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    くるしま

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    くるしま

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    雑土です。リハビリ兼生存報告。
    うっすら暗めです。主に土井先生の様子がおかしいです。
    山田家〜学園で教師として過ごす過程で色々と矯正されてきたけれど、色恋沙汰に関しては矯正以前に真っ当な経験ゼロでズレている土井先生…というイメージ。
    雑渡さんは割と真っ当な感覚をしてると思うので、苦労すると思います。がんばれ。

    雑土小話 土井半助は、雑渡昆奈門と恋仲の男である。想い合っているのは確かだ。雑渡から見ても、土井は雑渡への想いを寄せていて、それを疑った事はない。
     だから、土井が愛情を口に出さない事も、特段気にしていなかった。雑渡は雑渡で、愛の言葉を激しく欲する男ではない。
     何より土井の大きな瞳から、雑渡に絡みつく身体から、その恋情は滲み出ていた。
     だが共に過ごす時間が積み重なっていくうちに、土井が想いを伝える言葉をあえて避けている事に気付く。例えば閨で熱に浮かされている時に、何かを言いかけて、不自然に口をつぐむ。
     そんな事が続くと、理由が気になりだした。照れている訳ではなさそうだ。出し惜しんでいる風でもない。では、何なのか。
    「土井殿は、想いを言葉にするのはお嫌いですか?」
     ある日、雑渡はそう尋ねた。
     月夜の逢引だった。二人のいる小屋にも、月の光が差し込んでいる。すぐ横に座っている土井の表情も、よく見えた。
     尋ねはしたが、問い詰める気はない。ただ、ふと話が途切れた時に、何となく口にしただけだ。
     特に動揺も見せず、土井は静かに口を開く。
    「嫌いではありません。雑渡さんは、言葉が欲しいのですか?」
    「どうしても、という訳ではありませんが……あれば嬉しい」
     言いながら、雑渡は土井を見る。普段の彼は明るくて、表情豊かな男だ。だが今の彼は、微かな微笑を浮かべて、静かな声音で話す。
     二人きりでいる時、土井は時々こういう風になる。口元は笑みを浮かべているのに、何を思っているのか、図りかねた。
    「そうですね、それでは……今際の際に言いますよ」
     穏やかな顔のまま、土井は呆れた事を言い出した。
    「土井殿の? それとも、私の?」
    「もちろん、私のです」
     何を考えているのか。
     忍者など、死体が残る死に方ができれば御の字。身内でさえも、死に際に会える可能性は少ない。ましてや、雑渡と土井の関係だ。互いの死を知るのに、どれだけ時間がかかるかさえ、定かではない。
    「それはまた、途方もない奇跡を求められたものですね」
    「奇跡でなくても、方法はあるでしょう」
     土井の表情はいつも通りで、声音も特に変わった所はなかった。なのに、言葉の奥に何か、うっすらと、冷たいものを感じる。
    「方法、とは?」
    「私の死を、いちばん近くで見届けられる方法です」
     わかるでしょう、と言うように、土井の目が雑渡を見据える。その目は穏やかで、悪意も作為も感じない。
     雑渡にも、土井の言う意味はわかる。雑渡が土井の死を一番近くで見る方法。簡単な話であり、奇跡が積み重なるよりも、ずっと有り得る未来。
     雑渡が土井を、その手に掛けた時。雑渡によって息の根を止められるその瞬間に言葉を贈ると、土井はそう言っているのだ。
    「……それは、未来の私を惑わすための布石かな?」
     もしもの可能性を、思い浮かべた事がない訳ではない。あるかもしれないその未来では、雑渡の居場所と彼の居場所は敵対しているはずだ。「その時」に、雑渡の思考を鈍らせるために、おかしな事を言い出したのか。そんな風に思ってしまう程、土井の言葉には感情がなかった。
    「違いますよ」
     土井は相変わらず、うっすらと笑っている。細められた目と弧を描く唇から、視線が外せない。腕に、何かが触れる感触があった。土井の手が、いつの間にか渡の上腕に置かれている。
     だが雑渡はそれに構わず、土井の唇が続く言葉を紡ぐのを待つ。
    「私の死に際の言葉を聞けるのなら、あなたは生きているという事になるでしょう」
    「……それで?」
    「私はね、できる限り、あなたと共に生きていきたい」
     嬉しい言葉のはずだが、雑渡の心は少しも浮き立たない。雑渡の腕に触れている手に、少しずつ力が入っていく。雑渡が痛みを感じない、ぎりぎりまで。
    「でもそれが叶わないなら、せめて、あなたの心で生きていきたいのですよ」
     だからね、と続ける。
    「あなたの心のいちばん大きな傷として、残りたいんです」
     彼は何を言っているのか。一瞬、言葉の意味を取り損ねた。
     恋しい相手への想いを示す言葉を、彼は、凶器として使おうとしている。雑渡の心に言葉を刺して、傷として残ろうとしている。
     それは確かに、彼の切実な想いではあるのだろう。
     だが、あまりにも歪で、身勝手だ。
     反論して、やり込めてやりたい。苛立つ気持ちとは裏腹に、雑渡の手は勝手に土井に向かっていく。
    「それはもう、言葉にしているのと同じでは?」
     雑渡が土井の頰を撫でると、彼はくすぐったそうに笑った。
    「では、雑渡さんはこれで満足ですか?」
    「……いいや」
     土井の手が雑渡の腕から離れ、自身の頬にある雑渡の手に向かって移動する。動くことを忘れた雑渡の手に、指を絡ませる。土井はそのまま無抵抗の手を引き寄せ、唇で触れる。
    「良かった」
     嬉しそうに、土井が微笑む。
     美しい笑みだな、と思った。
     腹が立つほどに。
     彼と敵対する未来を望んだ事はない。そして今、その思いは更に切実になった。
     厄介な人に捕まってしまったな。
     それでも手放そうと思えないところが、本当に厄介だ。
     雑渡の心を知ってか知らずか、土井は微笑んだまま唇を寄せてきた。雑渡はそれを避ける事なく、静かに唇を重ねた。
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    Replies from the creator

