決闘②(CP要素なし) 決闘当日。
すべての準備を終えて、グエルはMSに乗り込んでいった。ラウダは彼をサポートすべくモニターの前に腰を下ろす。
最初は今回の作戦を立てたエランがこの席に座って兄をサポートするものだと思っていたのだが、昨日の夜になってエランから自分が兄のサポートをするようにという話を受けた。
「お前がサポート役に入るんじゃないのか? 僕はてっきり」
「僕がサポートしてもいいんだけどさぁ。ここはやっぱり、ジェターク家の信頼関係?っていうのを見せつけておいた方がいいと思ってね」
エランが言うには、今回の決闘は当然グエルが勝つ。その彼の勝利をサポートしたのは彼の弟であるラウダだということを印象付けることが目的なのだという。
「グエル・ジェタークの傍には、ラウダ・ニールっていう強力な補佐役がついてるんだってことを、ちゃんと見せておいた方が今後うっとおしく絡んでくるヤツラを一掃できるんじゃないかってね」
「なるほど。それはそれで有効な一手だと思う」
「そのために、ちょ~~っとキミには明日の決闘を頑張ってもらわないといけないよ?」
「頑張る? 僕が? 兄さんじゃなくて?」
「そう!」
エランは端末をラウダに見せた。明日の作戦の全貌である。
「……嘘だろ……何を考えてるんだ、エラン・ケレス。こんな作戦……」
決闘の場にあるトラップをサーチし、決闘しているグエルにリアルタイムにその場所を伝え、相手をそこに誘導するように彼の動きをサポートするというものだった。
「グエルはやるって言ったよ?簡単だって」
「あああああああもう、兄さん! 簡単に安請け合いしないでよ!」
あの兄なら言いそうなことだ、とラウダは頭を抱えた。それがどれだけ難しいことなのか、彼は分かってないはずがないのに。
それでも自分やエランのことを信じて彼は頷いたのだ。自分たちのサポートがあれば、勝てると。となればもう迷いはどこにもない。ラウダは腹をくくった。
「分かったやるよ」
「よしよし。じゃあ、現在分かっている分はこっちのデータで……」
エランのレクチャーの元、ラウダは必要な情報を把握し、理解し、頭の中で整理をしていった。
(絶対にやり遂げてみせる。僕が、兄さんを支えるんだ)
それは幼い頃、彼に出会った時からのラウダの変わらぬ誓いだった。
その誓いを胸に、ラウダはメカニック科のメンバーに指示を出す。必要な情報は全てこちらのデータベースにインプットした。あとは決闘本番を待つだけだ。
「これより双方の合意のもと、決闘を執り行う。立会人はブリオン寮寮長オーティス・ムーアが務める。決闘方法は1対1の個人戦。勝敗は相手のブレードアンテナを折ることで決する」
MSがキャリーされ、決闘の場の戦術試験区域9番にやってきた。MSに乗り込んでいるグエルは、緊張していた。
(えっとまずは……名乗るんだったな)
「MP001、グエル・ジェターク」
『KP029、カルロス・ビダル』
(で、口上を)
『勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず』
「操縦者の技のみで決まらず」
「『ただ、結果のみが真実』」
立会人が宣言する。
「両者、向顔。フィックス・リリース(決心。解放)!」
決闘が開始された。
***
(よかった…間違えなくてよかった…)
グエルは緊張から解放され、まずは自分の現在位置を確認した。すかさずラウダから付近のトラップ情報が送られてきた。
『兄さん気をつけて! 思った以上にトラップが設置されてる!』
「みたいだな。くそっ、こんなにあるのかよ……」
トラップに掛からないようにグエルはディランザを操作する。反応に対する操作性ををピーキーにしてもらったおかげで動かしやすい。その分自分への負担が増すので、あまり長いこと時間はかけられない。
「ラウダ! 相手の位置から一番近いトラップの場所はどこだ!?」
『今計算する!』
ラウダもぶっつけ本番の戦略に対して慎重に処理をすることで、かなりの緊張を強いられているのだが、これは他の者には任せられない。必死に計算をし、結果をグエルにフィードバックする。
「よし!」
連絡を受け、グエルは今いる場所を飛び出した。とにかく相手を誘い出さなければならない。遮蔽物から外へ出ると、すかさずビームが狙い撃ってくる。その方向から相手の位置が分かり、グエルはわざと退避をする。
『待てよ御曹司! 簡単にくたばったら面白くないだろう!? もっと俺と遊んでくれよ!』
オープンチャットで挑発されるが、グエルは意に介さない。
「そっちこそ、隠れてないで姿を見せたらどうだ。俺は姿を見せないような無礼者と遊んでやるほど暇じゃない」
『そんな見え見えの挑発に乗るかっての!』
ビームがまた放たれるが、グエルは余裕で回避行動をとる。するとインカムからラウダの慌てた声が聞こえてきた。
『ダメだ兄さん、そっちは……!』
トラップの配置を思い出し、グエルはしまったと思ったが遅かった。この方向にトラップがある。ビームの後不自然な爆破が起こり、煙幕によってグエルは視界を塞がれてしまった。
(しまった、これじゃ何も――)
『そこだ!!!』
声に反射してレバーを動かし、グエルは間一髪で敵の攻撃を回避した。危ない所だった。そういえば煙幕をつかって敵を攪乱することもやっていたな、とグエルは相手の戦術を思い出した。
「何度も同じやり方が通用すると思ってるのか。舐められたもんだな」
グエルはそう思うとなんだか腹立たしくなってきた。こんな雑魚にこれ以上無駄な時間は使っていられない。グエルは頭の中でラウダからの情報を整理した。この場所ならあの作戦が使えるだろう。作戦というほどのものでもないのだが。
「ラウダ、方向が分からない。サポートしてくれ」
『了解。位置を送るよ』
ラウダからの位置情報を元に、グエルは見えない視界を移動する。トラップを慎重によけながら移動し、敵を探る。
『ヤツは近い所に潜伏してる。方向は――』
「オーケーだ。仕掛けるぞ」
グエルはディランザで一気に相手との間合いを詰めた。急に突進してきたグエルに、相手も意表を突かれたらしく、咄嗟に回避ができなかった。2体のMSがぶつかり合う。
『こんな攻撃が効くかよ!』
ただただ突進するだけの攻撃に、相手はグエルを嘲笑する。が、グエルは無視して相手のMSをそのままトラップがある方向に一気に押しやり、自分は全力で回避行動をとる。
「自分のトラップをくらいな!」
『何……っ、う、うわあああああああああ!』
爆発とともに、相手のMSは吹き飛ばされる。吹っ飛んでった先にはグエルのディランザが待っていた。相手は爆風の影響ですぐに体勢を立て直すこともできない。
「これで終わりだ!」
声と共に、グエルは相手のブレードアンテナをへし折り、勝敗は決した。
『勝者 グエル・ジェターク』