ふる〜てぃ〜ず“たま”「……それ、今日も食べないの?」
向かいで学食で買ってきたお弁当を広げる、くすみがかった黄土色の絹糸のような髪をふたつに編んでいる大人しそうな少女。その表情は重たい前髪に隠されているが、少し不思議そうに見える。
「馬鹿みたい……。こんなもの、食べるなんて考えただけで反吐が出る。」
そう言った小さな少女…早緑れたすはぐしゃり、とカードを丸めて弁当箱と共に持って立ち上がると、カードと共にその中身をゴミ箱にぶちまけに行く。毎日の光景だ。処理が終わると制服のポケットから携帯電話を取り出すとカパッと勢いよく開けてからなにやら打ち込み始めた。
それを見ていたもう1人の少女、黄土たまは持参した鞄の中から1つの包みを取り出した。
「おかえりなさい。」
「……あれ、たままってそんなに大食いだったっけ?」
「そう見えます?」
「見えない。」
「実はこれ、サンドイッチ。」
たまが包みを広げると中からは可愛らしい手作りのサンドイッチが出てきた。
「れたす、半分こしましょ?」
「……は?別にいらないけど。」
「そうやって食べないから身長が伸びないんですよ。」
「なっ!?……んぐっ!」
そっぽを向いていたれたすが振り返った途端に口にサンドイッチを押し込むたま。このようにれたすは自宅から持ってきた弁当を食べないため、作ってみたのだった。耳付きの食パンからはバターの香りがする。半熟の卵にきゅうりやハム、レタスに玉ねぎが挟まった可愛らしいサンドイッチ。
「……意外と美味しいのね。」
「ふふ、よかったぁ。ちゃんと食べないと、ただでさえ薄い身体が消えちゃいますよ。」
「そんなわけないでしょ!っていうかたまま、料理できるのね。」
「…………はい、まあ、一通り。」
「ま、凄いんじゃない?あたしなんてキッチンに立たせても貰えなかったし。」
「過保護ですね。」
「死にたくなるほどにね。」
たまは、真逆だった。料理ができるんじゃない。料理をしないと何も無かった。
「ねぇ、れたす。」
「なに。」
「親の愛って、なんなんでしょうね。」
「……あたしには必要なかったよ。」
「そうですか。」
「どうしたの、たまま。」
「私は……れたすが羨ましいです。」
--ごめんなさい、私、ちゃんといい子にするから。
小さな頃から母親にちゃんと接してもらえていた記憶は幼稚園のころ、父親がいる時だけだった。小学校に上がるとともに単身赴任をすることになった父親はもちろんたまのことも好きだが、仕事が好きでやりがいを感じていた。たまもそれは知っていた。一方母親は、父親が帰らないと遊びに行くような人で、「邪魔だ。」「いなくなればいい。」とたまを邪魔者扱いしていたのだった。
幼いながらに「私は母親にとってはいらない子なんだ」と理解してしまったたまは、できることはなんでもするようになった。そして、自立することだけを考えてここまでやってきたのだった。
高校に入ってからは目立たないようにと思っていたが、優良生徒として生徒会だふる〜てぃ〜ずだと勝手に決まっていたが、やることはこなしてしまえばそれでいい。他人に関与しなければ傷つかない。
「ねぇ、貴女不思議ね。あたしの次に賢いんだから、もっとみんなで遊べばいいのに。」
そんなときに、クラスを仕切っていたれたすに声をかけられた。
「ねえ、れたす。お弁当食べないなら、私が明日から作ってきましょうか?」
れたすの目が見開かれる。
「毒とか入ってたりしないよね?」
「今食べたじゃないですか。」
「たままがいいなら……。その、美味しかったし。」
また、そっぽを向くれたすにくすっと笑うたま。
「ええ、もちろん。だって、れたすのためですから。」
あの日、声をかけてくれたれたすが。自分とは違う、自分に無いものを全部持っているれたすが。
気になって気になってしょうがない。もっと、知りたいの。