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    tetezatsu

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    kiisセクピスパロBルート没バージョン
    支部の正規版読了後推奨

    #カイ潔
    chiFilth

    kiisセクピスパロBルート(人をめちゃくちゃ選ぶ版)   絵心に申請した部屋は個室となっている。その部屋の用途は病人用として用いられることが多かった。それに加え、潔は知ることもなかったが恐らく斑類同士の。……そういう場所にもなっているのだろう。元々性に奔放な種族だ。溜まるものは溜まる。
     潔は重たい足取りでベッドへ向かい、そのまま身を投げ出した。スプリングがしっかりと効いており身体は数回跳ねる。うつ伏せの状態のまま、彼は動かなくなった。脱力して胴体を伸ばしている。今はもう、指一本ですら動かしたくなかった。
     しかし思考だけは動いていた。ぐるぐるとずっと言葉が巡っている。氷織の人魚の気が毒だという話。あれは潔ではなくこの身体に残っているカイザーのものだろう。潔の擬態は絵心に徹底的に扱かれた結果、完璧だった。
     だが彼らをあそこまで追い詰めたのは、潔のものだった。無意識に発していた気が彼らをあそこまで消耗させた。
     もう、なんだか分からなくなってきた。何が正しいのか。何がダメなのか。斑類のことを知っていたと思っていたのにその実知らないことの方が多い。ことなど、分かるはずもない。
     いっそのこと、この世界のことを知らなければ良かったとすら思う。そうであったら彼らを傷つけることもなかっただろうし、カイザーとのいざこざも無かっただろう。でもそれは嫌だった。水を。海を知らないで生きるということはもう考えられなかった。ああ、水が恋しい。海に帰りたい。今はシーツの海に溺れるしかできない。
     この強大過ぎる力の使い方は掌から余りあるほど零れ落ちる。制御の仕方が分からない。教えてくれる人は。……一人しか、浮かばない。ミヒャエル・カイザーしか居ない。
     狭く限定的なコミュニティ。相談する相手は存在しない。だがあれの後だ。嫌だ。気は進むものではない。そもそもこの相談をしたところで彼から返ってくる言葉があるだろうか。「それがどうした?」という返答のような気がする。これは先ほど潔も思い知ったこと。結局は自分の種族以外のことは分からない。知ることもない。――興味も、ない。
     身体を動かしていなくとも脳を動かしていれば疲労は襲ってくる。そろそろ意識を保つのも難しくなってきた。徐々に霞み、黒が紛れる。今日はもう終わりにしよう。色々とありすぎた。整理する時間も、身体を休ませる時間も。どちらとも欲しい。が。切りをつけなければ終わらない。
     そして視界は黒に染まる。

     *

     次の日から三日間、絵心によってブルーロック全体に休養が言い渡された。満足に動ける者が限りなく少なかった為である。
     潔はその間、こんこんと眠り続けた。現実から目を背けるように。だがその中で潔を繋ぎ止める何かがあった。
     夢を、見ていた。
     
     
     泡が、好きだ。自由に海を漂う自分たちの仲間だから。そして海の呼吸を地上へと連れていくものだから。海の中でも生きているという証拠品。
     呼吸の仕方は変わらない。自分たちは鰓を持たない。肺で呼吸をしている。生まれ方も卵ではない。母親の胎から生まれてくる。
     じゃあ地上にいる生き物と変わらないじゃないか。
     でも自分たちは違うらしい。線引きがあるらしい。なんで? どうして? 同じじゃん。呼吸も生態も分類も。
     住んでいる場所が、違うだけ。
     でもそれがかなりの差、なのだと言う。力の差もそこで出ていると彼は言う。
     同じではない。そうはっきりと告げられた。認めたくはないその事実だけが襲う。違うは怖い。だって仲間外れにされるから。生物は、少なくともヒトは一人では生きていくことができないとされている。集団でいるからこそ生きていくことができる種族だった。
     仲間外れは一人になってしまう。じゃあどうすればいいのか。順応して生きていくしかない。適応するしかない。その群れに。
     適応能力の天才だと人は言う。けれど。……分からない。どうやったらこの力とうまく付き合えるのかが分からない。サッカーは小さいころから身近にあった。物心ついた時から知っていた。
     でも、これは。知らない。誰も教えてくれる人が居なかった。知らないことをやれと言われてもできない。できるはずもない。
     助けてくれ。そう声に出しても。それを聞けるのはたったの一人しか居なかった。
     その手を取るのか取らないのかは、自分次第。……それによって大きく変わってしまうのも、なんとなく察していた。
     ……海の話を、しよう。
     いつの日か魂で見た話だ。
     深い水中。底が見える深海。だがまだ溝はあった。その溝からはまた奥深くまで潜れるだろう。だがそこは自分たちの領域ではない。主は深海魚。彼らのテリトリーだ。光一つも通さない深い黒。その場所から手招きしてくる何かが見える。
     けれどそれは取ってはならない。今泳いでいる自分と、彼ら。住む場所が違う。生態も違う。
     近くを泳いでいた一匹の鯨はその手を視界に入れたが、一瞥だけしてすぐに目の前へ視線を戻した。興味がない、というより、自分はそちらの住民ではないことを示すための視線だった。
     そう。鯨はそちらへは行かない。行けない。
     自分たちは深海の黒を知らない。その分、深海魚たちは海に差し込む太陽の光を知らないだろう。
     同じ海に住んでいても明確な線引きや差は存在する。それはこの海だけに限るものではない。地上でも同じ。
     斑類の世界でも、同じことだった。

