春宵一刻「疲れた……」
葉擦れの音と共にホトトギスやらアオバズクやら、鳥の鳴き声は聞こえるものの、誰もいないのをいい事に、葉山は溜息を漏らす。
街路灯に照らされた自分の影はくっきりと濃く存在感があり、先にゼミへと走って行ってしまいそうだった。木々の合間を抜けた丘の上、汐見ゼミは学園の敷地内でも辺鄙な場所にある。
汐見の恩師であり葉山の身元を引き受けてくれた葉山教授が、「周りに香りの事でやかましく言われない場所で研究と後進育成に励みたい」と望んだが故の立地らしいが、真偽の程は定かではない。
もし本当なら、余計な事をしてくれたと言ってやりたい。ゼミ室と講義棟との往復だけで、汐見と共にいる時間が減るのだから。
放課後、挑まれた食戟をこなし、十傑の仕事を(人の尻拭いまで含め)終えるとどっと疲れを覚えた。
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