「一護、ん」
デカい建物を眺めてると白が俺のコートの裾をツンツンと引っ張り一枚のチケットを差し出してきた。
「ありがとな。いくらだった?」
しゃがんで白と目線を合わせチケットを受け取り、ボディバッグから財布を取り出そうしたら白の小さい手が俺の手を掴んだ。
「要らねえらしい。俺も出そうとしたら斬月サンが悲しそうだった」
「まぁ…白は小学生だしなぁ」
自分の子供から財布出されたら悲しいだろ。どうすればいいかと考えてると影が掛かり顔を上げると俺達の横に斬月のおっさんが立ってて、サングラスで瞳が見えないのにどこか悲しそうな雰囲気を醸し出してる。
「ほらな」
「おう…」
悲しそうだから財布を取り出すのをやめてボディバッグを背負い直し白をぎゅっと抱きしめてそのまま抱き上げる。
「ありがとな、おっさん」
「ああ」
お、今度は嬉しそうだ。
おっさんの気分が上昇して良かったと胸を撫で下ろしおっさんと並んで入場口に向かう。
「一護、俺は歩けるから降ろせ」
「寒ぃから白が温めてくれねえか?ダメ?」
「…お前が寒いなら、我慢してやる」
降りると腕をべしべし叩いてた白が寒いと言う俺に頬が少し膨らましながらマフラーを巻き直してくれる。
俺の白は今日もすげぇ可愛い…頬がお餅みたいで噛みつきてぇ。
天を仰ぎたい衝動を抑えてお餅みたいな頬に頬を擦り寄せた。外だからキスは出来ねえし、これで我慢だ。
「さ、入るぞお前達。チケットはちゃんと持っているか?」
「おう!」
「持ってる」
いざ、水族館へ!
問題なく入場したけど、その後に問題があって白の眉間の皺が凄いことになってる。自分の手を親の仇かってくらい険しい顔で睨んでる。
入場の際に手の甲に押されるスタンプが俺とおっさんが白熊で、白はペンギンを押された。白は白熊が良かったらしい。
「白、今度来た時は白熊押してもらおうな」
「別に…いい」
別にいいって言いながら手の甲を睨んでるから良くねえんだろうな。いつもはこんな感情を表に出さねえから珍しい。そんなに白熊好きだったか?
「白は私達とお揃いが良かったのだろう」
「…」
「え、かわい」
おっさんの言葉に真っ白な頬が赤くなってプイッと顔を逸らす白。俺はそんな白の態度と拗ねてた理由の可愛さにきゅんきゅんした。
「じゃあ今度は一緒の押してもらおうな」
「…ん」
こくりと頷く白が可愛すぎて俺は天を仰いだ。
俺の白ほんと天使すぎる…!
斬月のおっさんに同意を求めるように横を見ればおっさんは俺達にカメラを向けてた。それビデオカメラだな?
「おっさん…」
後でくれと声を出さずに言えばおっさんはこくりと頷く。最高だな。
「…」
白が大きな瞳で水槽をジッと眺めている。
薄暗く巨大な水槽が並び真っ青な空間で青に染められた白がジッと水槽の中にいる魚に魅入られてる。俺も最初は魚を見てたけど、途中から白が瞬きを忘れたように見入ってる姿を眺めていた。時折自分の近くを通る魚に手を伸ばしたりする白が可愛い。
おっさんは最初から俺達を撮ることしかしてないからたまに白と俺はカメラにピースや手を振ってる。その時のおっさんは口を手で押さえて震えてるから、俺はその気持ち分かると頷き白は首を傾げて大丈夫か?と気遣ってくれる。
思い出して笑いが漏れそうになったのを抑えまだ水槽を眺める白に目を向ける。満月の瞳は水を映してるからかゆらゆらと揺れ、水に映る月のようで綺麗だけど白の存在が曖昧になってる気がして…。
「一護?」
「…ん?次行くか?」
白の身体をギュッと抱きしめたからか水槽に向いていた満月の瞳が俺を見た。曖昧に感じた存在がちゃんとこの腕の中にあると安堵して、それを悟らせないように笑顔を向けた。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ。白がそばにいてくれれば」
隠しても白は察する。俺の頬に触れ額を合わせて俺の瞳をジッと見つめる瞳は真っ直ぐで安心する。
「イルカショーが始まるようだ。二人とも行くぞ」
カメラを閉じて俺たちの頭を撫でる斬月のおっさんに俺たちは笑って頷いた。