     人魚は一人泳ぐ。仲間を求めず。ただ広大な海を漂っていく。
     彼は泣いていた。一人は寂しくて泣いていた。しかし仲間は存在しない。なぜなら彼自身が――てしまったから。そう。仕方ない。こうなってしまうのだ。
     本能が、そうだと叫んでしまったから。思考を止めたから。
     そう。これが世界。本能に勝てなかった男の世界。

     *

     三日間眠り続けた潔の起床は、気持ちの良いものとは到底言えないものだった。それもそのはず。自然に起床したのではない。外的要因による起床であった。
     物理的にではないが、精神的にガツンと殴りつけられたような衝撃。それにより無理やり意識を覚醒させられる。その正体を捉えるべく、億劫ではあるが目を開いた。開けた途端、潔の意識は一気に浮上し声が出る。
    「カ、――ッ、ゲホ、ゴホッ」
     その声は全て出し切る前に圧し掛かっていた男、カイザーの大きな手によって阻止された。また三日振りの起床、並びに発声。喉が無理だと反応する。口から出る風は全てカイザーの手によって防がれていた。反射で出た席はすべて彼の手に受け止められた。
     咳が止まらない潔の身体全体にカイザーの体重がかけられている。身動き一つとれない。動かせるのは目と指先程度だった。
    「ああ、少し静かにしてくれ世一」
     空いている片手の人差し指を唇に当ててジェスチャーでも伝えてくる。
     いやお前の手によって塞がれているんだが。
     それに咳も生理現象で無理矢理止められるわけもなく。声が出ないのであればと、あの人魚にしか伝わらない雑音も水中以外では不可だ。今出そうとしてその事実を知った。音は出ない。
    「一つお前に問おうか」
     彼の眼は怪しげに光る。その目は――人間ではない。何かのスイッチが入っている。強者のオーラを纏っていた。それに加えて赤。あの時の、狂っていると感じた際の色も見える。
     この男はダメだ。正常ではない。問うと口では言ってはいるが話を聞く体勢でもない。だが彼の眼は本気そのもの。今潔が何を言おうとも彼は本気で捉える。冗談なんて言えるものではない。言ったら、……それが潔の本心からの言葉だと勝手に変換されるだけだ。
     考えろ。思考を止めるな。寝起きで働かないなどと言っている場合じゃない。この男が何を求めているのか。それを把握して行動に移さなければ。
     潔世一に未来は、ない。
     カイザーの狂気に満ちた目を見る。赤いそれはまさしく人魚だった。強者だった。頂点に立つ者のそれだった。
     しかし瞳はかすかに揺れている。何かに怯えている。それだけは、分かる。じゃあそれは何に、と聞かれたらはっきりとは分からないけれど。
     カイザーはいつもの調子で口を開く。その風貌はまさしく皇帝。
    「お前は、俺の手を取るか。取らないか」
     彼の空いていた左手は世一の首元に添えられる。
     あ、これは。
     まずいと直感した。昨日の。実際には三日前の出来事ではあるがそう錯覚した。それほどまでに残っているあの場所の記憶。思わず息を呑んだ。しかし思っていたものは直ぐには訪れない。
     そもそもだ。言動が矛盾している。なんだ、手を取るって。カイザーの両手は今塞がっているようなものじゃないか。そんな潔の思いは届かない。伝える手段が皆無であったから。その為カイザーは淡々と言葉を告げる。
    「世一。お前は知っただろう」
     人魚の立ち位置を。
     人魚の力を。
     そして。人魚がどれ程孤独なのかを。
     一音一音大切に彼は言った。刻むように。教え込むように。
     それを聞いた潔の瞳も揺れる。目元に影が落ちた。
     そうだ。カイザーの言うことは何も間違っていない。ここ数日で特に実感した。出そうと思わなくても勝手に斑類を引き寄せるフェロモンは出るし、傷つけようと思っていなくとも勝手に傷つける。大事にしたいものが大事にできない。そしてこれを誰かに相談しようと思っても、出てこない。該当するものがいない。共感を得てくれる人も居ない。
     居るとすればただ一人。今潔の上に乗っている男。同じ人魚のカイザーだけ。同じ立場に居る者にしか、この事柄は分からない。
    「人魚は孤独だ。同胞に会える確率もとんでもなく低い。そんな世界で俺とお前が会えたのは奇跡だと思わないか?」
     なに。奇跡。奇跡って。……カイザーと、同じ人魚に会えたことが、奇跡だと。そう言うのか。
    が無いのは辛いだろう。哀しいだろう。寂しいだろう」
     顔が近付いてくる。鼻と鼻が付きそうなほどの距離。息が直接降り掛かる。潔の口に触れる手が、僅かに揺れる。力が篭っている。
     目を逸らせない。逸らすことを許されていない。
     否定されるかもしれないが、これが二人の初めての対話だった。コミュニケーションだった。きっと知らないのだろう。関係を構築する方法を。友好の築き方を。
