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    ya_so_yan

    @ya_so_yan

    9割文章のみです。勢いで書いたものを置いておきたい。後でピクシブに移すことが多いです。

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    ya_so_yan

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    冬のニコイチ。寒いねー。

    凍える銀色 ポルシェを降り、冷たい外気に身震いしながら橋の袂へ駆け寄ったウォッカは、目を奪われて立ち尽くした。

     黒衣のシルエットがゆっくりと、橋を渡ってこちらへとやってくる。風に揺らぐ銀髪は、曇り空の下、灰色の景色の中に冴え冴えと映える。冷たい銀色は、この時期の凍えるような川か、あるいはウォッカの耳や頬を容赦なく冷やす風に色があれば、こんなふうだろうと思わせた。
     冬の景色の中にいるジンは、一枚の絵画のようにさまになる。その姿はどこか人間離れして見えた。身にまとう黒衣も、揺らぐ銀髪も、帽子の下から垣間見える鋭い目つきも、温度を感じない。死神というあだ名がよく似合う。
     その冷酷さを体現する佇まいが、人並外れて格好いい――早い話、ウォッカは見惚れていた。

     そんな姿がいつしか目の前までやってきて、ようやく我に返る。

    「お……お疲れ様です、兄貴」

     ただ労う。首尾を訪ねたりはしない。詰めの甘いウォッカと違って、兄貴分はいつだって抜かりない。標的は今頃、冷たい川の底に沈んでいくところだろう。
     ジンは、嗚呼、と返事をして弟分の傍を通り過ぎ、愛車へと向かった。運転席側のドアを開けるのを見て、ウォッカは駆け寄りながら思わず声をかける。

    「運転なら俺が――」

     弟分が皆まで言うのを待たず、ジンは彼の長身には小さく見える愛車の内へとそのまま滑り込んだ。
     仕方なく、ウォッカは助手席から乗り込む。

     ポルシェはすぐに発進しなかった。ジンは少し前までウォッカが掛けていたシートに身を預け、深く息を吐く。

    「お前は体温が高ぇなァ。羨ましいこった」
    「……え?」

     こぼされた呟きの意味が掴めずにいると、ジンは隣へ顔を向け、帽子の影から弟分を見遣りながら、薄い唇を歪めて笑った。

    「兄貴のためにシートを温める、出来た弟分だって言ってんだ」

     その言葉で、ようやく兄貴分がわざわざ運転席に座った目当てを知り、ぽかんと口が開く。
     一仕事終えた後に運転する手間を掛けてでも、暖を取りたかったのか。彼のトレードマークであるコートをもってしても、今年の冬は相当にこたえるのだろうか。
     つい今し方、人並外れた死神のような佇まいに見惚れたばかりなのに、寒さから人肌のぬくもりを求めるとは、なんとも人間くさい。
     呆気に取られたが……考えてみれば当然のことだ。どれほど人間離れしていようと、死神と呼ばれようと、ウォッカの兄貴分は人間なのだ。
     どういう形でも、ジンの役に立てるなら嬉しい限りだが――自分が残した体温で彼が暖をとっているのだと意識すると、じわじわと妙な面映さが込み上げてくる。

    「お、俺はヒデヨシじゃねぇんですから……」

     照れ隠しに茶化すと、ジンは煙草を咥えながら鼻を鳴らす。

    「さすがに靴なんか温めさせやしねぇよ。俺はノブナガほど横暴じゃないぜ」

     知ってんだ……とつい独りごちる。
     有名なエピソードとはいえ、ジンの口から日本の武将の名が出ると、不思議な思いがする。
     煙草に火をつける横顔を見つめながら、ウォッカはしみじみと感慨に浸ってしまった。
     ゴロワーズを咥えた口元も、少し伏せられた切れ長の眼差しも、シガーライターを扱う長い指も――仕草ひとつ、紫煙を含んで吐き出される吐息に至るまで、何もかも完璧に格好よく、人並外れて見える男でも。
     ウォッカと同じように使い古された俗説を知っているし、寒ければぬくもりを求める。
     そんな当たり前のことが、ウォッカは嬉しかった。
     正確には、ジンの”当たり前”を感じられることが――ジンが、“当たり前”を自分に見せてくれることが、嬉しかった。

    「帰ったら、あったけぇもんでも作りますね」

     寒い日には腹の中から温まりたい。きっと当たり前に感じているであろう欲求を満たそうと申し出る。頬が緩んでいたせいか、自分でも驚くほど柔らかい声色だった。
     ジンは帽子と前髪の影の中で目を細める。

    「そいつはいい……で、飯の後は」

     不意に長身が身を乗り出してきて、助手席の背もたれとウォッカの肩に長い腕を引っ掛ける。

    「お前が直々に暖めてくれるんだよなァ……ウォッカ?」

     顔を寄せてきたジンの、わざと吐息を含む掠れた囁きに、冬の風で冷やされたウォッカの耳も頬も熱を持つ。
     俯いて何も言えなくなっていると、顎の下に長い指が滑り込んできた。ぴくりと肩が跳ねたのは、その指が冷たかったせいばかりではない。

    「やっぱり、お前は熱いな」

     顎を持ち上げられるまま顔を上げれば、サングラスのすぐ向こうに、ジンの顔が迫っている。
     冷たいほどに美しい相貌。けれど、間近に見つめるダークエメラルドの瞳には、微かな、しかし確かな火が灯って見えた。

     気づいた時には帽子を脱がされて、
     熱い吐息が交わった。
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