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    磯咲。ちょい甘め?

    #磯咲

    蝶の羽ばたき店の予約時間まであと1時間。少し空き時間ができたので、磯貝と咲子は有名チェーン店のカフェで時間を潰すことにした。
    窓際のカウンター席がちょうど並んで空いているのを見つけた2人はそれぞれハンカチを置いて席を取り、カウンターへ飲み物を買いに行く。
    磯貝はアイスコーヒー、咲子はアイスカフェラテをそれぞれのレジで注文し、飲み物を受け取って席に戻った。
    「あれ?デザートは頼まなかったの?」
    席に着いた磯貝が咲子のトレイの上を見て首を傾げると、咲子は大きく頷いた。
    「この後のためにお腹空かせておきたいので我慢しました」
    「なるほど」
    咲子らしい回答に磯貝は笑みを浮かべつつ、ストローを口に含んだ。
    真夏の暑さにやられていた体に、コーヒーの冷たさが口元から喉、そして胃へ、そのまま体全体に染み渡るように感じる。
    咲子も同じ感覚を感じたのだろう、磯貝と同じようにホッとため息をついていた。
    「今日も暑いですね」
    「本当にな。マスクしなくても良くなったとはいえ、暑いのは結局変わらないし…」
    磯貝が窓の外に視線を向けたので、咲子もそれを追う。窓の外の行き交う人々のほとんどがもうマスクをしていなかった。
    日常が戻ってきたのだなぁと、咲子は口元に笑みを浮かべ、そのままなんとなく上を見上げると、ビルの大きな看板が目に入った。
    「胸キュン…」
    「え?何?」
    いきなり話が飛んだので、今度は磯貝が咲子の目線の先を追う。大きな看板には少女漫画を原作とした映画の宣伝ポスターが貼ってあり、そこにデカデカと書かれていたフレーズが咲子の呟きと同じものだった。
    「あの原作の漫画、読んでたっけ?」
    「あ、いえ。気になってはいたんですがまだ読んでなくて」
    咲子は慌てて首を振る。
    先ほどの呟きの謎が深まってしまった。
    磯貝は首を少し傾げつつ、話の先を促す。
    「えっと…胸キュンって言葉、少女漫画じゃよく出てくるじゃないですか」
    「うん」
    「でも現実だとお腹キュンじゃないかなって前から疑問に思ってて」
    「…うん?」
    咲子の言葉に磯貝はたくさんの疑問符を頭に思い浮かべる。そんな彼に咲子は苦笑を浮かべた。
    「えーと…上手く言えないんですが、この辺りがギュッとするというか、ソワソワしたりするというか…」
    咲子は自分の腹部の少し上辺りに手を置き撫でた。
    磯貝はその説明を聞いて、ようやく腑に落ちた。
    「なるほど。蝶がいるんだな」
    「チョウ?…ってあの蝶々ですか?」
    磯貝の言葉に今度は咲子が首を傾げた。
    「そう、虫の蝶々。フランス語では恋愛でドキドキする時に『お腹の中に蝶々がいる』って表現があるんだ。実際、お腹の中で蝶が羽ばたいているような感覚を感じている人が多いらしいよ」
    「へー!」
    「これが英語だと緊張した時とかに『胃に蝶々がいる』って言ったりするし、面白い表現だよな。でも実際に恋愛とかで感情が動くと胃の入り口が収縮するらしいし、言い得て妙という、か…」
    途中まで楽しそうに話していたのに、どんどん言葉が尻すぼみになっていく磯貝に、咲子は首を傾げる。
    そのまま磯貝は眉間に皺を寄せて、咲子から目線を外して窓の外を向いてしまった。
    「磯貝さん?」
    「あ…いや…柄にもないこと話したなって思って…」
    磯貝はそのままストローを口に含んでコーヒーを飲み出す。
    どうやら恋愛関連の雑学を披露したことが照れくさかったようだ。
    その横顔が可愛く感じて、咲子は胃の辺りがギュッとするようなソワソワするような感覚を味わった。
    言われてみれば、まさに蝶々の羽ばたきだ。
    「そっか…磯貝さんといると感じてたコレは、蝶々が騒いでたんですね」
    「え?」
    咲子の独り言に近い呟きに磯貝が咲子の方へ振り向く。
    咲子は自分の先ほどの言葉を反芻した。そして耳まで顔を赤くする。
    「あ、えっと…その…!」
    咲子の慌てた様子に、磯貝は聞き間違いでないと理解し、彼もまた同じように顔を赤くした。
    「……俺のも、そうかも…」
    磯貝はそう言ってまた目を逸らしてしまった。
    だが咲子は顔を赤くしたまま優しく微笑みを浮かべた。
    彼なりの精一杯の言葉だとわかっていたから。
    ――2人のお腹の中の蝶はしばらく羽ばたいたまま収まることはなかった。
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