     だって潔だって知らなかった。人魚以外の斑の生き方を。だったらカイザーだって知らない。人魚の生き方しか知らない。
     これは執着。初めて出会った同胞への執着。そしてその同胞を増やしたい、斑の本能からくる生殖への執着。それが少し、過激に出ているだけ。
     潔はその感情を感じ取ってしまった。同じだからこそ分かってしまった。
    「手を、取ってくれ。世一」
     そう、彼は言う。潔に共感を、同胞を求めている。分かる。その気持ちは痛いほど分かってしまう。一人は寂しくてしんどくて辛いものだ。それは今回の出来事で少しだけ分かってしまった。
     だが。
     潔にはその手を取ることができない。手を取ってしまっては駄目だった。その行為はつまりカイザーへの隷属契約に等しい。負けることと同義。カイザーが勝者となってしまう。
     その可能性を悟っただけで警笛のように本能が只管叫んでいる。その手を取ったら、負けを認めることになる。
     それだけは。それだけは潔の本能の中に眠るが許しはしなかった。他人の下に下ることを良しとしなかった。人魚は絶対的な王者である。それが揺らいでしまうと鐘を鳴らす。ガンガンと、脳内で、五月蠅いほどに。それは響いていた。
     心地よいものではない。最早ノイズ。雑音。テレビの白黒の砂嵐のようなそれは潔の五感を覆いつくす。やめろ。いくな。手を取るな。
     お前は誰だ? 俺は。そうやって語り掛けてくる。知らない声が。潔の思考を全部埋め尽くして。ノイズが、思考を回すことを、止めて。
     塗りつぶ、され、て。あれ、い、や、……あ、おれ、は。
     ……終焉。思考の停止。潔はノイズに負けた。自分の、潔世一の思考を保つことが不可能になって。やがて抵抗すらも飲み込んでいく。
     そして彼は口を開いて告げる。果たしてこれは誰の意思なのか。不明なままで。
    「――一人で泡に、縋ってろ」
     そう告げて。……カイザーの手を払い除けた。彼の、世一からの拒絶だった。線引きが為されてしまった。もう決して交わることのない境界線。それは誰も超えることのできない壁。
     同じ人魚ですらも立ち入ることのできない壁を、潔は作り上げてしまった。
    「どけ」
    「……ッ!?」
     どん、と見えない何かにカイザーの身体は押された。それは言わば圧力。カイザーが初めて経験するだった。
     その言葉を発しただけで彼の上にのしかかっていたカイザーの身体を跳ね飛ばす。手も何も使わずに。ただ、人魚の圧力だけで。人魚歴も、強さも上であるカイザーを跳ね除けてしまった。
     目を白黒させながら何が起きたのかカイザーは把握できていない。つい先ほどまでは体格も、人魚としても上にいたカイザーが潔に弾き飛ばされた。それはつまり、カイザーは潔のになってしまった、ということであり。
     それは即ち、二人の人魚の争いの勝者が決定してしまったということ。
     潔は勝ってしまった。独りということに無意識に怯えるカイザーに。
     潔世一は、人魚として上に立った。皇帝を下し正真正銘の頂点へと君臨してしまった。
    「俺は、誰にも。誰にも触らせない。怖い。一人で良い。……一人に、なってしまう、いやだ、けど、俺は」
     言葉は支離滅裂で覚束ない。ベッドへ未だ横たわる潔の四肢も脱力しきっている。恐らく本人にも今何が起きているのか分かっていない。混乱している。理性と本能の鬩ぎあいが彼の中で起きていた。
     まだこの状態だったら潔世一を浮上させられる。己も地面に投げ出されて、まだ状況の整理が付いていない中にも関わらずカイザーは思った。彼は今吞まれている。本能に喰われている。気付けばこの部屋は人魚のフェロモンで覆われていた。もう誰も立ち入ることのできない殻。
     それは同じ人魚であるはずのカイザーですら、苦しい場所となり果ててしまった。何物でもない、潔世一によって。
     暴走状態の潔を止めたい。止められるのなら。しかしある場所を見て、それはもう起きえないことだと悟る。
     潔の目は、深海の色をしていた。もう人間の目ではなかった。
     ――ああ。もう無理だ。
     こんな経験などしたことがない。だがカイザーは直感的にそう思った。もう目の前にいる潔が引き返せない場所まで行ってしまったことを思い知る。
    「……そうか。お前は本能に負けたのか」
     ――人魚に喰われたな、世一。
     彼はそう、ぽつりと呟いた。
     何が引き金になったのかは定かではないが、こうなってしまった原因の一つに恐らくカイザーは居た。人魚の圧力に気圧されながら、少しだけ懺悔した。
     彼もずっと一人だった。周りに同じが居なかった。そう、寂しかっただけ。一人が嫌だっただけ。でもその願いからの行動はどうしてか、同じ一人を生み出しただけだった。
     この瞬間。二人の人魚は一人と一人に隔てられた。
     もう交わることは、無い。明確な線引きがそこにはあった。

