【空蝉日記 短編】炎天直下の朦朧近年、気温が上がるのが早い。
つい先月まで、『まだ初夏なのにこの暑さだなんて、夏本番はどうなっちまうんだ』と警戒心を燃やしていた自分に言ってやりたい。
そんな生易しいもんじゃないぞ、と。
夏は嫌いではないが、好きでもない。いや、子供の頃は大好きだったけど……ある時から、なんとなく、この刺すような日差しを疎むようになっていた。
さて、それはいつの話だったか。
予想の何十倍もの猛暑に晒された俺は、日陰のベンチにそっと腰掛け、気休め程度に缶コーラで身体を冷やす。
今日はギターの練習の為にスタジオに来ていたのだが、昼過ぎには切り上げてしまったことを少し後悔する。もう少し暗くなってから帰ればこんなにも燦々と照る太陽にイジメられなくて済んだだろう。
五月蝿い蝉の鳴き声。
暑苦しい日差し。
時おり木々の隙間から吹いてくる、少し気持ちのいい風。
色々な要素が重なって、思わずぼーっとしてしまう。このまま寝落ちたら熱中症になっちまうかななんて、呑気に思いながら。
この感覚を、この音を、匂いを、俺は、知っている気がする。かつてどこかで、同じものを見た気がする。
蓋をしていた記憶の箱が、激しい蝉の合唱に揺さぶられるようにして開きかける。
(あぁそうか、"あの娘"が死んだのも、こんな季節。)
かつての想い人の姿が瞼の裏に浮かんだ。
まだ俺が小学生の頃に出会った、初恋の女の子であり失恋の相手。そして───俺が生まれて初めて間近で見た、本物の人間の死体。
縄で吊るされた彼女の姿を見付けた時も、今みたいに回らない頭でぼーっと眺めていたような気がする。当時は、混乱と衝撃で身体が動かなかった。
(あの娘が自殺した後、俺、どうしたんだっけ。直後に引っ越したからなぁ。)
『でも、周りの大人が憎かった記憶だけは覚えてる』。
彼女はいじめを受けていた。
でも、みな面倒事を避けるようにして見て見ぬふりをした。俺が支えになれればって思ったけど、彼女の決断を食い止める存在としては力不足だったようだ。
今生きていれば、俺と同い年か。俺のギター、好きになってくれたりしたかなぁ。
ライブ、見に来てくれたかな。
(…………会いたいなぁ。)
君へのその想いだけで、今でも燻る再開の願望。そっちへ行きたいよ。
でもそれじゃあ俺の周りの人達が悲しむよな。親とか、友達とかさ。特に美乃璃。
あぁ、最後のは俺が仲良くしてる女の子ね。大丈夫、付き合ってる訳じゃないよ。
君によく似た娘だとは……はじめ見た時に思ったけど。
(俺が、"一緒に死のう"つったら着いてきてくれる人どのぐらいいっかな。いや、普通居る訳ねぇんだけど。)
俺も俺の周りの人達も、みんな居る、みんな揃う場所へ行きたいなぁ。
───夏になる度、うだる暑さの中であの少女に誘われる。