスゾーンのプリンはまったく味がせず、でも飲み込む瞬間にはどこか甘さを口の中に残していった。


    =====
    円が同じ提案した場合、プリン1個を2人でつつくことなるので、この時点で綾に勝ち目はないです。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤❤❤💖💖💖💖💖💖💗💖☺💖🍮🍮💕😍💗💗💖💖💖😭👏👏👏🍮🍮🍮🙌🙌🙌💖💖👏🍮🍮🍮🍮🍮👏💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    iduha_dkz

    DONE綾と桃吾の高校での卒業式の話です。
    前半は1年時、後半は3年時。
    3年一緒に過ごすうちに色々理解して仲良くなり情も湧いたけど、それでも桃吾の一番は円なので綾の一番にはなれないことを最後に突きつける、一番のために他の大事なもの切る痛みを伴う別れが100通り見たくて書きました。
    最後の日を迎えて卒業式で久しぶりに会った二つ上の先輩は、綾瀬川と桃吾が二人で花束を持ってきたのを見て、はじめは落第点しか取れていなかった学生が百点満点を取った時の教師のような顔で微笑んだ。
    「二人一緒に来るとは思ってなかった」
    「元主将を心配させるなって、二年の先輩たちが二人で行けゆうてくれはったんです」
    「桃吾、それ言っちゃったら不安にさせるやつじゃない?」
    「大丈夫だよ綾瀬川。雛がどうしても俺に渡したかったって言えない照れ隠しなのはわかってるから」
    「主将ぉ!」
    「あ、ならよかったです」
    抗議の声を出した桃吾を綾瀬川はまったく気遣わず「ほら渡すんでしょ」と花束を差し出すように促す。長持ちすることを考慮してドライフラワーで作られた花束を二人から受け取り、鮮やかな花束に一度視線を落とした後、彼は自分より身長の高い後輩二人を見上げた。
    6957

    iduha_dkz

    MAIKINGぜんぜんまったく書いてる途中だけれどもこの会話出すなら今じゃない?となったのでワンシーンだけ抜き出したもの
    大学から一緒の学校になった花瀬花の、4年クリスマスの日に瀬田ちゃんが花房に告白してOKもらえたその少し後のワンシーンです

    こちらのその後的なものになります
    https://poipiku.com/7684227/9696680.html
    「花房さ、オレのせいでカノジョと別れたって前言ってたじゃん。確か一年のバレンタインデー前」
    「……よく覚えてるね」
    「その後からオレに付き合っちゃわないって言うようになったら、そら覚えてるだろ」
    「そっか」
    「やっぱオレのこと好きになったからってのが、カノジョと別れた理由なん?」
    「……そう。カノジョより瀬田ちゃんと一緒にいたいって思っちゃったのに、隠して付き合えるわけないじゃん。俺から別れ切り出した」
    「え、態度に出て振られたとかじゃなく?」
    「別の人の方が大事になっときながら、振られるくらい態度に出すなんてサイアクじゃん」
    「あーまぁ、確かに?」
    「ほんとにいい子だったんだよ……俺が野球最優先でもそれが晴くんだからって受け入れてくれててさ……でもだから、カノジョより優先したい人ができたのに、前と変わらずバレンタインのチョコもらうなんてできないじゃん」
    485