煙管で吐き出した煙で白くなりつつある店内に換気するかとよっこいせと椅子から立ち上がり、店内に一つだけある丸窓を開けた。開けた窓から店内に入り込む空気の冷たさに空を見上げるが空なんて見えるはずもなく、空気の冷たさで雪が降りそうだなと煙管片手に見えない空を眺めているとカリカリと何かを引っ掻く音が耳に届く。音の出所はと耳を澄ませれば入り口の扉からその音が聞こえて足を向けた。
店の扉を僅かに開けると隙間から当然のように入ってきた黒縞が入った白い猫。ふるりと身体を震わせ俺の足元でちょこんとお座りすると宝石のような水色の瞳が俺を見上げる。
俺はしゃがんでジッと見つめてくる猫を撫でようと手を伸ばしたが、やめた。こちらを見る瞳には猫特有の気紛れな甘さなどなく、触れれば噛み千切ってやろうというギラギラした野生さが瞳に見えた。
「いいな、お前」
普通の猫も嫌いじゃねえが自力で生き抜く気満々の野生な猫も好ましい。媚びないが利用出来るもんはしてやるっていう感じも良い。
「薬棚に触らねえなら自由にしていいぞ」
煙管を咥えてさっきまで座っていたカウンター奥側の椅子に座った。
野生みが強いお猫様は部屋を荒らす事もせず扉前で丸くなっていたが窓を開けた事で室内が寒くなったからか、不服そうに俺の膝に飛び乗りそのまま丸くなっている。それを俺は許容したまま接客しそろそろ窓も店も閉めるかと煙管の灰を灰皿に落としたところで店の扉が開かれ、扉に付いているドアベルがチリンと鳴った。
「しろ!!」
「今日も元気だな。どうした」
「しろのおみせに!にゃんにゃんがきてるって!おばあちゃんたちいってた!」
「おー、いるぞ」
興奮で頬を染めた笑顔でパタパタと走ってカウンターを小さな手が掴む。背伸びして目から上しか見えない一護に手招きすると、カウンターから手を離しカウンター横から内側に入ってくる。そして一護は俺の膝の上の猫を見て、このまま喜ぶ顔が見れるかと思いきや眉が上がりキッと猫を睨んだ事に驚く。
「そこおれのばしょ!!」
大きな声で俺の膝をべしべし叩く一護に猫は驚きなのか威嚇なのかはたまた両方か、身体を起こしシャーッと応戦する猫。それにムッとしてべしべしと俺の膝を叩く力が強くなった。
「にゃんにゃん!そこおれのばしょなの!だめ!!」
「一護、お前猫好きなのにどうした」
いつもはゆるゆるの笑顔で威嚇されても可愛い可愛いと猫を撫でたり嬉しそうに抱っこしたりするのに今は天敵に会ったみたいな反応で俺は腕を伸ばし小さな頭を撫でる。
「…すきだけど」
「おう」
「すきだけど…しろのそこはおれのばしょなの!!」
一護の大きな声に反応してお猫様がフシャーッと強い声で一護を威嚇する。一護はビクッと体を震わせるも負けじと涙が浮かんだ瞳で睨み返し「おれのばしょなの!」と主張をする。
一護の主張の強さに面倒になったのか俺の膝からヒョイっと降り扉の方に向かう猫。
「にゃんにゃん…」
猫が降りると俺の足に腕を回して膝に頬を押し付けた一護は退けたのはいいが猫好きが顔を出し迷うような顔をしている。一護の頭をよしよしと撫でながら一護が最後まで閉め切らなかった扉の隙間から出ようとする姿に声を掛ける。
「気が向いたらまた来いよ」
どっちの姿でも構わねえぞ、と。