「白、薬を貰えるか」
「胃薬か?」
薬棚にある古い薬草を籠から取り出した新しい薬草に入れ変えていると薬堂の扉が開いた。誰がこの店に踏み入れたか分かるから整理を続けてたが薬の所望に振り返る。
思った通りの人物、斬月サンが居たが珍しく覇気がない。薬棚を閉じて斬月サンにカウンター前の客用の椅子を指す。
「座れよ。なんか体調悪そうだな」
「ああ、少し体調が優れなくてな」
「医院の方は行ったか?」
薬草が入った籠を奥の薬室に投げ込み店に戻ると椅子に座った斬月サンが気不味そうに黙っている。
「斬月サン」
「…一護が知れば気を遣わせるだろう」
まぁ、この辺で医院は黒崎医院しかねぇからバレる確率は高い。
「正しい病名で処方してぇんだが、まあいいか」
我が王と同じで護衛も頑固だ。言っても聞かねェ。
斬月サンが座る椅子を横向きに回して前に立つ。いつも付けているサンシェードを外してカウンターに置き斬月サンの赤い瞳を覗き込む。
「医者みてぇな知識はねぇが、少し診せてもらってもいいか?」
「ああ」
斬月サンの片手首に触れて脈と呼吸を一分診て、上瞼下瞼を引っ張ったり額に触れる。貧血でもないし熱もない。
「前開いてくれ」
「わかった」
袍の飾り結びを解いてくれた斬月サンの前にしゃがんで胸に耳を当てた。
心臓の音も正常、他の器官からの雑音も聞こえない。
胸の音に集中するために無意識に下がっていた視線を上げると薬堂の扉に手を掛けた状態で固まっている一護と目が合った。俺と目が合ったことで正気に戻ったのか一護はハッとして薬堂の扉を勢いよく開けた。
「なにやってんだ…!?」
真っ赤な顔で俺と斬月サンを何度も交互に見て返事を求める一護にニヤリと笑って斬月サンの胸板を指先でなぞる。
「えっちなこと」
「は!???」
「白…」
「冗談だ。治験に付き合ってもらってたんだよ」
斬月サンに溜息混じりに名を呼ばれクックッと笑いながら立ち上がってカウンター奥の棚からお茶の葉が入った筒を取り出す。
「斬月サン前閉じていいぜ」
「わかった」
「一護も突っ立ってねェで座ってろ。お茶淹れてきてやるよ」
「お、おう」
一護には体を温めるお茶で斬月サンには一護にバレねェように薬草茶。
奥の厨に行き湯を沸かす為に鉄器に水を入れて火に掛ける。待ち用に置いてある小さい椅子に座って煙管にも火を付ける。
さっき触れた斬月サンの体がいつもより冷たかった。最近一気に気温が下がったから体が対応しきれてないんだろう。違ったら医院に突き出しゃいい。
「おっさんのお茶、エグい色してんだけど…」
白がカウンターに置いた湯呑みは俺の方は普通のお茶なのに、おっさんの方は火にもかけられてないのに何故か湯呑みに中でグツグツと沸騰してるお茶(仮)。色も緑を超えて黒っぽいし、匂いだけで苦さを訴えてくる。
出されたおっさんは湯呑みをジッと見たまま動かない。
「治験の礼だ。遠慮なく飲んでくれ」
「え、可哀想…」
「何が可哀想だ。斬月サンだから特別に採りたての薬草だぞ。お前も飲むか?」
「ア、ダイジョウブデス」
「遠慮すんな」
「ダイジョウブデス!」
「そうか」
カウンター奥に座った白は俺の反応に笑っている。俺が断ることを分かってて言うなんて意地悪だ。
ムッとしたがこの反応も面白がってる白に負けた気分になって、気分を変えるためにお茶を一口飲む。
「美味しい」
「お前がいつも苦い苦いってうるさいからな」
「普通のがあるなら普通の出してくれればいいだろ」
「それじゃ面白くねェだろ」
目を細め楽しそうな顔をする白だけど、俺の体に良いもの作ってくれてるのが分かってるから何も言えない。苦味はわざとな気がするけど。
「ほら、斬月サンも飲んでくれよ」
あ、悪魔みたいな顔してる。治験を手伝ってくれた礼って言ってるのに楽しんでる顔してる。え、悪魔じゃね?龍だけど。
「ほらほら」
「ああ、いただこう」
おっさんはお礼のお茶を飲み干したあと、可哀想なくらい震えていた。