     海。それは母でもあり命の還る場所にも成り得る場所。生命で満ちている場所。そこで泳ぐ一匹のクジラ。全身25m程のシロナガスクジラがそこには居た。
     優雅に尾鰭を動かしゆっくりと動いている。周囲には微細の泡。まるで服やベールのようにしてそのクジラに寄り添っていた。
     くるり、と左に一回転。同時に大きな波が立つ。
     またくるり、くるり。
     身体を動かすだけで大きな波がいくつか発生した。水を押し退ける力が強い為だった。大きな体で水が押されれば波ができる。それに巻き込まれたらひとたまりもない。
     だからなのか。そのクジラの周りには生き物と呼べるものは一切見当たらなかった。共に居るのは泡だけだった。
     彼は王。孤高の王。この海の支配者たるシロナガスクジラ。名を潔世一。
     同じ種族は誰一人として居なかった。彼一人だけがそこにいた。冷たく広い、海の中で彼は一人きり。
     寂しくないと言えば噓になる。けれどこうするしかなかった。彼の本能の中にいる人魚が負けることを許さなかった。それを押し退けられなかっただけ。流されるままになった結果だった。
     でも、悲しくはない。これが正解だった。だってこんな広大な海を知らずに生きていくのもまた、悲しいものだと思ったから。
     太陽が差す海面と、光が入らない深海。どちらも愛すべき海。彼の帰る場所。
     そして支配者。皇帝。
     この海全部が、彼の物だった。

     陸に上がればまた変わる。潔はブルーロックを脱獄後、単身海外へと渡る。ドイツのとある一チームに所属し、そこで圧倒的なエースとして君臨していた。
     チームに所属すると同時に、潔世一は自身が人魚であることを公表した。もうこれ以上は隠せなくなってきたからである。猿人のガワを被ろうともあふれ出る人魚のフェロモンと圧。どうすることもできない。だから彼は公表した。斑類の頂点に君臨する人魚であることを。
     メディアや周囲は同じ人魚であるカイザーと並べ二人の人魚の対決と押し出した。しかしそれは成しえない。二人は同じ場所に立っていないからだった。人魚にしか分からない明確な差が二人の間にはあった。
     完全に人魚に成った世一はステージが違った。ひとつ上の段に居た。まだミヒャエル・カイザーの理性を残しているカイザーには届かない場所だった。
     五感を人魚の本能に委ねた潔は敵など居なかった。ハットトリックは当たり前の次元になってしまっている。彼一人でゲームが崩壊してしまうとまで言われるレベルだった。

     潔は世界一のストライカーになった。だが、そこに彼のエゴはない。もう人形のような。そう表すのが正しい何かだった。
     その姿は知る人間からすれば哀れだった。もう監獄にいた彼はどこにもいない。潔の意志が残っているのかも定かではなかった。
     そこにいるのは人魚が作る潔世一だった何か。
     カイザーは敵チームに居る潔を見た。その目に乗る感情は何と名の付くものであるのかは、彼しか知らない。
     ただその瞳の色だけは、潔と揃いの深海だった。



    Bルート:孤高の皇帝END
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