黒くて酷く甘いソレ。この非合理的な感情に「恋」と最初に名付けた人物は誰なのだろうか。
接吻は甘いだとか、檸檬の味がするだとか、そんな極めて下らない事を最初に言った人物は誰なのだろうか。
これは「恋」と形容しない方が良い感情だ。
まだ成人ではなさそうな格好をした若い女性達は「恋バナ」と言う物に花を咲かせている。
「好きな人いる?」「え〜いないよ〜。」「嘘だ〜!」
そんな極めて非合理的な感情に時間を費やす等、馬鹿のするべき事だと思った。
「好きなタイプは?どんな見た目の人が好み?」
そんな台詞は嫌と言う程に耳に入ってくる物である。
好きな人とデートをしただとか、一緒に花火を見ただとか、そんな簡単な物で済ませられる程「私」の恋は純粋で淡い物では到底言えない。
最初にこの感情を「興味」だと勘違いしていた。
勿論「恋」と言う存在は、知識上では頭に取り込んでいた。
しかし、この感情が「恋」と気づくまでには時間が少し過ぎた頃で、少し遅かったのかもしれない。
300年の間1度も恋などに関心も向けていなかった弊害が出たか、と思った。
恋だと気づいたのは、相手が微笑む笑顔とか、そんな生温い物では無く、「嫉妬」と言う負の感情から自覚した物だった。
全部、私の物にしたい
その知識を、全部私にくれたら、その人生を、全て私に捧げてくれたら。
この「恋」と言えない憎悪の塊から、「恋」と気づいてしまった。
注がれていく独占欲、比例していく初めての感情に心が追いつかなかった。
その「知識」で商品を売ったり、「好奇心」でどこの馬の骨かも分からない他人の食物を食む貴方に、どれだけの感情が湧いたか、知る由も無いだろう。
知る必要なんてない、これは私だけ知っていればいい事だから。
「好奇心」も「知識」も、挙句は「恋心」までも、私に捧げてなんて言える筈が無いだろう。ましては神出鬼没のあの人に。
初めて会った時は変な人だと思ったし、関わる気も無かった。
どんどん惹かれていって、終いには惚れてしまったと言ったら、ロマンチストだと言われてしまうだろうか。
私の発言を、貴方はよく笑う。
「君は本当にワタシが予想している事と真逆の事を言ってくれる、面白いね。」
面白い?
それだったら、この感情も面白いと言ってくれる?
「…そうですか。」
無愛想な返事をして、元々していた作業に戻る。
縛る方法は幾らだってある。
この牙でだって、貴方の事を幾らでも制限出来る。
この甘くて黒い感情も、貴方は「恋」と言ってくれるのだろうか。
そう思いながら、私は八重堂で買った恋愛小説をパタリと閉じた。