Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    くるしま

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 27

    くるしま

    ☆quiet follow

    原作雑土。
    思ったより長くなっています。恐らく大幅書き直しになるであろう部分の荒削りをお楽しみ下さい。

    こんな連載にお付き合い頂くのが若干申し訳なくなってきましたが、さすがにここで中断する方が酷いとも思うので、とにかく今は完走を目指します!

    原作雑土その04 山田との話で、雑渡の意図について結論に近いものを得た土井は、相変わらずそれについて考えていた。
     答えが出れば悩みも終わるかと思ったのだが、終わる気配がない。
     先日の結論らしきものによれば、雑渡が土井に手を出すのは、単なる気まぐれという事らしい。
     つまりは、そのうち雑渡が飽きて終わるのだろう。
     土井は別段飽きてはいないが、この関係の主導権は雑渡にあるのだから、そこは問題ではない。
     ぎしりと胸が痛んだ。本当に雑渡と会えなくなれば、もっと痛むのだろうか。それとも、安心するのだろうか。
     考えない方が良いのは、わかっている。そう努めてもいる。だが思考に隙ができると、そこに雑渡の影が入って来る。どうしようもなかった。
    「最近、何やら思い悩んでおるようだのぉ」
     気持ちが晴れないままのある日、学園長からの呼び出しに赴くと、向かい合って座った途端に言われた。土井は、頭を下げるしかない。
    「未熟者で申し訳ありません」
    「よいよい。悩みも成長のうちじゃ」
     この悩みの先に成長があるとは思えなかったが、お叱りでない事に安堵する。
     何かを疎かしている訳ではないが、悩みが悩みだし、相手が相手だ。
    「それより、ひとつ仕事を頼みたい」
    「はっ」
    「タソガレドキの、雑渡昆奈門の忍務に付き合ってやってくれんか」
    「はっ。……はい?」
     学園長からの忍務を断ると言う選択肢はない。であるから、反射的に返答をしてから、内容への疑問が出てきた。
    「タソガレドキに、協力なさるのですか?」
    「今回はな。雑渡が土井先生をご指名じゃ」
    「私を、ですか……」
     不信感を露わにする土井と対照的に、学園長は呑気な顔をしたままだ。
    「どうやら最近、雑渡を狙う者がおるらしい」
    「あの方なら、常に狙う者はいるのでは」
    「確かにの」
     学園長は笑ってから、続けた。
    「囮を使って誘き寄せたいから、土井先生を貸して欲しいとの事じゃよ」
    「私が何の囮になるのですかね?」
    「相手は忍者のようでな。雑渡昆奈門と親しい人間として、土井先生を認識しているようじゃ」
    「……何故ですか」
     答えるのに、少し時間がかかった。反応が遅れた自分に、舌打ちしたくなる。
     雑渡との逢引は、双方かなり気遣って行っている。相手がいる事がバレたとしても、相手が互いだとは知られないように。
    「ほれ、先日、山田先生と一緒に出張に行ってもらったであろう?」
    「はい。たまたまタソガレドキの張り込み場所に我々が入ってしまい、成り行きで多少話はしましたが……まさか、その時ですか?」
     山田と共に赴いたのは、諜報任務の出張だった。といっても、タソガレドキと出会った時、山田と土井は既に忍務を終えていた。
     人気のない場所で帰り道の打ち合わせ中、最初に近付いてきた雑渡に気付いたのは、山田だった。
     二人の前に堂々を姿を現した雑渡は、
    「先生方がこちらに何用か、伺ってもよろしいか?」
     のんびりとした声で、だが目を光らせて、問いを発した。
     しばらく腹の探り合いをしたが、最終的に、緊張は緩和された。
     彼らのしていたのが調査であるなら、山田も土井も邪魔する気はなかった。
     彼らの妨げにならないよう、ルートや行き先について、少し話した。
     声をかけて来たのは雑渡だが、押都と他数人もその場にいた。
     山田と押都がこの先の行動範囲について話している間、雑渡は土井に話しかけてきた。内容は単なる雑談だ。保健委員は元気かとか、同行はしていないのか、とか。後者は恐らく、彼らがトラブルを呼び込みやすい事への警戒だろう。
     距離は近かったかもしれない。雑渡が少しふざけて寄って来て、土井は嫌な顔をして、雑渡は笑った。それだけだ。
     あれが、親しい友人にでも見えたのだろうか?
    「詳しい話は、雑渡と繋ぎをつけておくれ」
     学園長からの説明は、それくらいだった。
     随分とざっくりしているが、別に珍しい事ではない。学園長が判断したのなら、特に異議もない。
     普段なら「授業が遅れるなぁ」位しか思わないというのに、妙に引っ掛かりを覚える原因は、わかっている。
     雑渡だ。
     学園長に頭を下げて、下がろうとした時。学園長から、言葉を掛けられた。
    「雑渡に、よろしく言っておいておくれ」
     何気ない言葉だ。なのに、背筋がひやりとした。
     自分は相当、雑渡との関係が後ろめたいらしい。
    「はい」
     そう答えた声が平静に聞こえていたかどうか、土井は自信がなかった。



