おやすみとおはようベッドに並んで横になり、向かい合って取り止めもない話をポツリポツリとする。
そうしてるうちに、瞼が重くなるのはいつも咲子の方だ。
そうなった瞬間、咲子は大きな瞳を更に見開いて力を入れる。まだ眠りたくないという意思表示だ。
その一生懸命な様子が可愛くて、磯貝は小さく噴き出しそうになる。
「眠い?」
「まだ大丈夫、です…」
そう言いつつも咲子の瞳は、またゆっくり閉じていきそうになる。
磯貝が手を伸ばして頬に優しく触ると、咲子は気持ちよさそうに頬を摺り寄せた。
そして、とうとう抗う力を無くして瞳を完全に閉じた。
「おやすみ」
「おやすみなさい…」
もう夢うつつの状況だろうに、律儀に返答する咲子に磯貝は今度こそ噴き出した。
そして、あどけない表情で眠り始める咲子の額に、磯貝は優しく唇を落とす。
何よりも愛おしくて。
何よりも大事で。
磯貝はそんな幸せを噛み締めながら、瞳を閉じたのだった。
ーー
咲子が目を覚ますと見慣れない、けれども最近よく見る天井が目に入った。
体を右に向けると、磯貝の寝顔が目の前いっぱいに広がった。
咲子は口元を綻ばせる。
普段眉間に少し皺を寄せて厳しい表情――咲子と2人きりの時はそこまでではないが――は緩み、前髪が下りていることでいつもより幼くも見える。
自分だけが知っている姿。
でも何よりも好きなのは――
「…ん……?」
掠れた声と共に、ゆっくりと開いていく目。
磯貝は少し焦点の合わない、ボーッとした表情で咲子を見つめる。
そして何度か瞬きをして、咲子が見つめていることに気づいて破顔した。
「おはよう」
――この瞬間。何よりも愛おしい時間。
あと数秒もしないうちに磯貝は覚醒していつもの表情に戻るだろう。
照れ屋な彼も、寝ぼけている彼も、咲子だけが知っている。咲子だけのもの。
「おはようございます」
咲子は幸せを噛み締めながら、磯貝に優しい微笑んだのだった。