斬魄刀である『俺』と同じ道を辿る事は薄々分かっていた。
目の前で俺を探す一護から視線を青空に移す。
『俺』が折れた日も現世はこんな晴天だったんだろうか。あの日は虚圏からの尸魂界だったし、尸魂界は雨で最悪の日だった。
目が痛くなるほどの青空から再び一護に目を向ければ、一護は地面に膝を付いて放心しているようだった。その唇から「いやだ…かえってきて」と迷子の幼児のような弱々しい声が漏れ、その声に胸が締め付けられるようで…俺は一護に手を伸ばすもその手が一護に触れる事はなかった。
そばにいるのに一護の瞳に映らない。触れられない。声も届かない。
「一護…」
俺の声はまたお前に届かないのか。
あの日から何日、何十日、何百日と過ぎ…俺が消えたあの日がやってくる。
一護は自室のベッドの端で膝を抱え壁に頭を預けぼんやりしている。俺は一護のベッドの淵の腰を下ろした。俺が座った場所は重さで沈むことも皺が寄ることもない。
最初は見えていなくても一護が覚えててくれるならとそれでいいと思った。
斬魄刀である『俺』と同じ道言っても俺は斬魄刀じゃないから打ち直される事はない。だからもう俺が一護の前に現れる事はない。それでも一護に覚えていてほしいと思う俺の願いは、エゴだった。
一護が俺の存在で苦しむ姿を見てくれば段々そんな事ちっぽけでどうでも良くなってくる。誰も俺を覚えていない、だから分かってもらえない苦しみ。そして一護の中からも俺の存在が消えつつあり、でも俺を忘れないようにと写っている俺が薄くなっている写真を握り泣くほど苦しむ一護に…もう忘れてくれと願い始めた。
俺がお前を苦しめるなら、忘れてくれ。あの日、全員が俺を忘れたのにお前はここまで覚えてくれてて嬉しかった。
「忘れろ、一護。忘れていいんだ。もう解放されてくれ」
触れられない。それは分かってるけど一護の両目を手のひらで隠して、これで最後だと一護の唇にキスをした。
「なんで、なんでそんな事言うんだよ…!」
一護の両目を隠す俺の手に、温かいものが触れた。その温もりに驚きで離した唇にもキスをした感触が、残っている…。
どういう事だ…?
「忘れろなんて!言うな!!」
叫ぶ一護の手が俺の手を握っていて、瞳を隠す手を下ろさた。下ろされた手の先に見えた涙に濡れたアンバーの瞳。そこに、俺が映っている。
「やっと、やっと見つけた…白。しろ」
俺を睨む力強い瞳から崩れ昔の泣き虫の顔になって俺に抱き付いてくる一護。俺は何が起こってるのか理解出来ないまま…ただ戻って来れた、それだけが分かった。
「一護…ありがとな。ただいま」
ぐずぐずと泣く一護に腕を回し強く抱きしめた。もう二度と触れられないと思っていた温もりに、俺の頬に熱いものが流れた。