負け戦/勝ち戦 不意に、拳が入った。
「う、」
頭上でうめく音がした、相手はそのまま身体ごと吹っ飛んだ。朋花も驚きのあまりそのまま数歩つんのめって、たたっと着地した。
目の前には、コンクリートの上に倒れた、紅の餓狼と呼ばれる女……二階堂千鶴、千鶴、嫌な響きだと朋花はしかし、きょとんと口の中の渇きに気がついた。
「なに……」
小さな傷が数多ついた拳が、確かにさっき、鳩尾に入った。朋花にはそれが不思議だった。千鶴は、そんなクリンヒットを許すような甘さを持ち合わせていないはずだ。朋花相手に、そんな無防備さがあるわけなどないはずだ。朋花は、千鶴が向こう側で唾のようなを吐き捨てるのをぼんやり眺めながら、手をグー、パー、とさせていた。
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