    くるしま

    PROGRESS原作雑土13回目!最終回!終わりましたーーー!!!
    長々と2ヶ月も続いた連載もどきを読んで頂き、本当にありがとうございました!!
    途中全部消してなかった事にしようとした時も、スタンプ等で反応下さった方々のおかげで続けられました!

    今回も長めですが、半分くらいはエピローグみたいなものです。
    感想等頂けると喜びます。
    加筆訂正修正構成組み直しをした完全版は…夏辺りには何とかなるといいな…!
    原作雑土で連載してみる13 あまりにも意外な光景だった。
    「は?」
     思わず口から漏れた呟きに、土井が不審そうな顔をする。彼は尊奈門にしっかりと腕を掴まれており、無理に連れて来られたのは明らかだ。頭が痛くなってきた。
     尊奈門は雑渡と土井の反応を気にもせず、
    「それでは、私は任務に戻ります。夕方前には戻りますので!」
     ぱっと土井から腕を離し、入って来たのと同じくらいの勢いで行ってしまう。
     賑やかな気配が消えると、後には状況をよく飲み込めていない男が二人残された。
    「土井殿、何故ここに?」
    「……それを聞きたいのは、私なのですが」
     尊奈門に無理矢理連れて来られた不機嫌を隠しもせず、それでも土井は事情を話し始めた。
     彼は雑渡たちと同じく、この辺りでドクタケの事情を調べに来ていた。単身で。
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    くるしま

    PROGRESS原作雑土。雑渡ターンで土井先生の出番がなくて寄り道が多くて、全部書き直したい…と思いましたが、終わらせる事を優先。
    今回に限らず、後から全体的にザクザク消して書き直すと思うので、もし好きなシーンがあったら教えて下さい!なるべく残します!

    連載はあと2回で終わります!多分!
    5月終了まで10日を切りましたが、がんばります…!

    ……6/1(日)は実質5月でいいですよね……?
    原作雑土で連載してみる11 雑渡昆奈門が妻を娶る。
     そのような噂を流す羽目になったのは、黄昏甚兵衛の命令が原因だった。
     雑渡は頻繁に甚兵衛の元を訪れる。報告、命を受ける、もしくは甚兵衛の暇潰しのために。
     訪れる時間は様々だが、その日は夜に呼ばれた。夜更けの呼び出しは、人の目と耳を遠ざけたい場合が多い。
     主人の前に現れた雑渡は、まずいつも通りの報告から始めるよう言われた。雑渡はそれに応え、領内で起こった大小の出来事をすべて伝えた。甚兵衛は耳を傾け、追加の調査や対応を命じる。
    「報告は以上です」
     何事もなければ、雑渡のこの言葉に甚兵衛が承知の返答を寄越して終わりになる。
     だが今、甚兵衛は黙ったままだ。別件があるのだろう。
     薄暗い闇の中で、雑渡は次の言葉を待った。手元の扇子をいじりながら、少し間を置く主君の様子に、ぼんやりと嫌な予感がする。それは、長年仕えているがゆえの勘だった。
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