「ぁ……っあ、あう……っはぁ、あ……」
「……らむ、だいじょうぶかい」
「うー……」
「つらいね、もうすぐ……着くから」
その言葉に、助手席でぐったりしている乱数くんが微かに頷いた。いつもふんわりしている髪は汗で濡れて頬に張り付いてしまっている。片手を伸ばしてそれをなおすと、乱数くんはふるりと体を震わせた。ただこれだけの刺激にも、耐えられないのだろう。大きな瞳からぼろぼろと涙をこぼして体を捩る。本当はその涙も拭ってあげたいのだけれども、きっと今は逆効果でしかない。もうすぐだからねと、もう一度同じ言葉をかけてアクセルペダルを踏みこむ脚に力を込めた。本来ならば、今頃彼のお気に入りのお店で向かい合ってディナーを食べていたというのに。どうしてこんなことになったのだろう。そう思って吐いたため息は酷く熱かった。
5512