嫉妬からこじれる二人 大学の入学式で出会う二人。
広い大学構内でヴァッシュが迷子に成っているところを、ウルフウッドに助けて貰う。
「あっちやで、教室」
「あ、ありがとう」
指さして、教室の方向を教えて貰っただけ。
時間が無くてお礼しか言えなかったけど、綺麗な子だなってウルフウッドに一目惚れするヴァッシュ。
その後、大学内を探すけれなかなか出会えない。
人当たりも良く、明るく優しいヴァッシュには友達もおおい。その日は、友人に誘われてクラブに行くことに。
今まで、ヴァッシュは夜遊びなんてした事が無く慣れない場に人酔いをして、カウンターの一番端。人気のない席で、一息つく。
「だいじょうぶか、水飲むか?」
カウンターから、若い男がグラスに入った水とともに声をかける。
「ありがとうございま……あぁ、君は!」
水を差しだしてくれたのは、ヴァッシュがずっと探していた男、ウルフウッド。
「な、なんやお前」
「君をずっと探していたんだよ」
「なんで、わいを?」
今までのいきさつを事細かに話し始めるヴァッシュ。
「入学式の日、助けてくれてありがとう」
「礼言われるほどのことやない」
「あの日にさ、君に一目惚れしちゃって」
「……は?あほ言いな」
「嘘じゃないよ、すごく綺麗な人だなって思って」
「ほぉん、さては誰にでも言うとるな、この色男」
「色男?ちょっとは、僕のこといいって思ってくれた?」
あっという間に仲良くなりまずは友達から。
大学でも、専攻科目が一緒なのに全然見つからなかったのはウルフウッドがオーラを消すのがものすごく上手だから。
真っ黒な服で、いつも教室の端っこにいて目立たない。
同じ授業を受けていたのに、まったく気が付かないまま3ヶ月が経過していた。
「声かけてよ」
「おんどれが、わい探しとるなんか知るか」
「もっと早く仲良くなれたらなぁ。今頃はもう、君は僕の彼氏だったかもしれないのに」
「すごい自信やな」
「だって、僕はこんなにウルフウッドのこと好きなんだよ。彼氏に成って貰わなきゃ困る」
「なんやそれ、こっわ」
こんな日々を繰り返し、夏が終わる頃には友達から親友に。
ウルフウッドは、変わらずクラブでのバイトを続ける。
「ここのバイト、ちょっと怖くない?」
「なんでや」
「お酒飲んでる人多いし、パリピばっかりだし」
「学校と両立できるし、時給えぇからなぁ」
「お客さんに、口説かれたりしない?」
「……まぁ、たまに」
「やっぱり!ダメだよ、付き合うならまず僕にしてくれなきゃ困る」
「困るってなんや」
「そろそろ、僕のこと彼氏って認めてよ」
相変わらずくどくヴァッシュとそれを止めることなく、笑顔で話を聞きながら側に居るウルフウッド。
一番の友達じゃダメなのかなと思っていた矢先、ヴァッシュが大学の友達に告白されている場面に出くわしてしまう。
「ごめん、僕好きな人が居て」
「知ってる、ウルフウッドでしょ。……全然、見込みないじゃん」
「そうだね、でも僕は彼がいい」
「わかった」
走り去る友人に隠れるように、一部始終を盗み聞きしてしまうウルフウッド。
ヴァッシュが誰かの物になってしまうかもしれない、彼の隣が自分以外の誰かに奪われるかもしれないと思うと居てもたっても居られず、姿を現し気持ちを伝える。
「わいもヴァッシュが好きや……たぶん」
「ウルフウッド!……たぶん、ってなに」
「ちょっとまだ、自信ない」
「なんだよ~。そこは、ヴァッシュ大好き♡ って言ってよ」
「はやいねん、おんどれ。わいのペースにさせぇ」
「嘘だよ、好きって言ってくれただけで嬉しい。僕の恋人になってくれるよね?」
「……おん」
秋から冬になる頃には、二人とも気持ちをしっかり伝えて正式に恋人同士になる。
とにかく性急で、ウルフウッドとの距離を名実ともに縮めたいヴァッシュは恋人であることを公言し、同棲しようと相談を投げかける。
「ねぇ、バイトまだ続ける?」
「慣れたところがえぇねん」
「ウルフウッドモテるから心配だよ」
「わいの恋人は、オンドレやろ。ちったぁ、自信持てや」
ウルフウッドはそう言ってくれるものの、ヴァッシュは心配で心配でならない。
バイトが終わる時間に、こっそりお迎えに行って自宅まで送ったり。バイト先に、こっそり遊びに行って様子をうかがったり。
