風邪っぴき朝から違和感はあった。
けど、まぁどうにかなるだろ。
そんな感覚でいたらどうにかならなかった。
試合前は誰にも、いや、なぜだかウィットには「お前大丈夫か?」って聞かれたが「問題ない」と言っていつも通りドロップシップに乗り込んだ。
試合中はアドレナリンでごまかしが効いていたのだろう、変化が訪れたのは試合後のこと。
身体が熱くて視界が揺らぐ…あぁ、まずい。
ここでもなぜだか隣にいたウィットが心配そうに俺の肩を揺らす。
大丈夫だ、そう言いたいのに…
そこで俺の意識はブラックアウトした。
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額に冷たくて心地の良い感触がする。
なんだろう?
ゆっくり目を開くと見知らぬ天井。
「ここは?」
「お、起きたかクリプト!お前大丈夫かよぶっ倒れたんだぜ?まぁ俺様がナイスキャッチしたから床とキスするはめにはならなかったがな!ったくだから大丈夫かって聞いたのに!ところで腹減ってないかお粥ならあるぞ?」
「お前…話が長いんだよ」
まるでいつかの試合中のやり取りみたいで笑ってしまった。
するとホッとした後嬉しそうに笑うウィットを見て心臓が音を立てた。
いや、気のせいだ。
俺は今体調が悪い、そう、それだ。
「で、腹は?」
「減ってる」
「よしきた!いいこで待ってな」
ウィンクを1つしてその場を離れるウィット。
の、ティーシャツの裾を俺は無意識に掴んでいた。
「は?」「へ?」
思わずハモる2つの声。
どうでもいいが前者が俺、後者がウィットだ。
「いやいやどうしたよクリプちゃん。もしかして体調悪化したのか?」
途端に心配そうな顔をするウィットに慌ててシャツから手を離す。
しかし何を思ったのか突然寄せられたおでこ。
額同士がこつりとぶつかり、至近距離で見つめ合う形になる。
鼻をくすぐるウィットのいい香り。
もう少しで触れてしまいそうな唇。
ぱちぱちと瞬きをしている間に離れていく端正な顔。
「ん、熱は下がったみたいだな。よし、ちょっと待ってろ」
まてまてまて、熱は上がった。
お前のせいで。
何だ今のは、お前は誰にでもそんな距離感なのか?
少しの不安と嫉妬と先程のできごとにオーバーヒートして俺の意識は再びショートした。
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次に目を開いた時、窓を見ると夕方だった。
まずい、ウィットは!と思い起き上がろうとしたところで腹に重みを感じて見れば、俺の腹を枕にすやすやと眠っているウィット。
俺は腕で顔を覆い息を吐いた。
「なんでこんなところで寝てるんだ…お前は」
こいつの所為でまた熱が上がった気がするが、もうそれだけではないことは分かりきっている。
俺はこいつのことが、ウィットのことが
「好きだ」
「ふぇ?」
なんてタイミングで起きてくれるんだ。
「お前が悪い」
そう言ってウィットを俺が寝ていたベッドに押し倒し唇を奪う。
ウィットはというと、目を見開いていたが、拒否されることはなかった。
息を吸う為に開いたであろうそこに舌を入れる。
みずみずしくて、甘い。
もっともっと、と味わっていれば胸が叩かれて唇を離す。
目の前には赤く染まった頬と涙目のウィットがいて、もう一度と唇を寄せたところで掌でストップされる。
視線でなぜ?と問いかける。
「〜っのばか!お前風邪引いてんだろ!こんなことしてる場合か!」
覆いかぶさっていた体勢は見事に押し倒され布団までかけられる始末。
「もう治った!」
「お前はこどもか!治ってない!現にお前の口熱…っ熱かったぞ!」
自分で言って自分で照れてる可愛いやつをどうしてくれよう。
でもまぁ、まずは。
「お前が好きだ、ウィット」
「うるせー、俺もだ」
愛の言葉でも囁きあうとするか。
翌日見事に風邪をウィットにうつしてしまい怒られることになるが…俺たちらしくていい馴れ初めだろ?