青空は白雲を奪う雲一つない青空に、雲が一つ現れた。
夜空を宿す雲。
その雲は公園の木陰が差すベンチでグッタリとしている俺の頬に小さな手で触れ、顔を顰めた。
「おまえ、すげえあついけどだいじょうぶかよ。きゅうきゅうしゃよぶか?」
雲…真っ白な少年は横掛けしていた水筒のカップ部分を回し、そのカップに液体を流し入れた。
「ほら、のんでいいぞ」
差し出されたソレを受け取らないと思うのに鉛のように重い身体じゃ指一本動かすのも怠くて、カップを眺める事しか出来なかった。
飲み物を差し出してくれてる白い子はそんな俺に苛立つ事なく、カップをベンチに置いて背負っていた変なライオンっぽい鞄から小さい携帯を取り出し何処かに電話した。何を言ってるかぼんやりとする頭じゃ聞きとるのも面倒でそれをまた眺めるだけになった。
「よし、これでだいじょうぶだろ」
携帯を閉じて鞄に仕舞った白い子は俺の座ってるベンチによじ登って俺の脚の間に立った。
「これはおうきゅうしょちだ。おまえがつかまらないように、さきにいっといてやる」
「?」
「むせたりこぼしたりすんなよ?」
少ししゃがんでベンチに置いてあったカップを手に取って、白い子はそのまま飲み物を呷った。
そして、俺の視界は雲と夜空で埋められた…。
ヒヤリと冷たい唇、そして流れてくる液体を身体が欲し自然と飲み込んだ。
「よし、のんだな」
唇が離れ満足そうに頷く白い子はそれから何度も、水筒が空になるまで俺に与えてくれた。
水分が回り徐々に身体が楽になっていく中俺はやっと、やっと脚の上に座って水筒にカップを戻すその子が自分が探してる相手だと認識し始める。
「…し、ろ?」
「おまえ、なんでおれのなまえしってるんだ?」
大きな瞳が更に大きくなって、瞳が満月になる。パチパチと瞬く小さな夜空を抱きしめる。
「もう離さない…どこにも、行かせない」
「は?」
「白、しろ…俺の白」
青空に、お前を奪わせたりしない。