【空蝉日記 短編】片利共生一通りの多い休日の駅前。自身の通う風薫里高校の最寄り駅にて待ち合わせをしていたのは望月 英真だった。
学校でないのをいいことに、普段よりピアスの数も多く、派手な装いで人目を引いていた。待ち合わせの相手は同じ学校の、最近新しく出来た彼女。
ボーッとスマホを見ていた英真に、数分ほど遅れてやって来た待ち人が声をかけた。
「おまたせーっ!見てみて、デートコーデ〜!」
「お〜可愛いじゃん!」
やってきた少女の服装を褒め讃えつつ、二人は距離を縮めながら歩き始めると、近くの珈琲店やブティックを転々とした。
「最近構ってくれないから寂しかったんだよ〜?」
「うっそつけ毎日LINEしてんだろ〜w」
「でも、英真くん普段自分のクラスの人達と一緒に居ること多いからちょっと寂しくて〜。」
「ん?誰のこと?」
「ほらほら、白鳥さん東雲さんとか……あともう一人なんか居たよね?」
「あ〜千尋な。」
確かに、英真は普段同じクラスに所属する白鳥 紅花、東雲 月乃、静 千尋とよく共に行動することが多く、クラスの中で最も会話することが多いのもこの三人だった。
「仲が良いっつーか……紅花は一方的に俺に突っかかってくるだけ。んで、それに月乃が乗っかってるって感じ。」
「え、じゃあちゃんと仲良いのは千尋さんって人だけ?」
「んまぁぶっちゃけそうなるな。」
「え〜でもあの人、結構暗い感じしない?見た目も地味だしさ。」
「あ〜俺も最初思ったわ。なんかオタクっぽいっつーか陰キャくせーなって。でも話してみると結構口が達者でさ。だってあの月乃に噛み付くぐらいだぜ!?スゲー度胸だろまじ。あと意外と頼りになんだわアイツ。」
「頼り?」
「そっ、頭いーからベンキョとか付き合ってくれっし、機械とかにも強いから前に俺のスマホ治してくれたこともあってさ!」
「えーなにそれすごいねー!」
テイクアウトした新作のコーヒーを味わいつつ、どこか自慢げに友人の話を語る英真。……そんな彼の言葉を聞いていたのは、その場にいた隣の"彼女"だけではなかった。
「ふふ……英真……嬉しいなぁ。頼りになるなんて思ってくれてたの?」
新調した盗聴器に手を当て、大好きで大好きでたまらない友人の言葉を一語一句聞き逃さぬよう、耳を澄ませた。それでも彼……静 千尋の心はモヤモヤとしたままだった。
「───でも、この女だけは嫌。」