     
     もやもやとした気持ちを抱えながら、数日間。雑渡からの連絡は来ない。
     一応は待ちながらも、土井はいつも通りの生活を続けた。
     今日は休みで、きり丸はバイトに出掛けており、土井はその手伝いという、よくある日だ。
     土井はきり丸が引き受けた、アルバイト用の洗濯物を取りに行く所だった。
     本来ならば、きり丸も一緒に来るはずだった。だから土井は、洗濯前のアルバイト先まで、きり丸を迎えに行ったのだが。
    「すいません、コッチがまだかかりそうなんで、先に洗濯物だけ受け取っておいて下さい!」
     忙しそうに飛び回るきり丸から頼まれて、土井は仕方なく一人で歩いていた。
     洗濯物はきり丸と二人で運ぶはずだったので、おそらく二人で持てるギリギリだろう。土井一人で持って帰るのは、骨が折れそうだ。
     どうするかな、と考えながら歩いていた土井は、うーんと考えながら角を曲がった。
     一人の男がやや間を置いて、同じ角を曲がる。曲がった所で、足が止まる。
     道の先に、土井はいなかった。
     しまった、と男が思った時。
    「なあ、ちょっと手伝ってくれないか? 君、暇だろ?」
     背後からいきなり肩を掴まれた尊奈門は、声も出せずに振り返り、土井を見た。
    「助かるよ。私一人では持ちきれなくて」
     そう言いながら、土井はぐいぐいと尊奈門を引っ張る。有無を言わせない力だ。
    「お、おい!」
     尊奈門が抵抗する間もない。土井の力は強く、動揺の残る尊奈門では振り解けなかった。
     土井は助かったーと言いながら、洗濯物の引き取り先まで向かった。
     そして、引っ張ってきた尊奈門に、どんどん洗濯物を渡した。
    「ちょ、ちょっと待て! 多くないか!?」
    「いつもの量だけど。重くて無理なら、私がもう少し持つぞ」
    「無理な訳ないだろう!」
     扱いやすくて結構な事だ。尊奈門は文句を言いながらも、きっちり洗濯物を持って、土井の住む長屋まで着いてきた。どうやら土井に用があるようだ。
     きり丸はもう長屋に戻っており、土井を迎えに出て来た。洗濯物を抱えた土井の後ろに、尊奈門がいて驚いた顔をする。
    「あっ、尊奈門さんも手伝ってくれたんですか!?」
    「手伝わされたんだ!」
    「いや〜、ありがとうございます。助かります!」
     きり丸は調子良く礼を言って、洗濯物を受け取る。そして、慣れた様子で、洗う順に仕分けしていった。
    「おい」
     尊奈門に目で促され、きり丸の視界に入らない所に移動する。尊奈門は黙って、折り畳まれた文を差し出した。表書きはない。
     土井も黙って受け取り、中身を確認する。
    「ふむ……」
     土井は一読して、再び紙を折って、尊奈門に返す。
    「返答は」
    「承知した、と」
     文を再び胸元に戻して、尊奈門は「わかった」と玄関先へ向かおうとする。
    「洗濯は手伝ってくれないのか?」
    「手伝う訳ないだろう! 私は忙しいんだ!!」
     尊奈門は出て行こうとして、ふと振り返った。
    「おい。他にはあるか」
    「え、洗濯物?」
    「違う」
    「アルバイト?」
    「違う! 伝言だ!」
     誰に、と確認するまでもない。少し考えて、土井は首を振った。
    「特にないかな」
    「わかった」
     今度こそ尊奈門は出て行った。
    「……やれやれ」
     土井の漏らした声は、呆れた響きがあった。
     先ほど渡された文には、名前も印もなかった。が、雑渡からのものであるのは分かった。逢引の約束で幾度か見たのと同じ文字だ。
     文には場所と日時と一行だけ。
     荒っぽい事になるので、ご準備を。
     という、物騒な文字があった。
     一体、何をさせられる事やら。
     考えただけで、気が重い。
    「先生〜、洗濯始めますよ!……あれ、尊奈門さんは?」
     きり丸がきょろきょろと見回す。
    「もう帰ったぞ」
    「え〜。引き止めてくださいよ」
    「あのな。尊奈門がおまえのアルバイトを手伝ってくれる訳ないだろう」
    「先に手伝わせたの、先生じゃないですか」
     きり丸と会話しながら、土井は雑渡について考えていた。
     山田に相談して以来、土井は雑渡の言動を深く考えるのをやめようと、自分に言い聞かせていた。
     しかし、今回は考えるしかない。あの男は本当に、こちらの意思を引っ掻き回すような事ばかりする。
    「きり丸。明日は用ができたから、一人で忍術学園に戻ってくれるか」
    「はーい。尊奈門さんですか?」
    「いや別件だ」
     否定すれば、きり丸はそれ以上聞いてこない。
     きり丸が一人で忍術学園に帰る事はよくあったから、そこは心配ない。
     心配なのは雑渡のいる場所で、土井自身に何が降りかかるかだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💞👏🙏❤💕💕💕❤❤❤💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works