幼妻白さん
『元気にしているか?』
「してる。斬月サンはちゃんと食ってんのか?睡眠も必要だぞ」
『ああ、お前にいつも言われているからな。気をつけている』
「それならいいけどな」
デカすぎるベッドの上で濡れた髪をタオルで拭きながらベッドの上に置いたスマホをスピーカーにして遠く離れた海外にいる養父と話す。
養父である斬月サンとはほぼ毎日夜に通話をする。家に子供を一人にしてるから心配らしく、本当に多忙で電話する時間がないって時以外は俺の体調や今日あったことを話してほしいと掛かってくる。
心配なら俺も連れていけばいいって思われるんだろうが、俺が海外は面倒だなと首を縦に振らなかった。一軒家であるこの家も気に入ってたし。でも行かなかった一番の理由は普段ワガママを言わない一護が俺が海外に行くのは嫌だと俺を離さなかったのがデカいかもしれない。物理的に離さない一護が俺を学校にまで俺を抱っこして行こうとしたから斬月サンが折れた。斬月サンも一護に甘いから強く言えなかったんだと思う。
そこから俺は元々二人で住むにはデカい一軒家を一人で管理してる。斬月サンが元々不在がちだから自分の事は当然洗濯も掃除も食事だって作れるから苦じゃねえけどな。
『もう眠る時間か。名残惜しいが切るとしよう…』
「おう。じゃあ、おやすみ斬月サン」
『おやすみ』
斬月サンからは切らないから俺が赤色の通話を切るボタンをタップする。
斬月サンに切ってもらおうとすると「切れって」『お前が切ってくれ』と押し問答を何度もしてから俺が切るようになった。マジで切らないからなあの人。でも、いつも本当に名残惜しそうで笑っちまいそうになる。ほぼ毎日電話してんだからそんな名残惜しそうにしなくてもいいだろうに。
笑いが抑えきれずにククッと笑ってスマホをベッドサイドの収納タンスの上にいて布団に潜る。
「おやすみ」
橙色のアイツには聞こえない事は知ってるけど、アイツが来てる時に言わないと拗ねるからいない時も言うようになっちまった。
斬月サンが送ってきた柔らかくて肌触りがいいぬいぐるみを抱きしめて瞼を閉じる。
「白?」
預かってる鍵を使って玄関の鍵を開け、靴を脱いで中に入るとシンッとしていつも聞こえる生活音が聞こえない。廊下を歩いてキッチン、奥のリビングを覗いても白の姿がなかった。リビングのソファの横に学校鞄を置いて天井を見上げる。
白が寝坊なんて珍しいな。…もしかして何かあったか!?
強盗?誘拐?と最悪の想像をしてリビングから出て二階に足音を立てないように上がり白の部屋の前に立ちドアノブに手を掛ける。
ゆっくりとドアを開けて部屋の中を覗き、カーテンで陽射しが完全遮断された部屋は見え難いが変わった場所はない。いつもの必要最低限の物と家具。
荒らされた形跡も無し、と。
部屋に足を踏み入れ子供には大き過ぎるキングサイズのベッドに近寄ると端っこに小さい山が出来ている。回り込んで小さい山に近付くと真っ白な髪と斬月サンから送られてきたというオレンジ色のぬいぐるみが見えた。
「…」
すぅすぅと穏やかに眠る俺の天使。
はぁ…すげぇ可愛い。ぬいぐるみを小さな身体でぎゅうっと抱きしめてるのは可愛いけどそのぬいぐるみに妬ける。ソレが俺をデフォルメしたと作られた物だから尚更妬ける。
やっぱり寝る時だけでもコッチに来ようかな。毎日はダメだろって白に泊まりは一週間に一回、多くて二回と言われてるけど足りない。足りるわけがない。
ベッドの横にしゃがんで眠る白の寝顔を見つめる。
大体白が先に起きてるから可愛い寝顔を見れるのは貴重だ。
「あ…」
いや、でもな。ダメだよな。でも…撮りたい。
葛藤しながらも欲には逆らえず制服のポケットに入れてあるスマホを取り出してカメラを起動し白の寝顔に向けた。
「嘘、だろ…」
陽射しを完全遮断してるから暗くて撮れねえ…フラッシュなんてしたら白が起きるし、多分そんな起こし方をされたらいつもより寝起き最悪だろう。…今度リビングでたまに昼寝してる白を撮ろ。
スマホを仕舞ってすぅすぅ眠る白の頬を一度指先で突き、その柔らかさにもう一度と求める悪魔の囁きは聞かなかった事にして寝顔を眺める。
いつか毎日見られるようになるといいな。