「ハルト、オレのちんこおかしいちゃんかも…」
いきなり口から発せられた言葉に、ハルトは思わず噎せ込む。ケホケホと空咳を繰り返す背中を、衝撃発言をしたペパーが強い力加減で摩る。
「ど、どうしたの!?、ケホッ、なに?なにごとっ」
「ごめんごめん、落ち着いてからでいいから」
落ち着けるわけがない。が落ち着かないと話もできないし話してくれなさそうだから、とりあえず呼吸を整えるべく努めた。
「もう大丈夫。で、どういうこと?」
「良かった。あのな、なんか、白い?ネバネバしてて、」
「あーーーー」
「あー、ってなんだよ!これって病気だろ!?」
今は夜ご飯を食べるからペパーの部屋で2人きり。最近ようやく付き合えた彼とのたまにしかないこの逢瀬。それがこんなことを大きな話題にしてしまっていいのか?と、ハルトは一瞬の内に思考を巡らせる。
「ネモとボタンには、なんか話せないし」
「だろうね、女の子だもん」
女の子、という言葉にペパーはやっぱりか、と呟いた。ペパーにもさすがにそこの線引きはある事に安心する。
「まずは安心して。病気じゃないし、ペパーの身体がちゃんと成長してるってことだから」
「そうなのか?」
「そうそう。大人になったってこと」
「オレ、大人になったのか」
「うん」
ハルトとペパー、お互い真顔で見つめあっている。ベッドの上に並んで座っているのだけれど、こうも近くに話していると、順序を踏めなさそうで怖くなる。
「それは『精通』って言うんだよ」
「せいつう?」
「精通ね。白くてネバネバしてたやつに、精子っていう子どもを作るための…なんて言うんだろ細胞?とかで分かるかな?」
「ん…?」
この顔は完全に分かっていない。可愛い顔をしただけで許されるとでも思っているのだろうか?許すけれども。
「その精子と、女の子が持ってる卵子が出会うと、子どもが出来るんだよ」
「へー」
「聞いといたくせに、興味無いね?」
「悪ぃ。らんしとかさっぱりわからないぜ!」
年上なはずなのに、この少年は一体何を学んで生きてきたというのか見当もつかない。学校の授業ではなかったっけ?いや私立でカリキュラムを落とすなんてことは無いはず…。いやそもそもペパーがほぼほぼ学校に通ってなかった。いくら実技科目の出席率が良かったとしても、スパイス探しを優先していたペパーにとっては保健なんてまるで要らないだろう。ましてや保護者も会えずじまい。尚更誰にも聞けなかったのだろうか、と考えるとチクリと胸が痛くなった。というか、精通を知らない?
「ペパー、いつ精通したの?」
「3日前ぐらいだぜ」
「3日!?」
他の同学年よりかも遥かにガタイがいいはずのペパーが、つい最近に精通を迎えた事実にハルトの背景には宇宙が広がった。少し幼めな見た目をしているハルトでさえ、もう精通を迎えてから1年は経っている。それでも個人差があるものだからそこまで問題視するべきではないのだろう。多分稀にクラスにいるレベル。それでも珍しい方だ。
「寝て起きたら出てたりした?夢とか見たり?」
「あー、うん。そうだな、う…」
普通の男子ノリのつもりで聞いたはずなのに、ペパーは顔をどんどん赤く染めて、少しどぎまぎしているみたいだ。どんな夢だったんだ?とハルトは考えざるを得ないし、その顔を見てハルト自身の顔にも中心にも、益々血液が集まってきているのがわかった。
「…どんな夢?」
まっすぐにペパーの目を見る。綺麗な海の反射光の様な瞳はわずかだけど泳いでいて。見られないようにか腕で顔を覆ってしまった。嫌だな。見せなよ、全部。
その盾を剥がすように腕を掴む。存外力が強かったみたいで、ペパーはビクッと身体を震わせた。その仕草だけでハルトのパンツの中に収められているモノが少し大きくなった気がする。ゆっくりと腕を退けると、太眉を歪めて涙が零れそうな顔をしていた。顔が真っ赤すぎて熱気を感じ取れてしまいそうだ。それでもペパーは目だけは合わせないように懸命な様子だった。
ふわふわとした彼の長い髪をさらりと後ろに流すと、これまたビクついていて酷く加虐心を煽られる。もはやこれは確信犯だろう。耳もうなじも真っ赤で熟れたザロクの実みたいで美味しそうだ。誘われるままに耳へと顔を近づけて、期待の色を滲ませるペパーへ囁く。
「どんな夢か、教えて?」
「〜〜〜〜、っっ!」
ペパーがひときわ大きく身体を震わせた。もしかして。
「…今のでイッちゃった?」
「っ、ん…」
顔に力が入らなくてしまったのか、緩んだ眉毛と眦が情欲を掻き立ててくる。顔に反して身体はガクガクと震えていて、言葉でこれほどに持っていけてしまうのは、1種のポテンシャルなんだろうと考える。
「ね、もう教えてくれてもいいんじゃない?」
「、分かったからっ、耳元で、喋んなっ」
「分かったよ。ほら離れたよ」
「…ん」
離れ難いがハルトはペパーの耳元から顔を離した。その距離に納得したのかペパーの敏感な様子は少し収まったみたいだった。「オマエに、」そう零すとちょっとだけ固まってしまった。それでも下手に口出しせずに、続きの言葉を待つ。本当のことを言ってもいいのかとペパーの中で迷いがあるのだろう。
「オマエに、そうやって、えーと、ぇっちなっこと、言われ、る夢っ!」
「エッチなこと…」
「そうだ!オマエのせいなんだからなっ」
エッチ、すらつらつらと言えないこのウブな少年を一体どうしてやろうかと、完全雄思考の頭に切り替えた。
「僕のせいかぁ…」
「ハルトのせいっ!だから…」
「だから?」
また固まってしまった。それに落ち着いていたというのに、更に顔を赤くさせている。その言葉の先は、間違えていなければ多分これだ。
「責任、とらせてよ」
責任というワードに、自身の中にどろりとした黒いような重いような感情が生まれる。
「僕とエッチなこと、しよ?」
本当に熱があるんじゃないかというぐらい真っ赤なペパーは、その言葉に言葉で返せずに、頷くことしか出来なかった。