「今日、お客さんに絡まれてなかった?」
「なんや、来とったんか。声かけぇや」
「……親密そうにしてたから、声かけにくかった」
「あほいいな、酔っ払いの相手しとっただけや」
大学でも、目立たないように過ごしていたウルフウッドだが、人当たりのよく友達の多いヴァッシュと過ごし、次第に共通の友人が増えていく。
「ウルフウッドって、もっととっつきにくいタイプかと思ってたわ」
「なんでや、んなことあらへんよ」
「大阪弁ってのも知らなかったわ」
「珍しないやろ、他にも関西から来とるやつおるし」
「綺麗な顔で大阪弁ってギャップがなぁ、なんかこういいわ。そそる」
「わかる、そそる」
わいわいと盛り上がる輪の中で、ヴァッシュの表情がすっと消えていく。
「ウルフウッド、ちょっと」
「ん?どした」
腕を掴まれ、普段使われていない空き教室に押し込まれるウルフウッド。
「ちょ、ヴァッシュ?どないしたんや」
「…………しないで」
「なんて?」
「僕以外の人と、そんなに仲良くしないで」
「はぁ?」
「あぁぁぁ、もうこんなこと言いたくないのに。余裕のあるかっこいい彼氏でいたいのに!」
ぼそりと呟いたかと思えば、喚いたりしてウルフウッドをぎゅっと抱きしめる。
付き合い始めてから、ヴァッシュが存外に嫉妬深いと知ったウルフウッドは宥めるようにふわふわの金髪を撫でつつ話をしっかり聞く。
「えぇ彼氏やで。深夜のバイトのお迎えにも来てくれるし」
「……頼んでもないのに?」
「そないな言い方すな。わいは嬉しいで、顔見れて」
「うぅ、……好き」
「わいも好きやから、安心せぇ」
「大好き。僕から絶対に離れていかないでね」
ヴァッシュから向けられる独占欲が、心地よいと感じるウルフウッド。
今まで、人を寄せ付けない印象が強いウルフウッドだったが、ヴァッシュと付き合い始めてから良く笑うようになる。バイト先でも笑顔が増え、ファンが増える。
「ウルフウッド、ねぇバイト終わったら一緒に飯行こうよ」
「あかん、夕飯はもう食うとる」
「えぇ、じゃぁ酒飲みに行こうよ」
「いやや、明日用事あるからはよ帰って寝たい」
「それじゃ、俺んち来ない? こっから近いよ」
客に誘われることが増えても、全く興味が無いので本気にしない上に、相手にもしない。
バイトが終わると、そそくさと帰り支度をする。
今日もヴァッシュが迎えに来てるかなと思いつつ、裏口から店を出ると今日口説いてきた客が待ち伏せをしている。
こんなことが過去にも無かった訳ではないが、余りにしつこい客なので露骨に嫌な顔をする。暗がりなので、その顔は相手には見えないようで、かまわず声をかけてくる。
店ではないし、愛想をよくする必要も無いと半分無視をしながら、払いのけ帰ろうとすると切れた客に腕を掴まれ、タクシーに引っ張り込まれそうになる。
「おい、ふざけんな。やめぇ!」
「うるさい、俺に気のあるそぶり見せやがって」
わーわーしてると、今日も迎えに来たヴァッシュが割って入り、男をぶん殴ってウルフウッドを奪い返す。
「おい、ヴァッシュ、おいなんか言えよ」
「…………」
目の前で、ウルフウッドが危険な目にあったうえに、見知らぬ男にベタベタ触られて。
「助けてくれたのはありがたいけど、怖いねん、なんか言え」
「……あいつに、色目使ったの?」
「はぁ? んなわけあるか、ぼけ」
「だって、気のあるそぶりって言ってた」
「知らん、そんな事するわけないやろ」
ウルフウッドがそんな事する訳ないって、信じているのに嫉妬で頭が焼き切れそうで強い言葉しか出てこない。
「どうだろうね、君がそう思わなくても相手がそう思えば、色目って事になるんじゃない」
「……わいが、してない言うとるやろ」
「何度言っても、夜のバイト止めてくれないし。時給は落ちるかもしれないけど、もっと安全に働けるところあるじゃん」
「しゃぁないやろ、学校と両立させるためや」
「僕が止めて欲しいって言ってるのに?」
「……いろいろ訳があるんや」
「そんなこと言って、……男漁りたいだけじゃないの」
ここで、ぶん殴られるヴァッシュ。
細いからだなのに、重いウルフウッドの拳に思わず道路にしゃがみ込むヴァッシュ。
「そんな風におもてたんか」
「……ぐっ」
「もうえぇわ、……帰る」
一ミリもそんな風に思ったこともないのに、一度口をついた言葉を止めることが出来ず酷い言葉を言ってしまうヴァッシュ。 バイトを変えた方が良い、危ないよ。
もっと安全なバイトにしたらと付き合い始めてから、言ってきたのは事実。
それでも、のらりくらりとはぐらかしバイトを続けてきたウルフウッドも少し後ろめたい気持ちがなかった訳ではない。
いろんな気持ちがぐちゃぐちゃになって、ウルフウッドは泣きながら自宅に帰る。
着信もLINEもなくて、失意の中眠りに就く。
次の日、ウルフウッドが学校に行くと朝一の授業にヴァッシュの姿は無かった。
とても勉強する気にもなれず、大学を早退するウルフウッド。 以前の、ステルスオーラ大全開でまた端っこの席に逆戻りする。
「ウルフウッド来てなかった?」
ヴァッシュが慌てて学校に到着したのは、午後になってから。ウルフウッドに殴られたとき、尻のポケットに入れていたスマホが壊れてしまい連絡を取ることが出来なかった。
朝一で、携帯ショップに駆け込み機種変し、大学へ急いだがウルフウッドはもう帰ってしまった後。
友人に聞くが、多分来てなかったと。
「くそ、電話にも出ないし、LINEの返事もない」
やっと使えるようになったスマホで、何度も連絡するが返事がない。謝りたいのにと頭を掻きむしるヴァッシュに、友人がちが心配そうに声をかける。
「おい、どうした喧嘩でもしたか」
「ウルフウッドと? まさか、あんなにラブラブなのに」
「うるさい、色々あるんだよ」
「おぉおぉ、ヴァッシュにしては荒れてんな」
「まぁ、ウルフウッドも色々あるんだろうよ」
友人ひとりの言葉に、顔を上げるヴァッシュ。
「何? なんか知ってんの?」
掴みかかりそうなヴァッシュに、言って良いのか迷いつつも友人が語り出す。
「いや、あいつの家ってさ。兄弟も多いし、ちょっと色々訳ありで。授業料とか……自分で工面してるんじゃないかなって。バイト止めろって良くお前、ウルフウッドに言ってたから。それで喧嘩したのかなって」
高校が同じだと、聞いたような気がするがウルフウッド以外の事は殆ど興味の範疇外なので記憶に残っていない。
「僕、そんなこと知らない」
「お前が逆の立場なら言えるか?」
「……たぶん言えない」
「だろ、わかってやれよ」
家族のために、学業と両立できるバイトを続けていたのにあんな酷い言い方をしてと、ますます自己嫌悪に陥るヴァッシュ。このまま距離が出来るなんて、絶対に嫌だ。自分のことも許せない、会って謝りたい。
電話を何度もかけるが、繋がらない。
LINEも返事も来ない。
思いつく場所を探すがそう簡単に見つかるはずもなく、いつも通りウルフウッドのバイトの時間が迫る。
また、迷惑をかけるかもしれない。でも、背に腹は代えられないとバイト先に向かい待ち伏せをするヴァッシュ。
大学も休んだんだ、バイトだってと思っているととぼとぼとした足取りでウルフウッド歩いてくるのが見える。明らかに元気がない、目元も赤く染まっているように見える。
自分のせいだとおもうと、我慢できずに飛び出す。
「ごめん、ウルフウッド。僕何にも知らないで」
急に現れたヴァッシュに、驚くウルフウッドはそのままぎゅうぎゅうに抱きしめられて固まる。
言葉が出ないウルフウッドに、ヴァッシュは更に続ける。
「うっ、……こんなに好きなのに、ごめっ、ぅ…」
抱きしめると言うより抱きついたまま、情けなく泣きながらウルフウッドに許しを請うヴァッシュ。
ふわふわの頭をよしよししながら、ウルフウッドも泣きそうな顔で抱き返す。
「わいもごめんな、バイトのこと。心配してくれとるんわかっとったのに」
「うぅぅ、僕が悪いぃぃ」
「ちょっと、気分よかってん。お前が、わいのこと心配したり、ヤキモチ妬いてくれたりするん」
「……許してくれるのぉぉ?」
「当たり前やろ、わいもごめんな」
そこから、ヴァッシュもウルフウッドと同じ職場でアルバイト先で働くことなる。
その後学業との両立を頑張り、学業で成果を出したウルフウッドは奨学金を得ることが出来るようになり、金銭的に余裕が出来る。
二人はアルバイトを続けて、同棲を始める。
相変わらず、ヴァッシュの独占欲は強くヤキモチもおさまらないがウルフウッドは心地よく感じているのでお似合い。
この調子で、末永く幸せに過ごしましたとさ。