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    g_negigi

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    g_negigi

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    去年の夏に書きかけていたさしす歌で浴衣着て花火大会に行く話。五歌です。書きかけのままですが、さしすの浴衣イラスト見て今年こそは書きあげようと思った。あまり上手く書けていないけど

    #五歌
    fiveSongs

    若者のすべて 夏になると、花火が上がる。それはこの国に住んでいる人間ならば当然のように受け入れている風物詩である。誰しも子供の頃に親に肩車をしてもらいながら、あるいは友達と浴衣を着て綿菓子を食べながら、夏の夜空に咲く大輪の花を眺めたことがあるだろう。
     しかし、五条悟は例外だった。特殊な育ちゆえに一般的な行事ごとをあまり経験したことがない彼は、ある時「俺、花火大会って行ったことねえ」と呟いた。そしてそれを聞いた呪術高専の同級生たちは、「じゃあ今年はみんなで行こうか」と提案し、彼は晴れて友人との花火大会を初体験することになったのである。「みんな」とは五条、同級生の夏油と硝子、そして五条が片思い中の先輩——庵歌姫の四人で、という意味だ。
     
     「さて、そろそろ行こうか」
    着たばかりの黒の浴衣の袷を整えながら、夏油は五条にそう声をかけた。五条も「ん」とだけ返事をする。五条は紺色の浴衣を身につけていた。二人で連れ立って寮から出て、高専の正門へと向かう。そこで硝子と歌姫と待ち合わせをしているのだ。
    「花火大会なんて私も久しぶりだな。楽しみだね」
    「って言ってもなー。空に火の玉が上がるだけだろ。一瞬で消えちまうもんの何がそんなにいいんだよ」
    「わかってないねえ悟。儚いものだからこそ、人は美しいと感じてそれを愛でるんだよ。それに、他にも楽しみはあるだろう?」
    夏油は意味ありげににやっと笑いかけてくる。「楽しみ」が何を指しているのかを五条は十分承知していた。
    「……別に、歌姫まで誘わなくても良かったのに。うるさいだけだろ」
    「まあまあ。好きな人と花火大会に行けるなんて一生のうちでそう何回もあることじゃないんだから、素直に楽しみなよ」
    「だから俺は歌姫のことはなんとも思ってねえって」
    「あ、二人とももういるよ。おーい、お待たせ」
    五条の言葉は無視して、夏油は正門前にいた硝子と歌姫に向かって手を振った。五条も二人の方に顔を向けると、その姿を見て思わず息を呑んだ。
    「あら、あんたたちも浴衣着てきたのね」
    「せっかくなんでね。二人とも可愛いですね。ね、悟」
    「あー……」
    硝子と歌姫の二人は、色違いでお揃いの浴衣を着ていた。硝子のものは紺地にピンク色で、歌姫のものは白地に紺色で朝顔の柄がついている。歌姫は普段とは髪型も変え、長い黒髪を簪を使ってアップにまとめていた。うっすらと化粧もしているらしく、薄桃色に染まった頬が愛らしかった。
    「……馬子にも衣装、って感じ」
    五条は内心どぎまぎしながら、辛うじてそれだけを口にした。
    「ふん。どうせそう言うだろうと思ってたわよ」
    歌姫は五条を睨みつけながらそう言った。硝子はそんな歌姫に向かって宥めるようにこう言う。
    「こいつガキなんで、放っときましょう。先輩はめちゃくちゃ可愛いです」
    「硝子もすっごく可愛いわよ」
    「はいはい、それじゃそろそろ行きましょうか」
    夏油の一声で、一同は高専最寄りのバス停まで歩き始める。二人できゃっきゃとはしゃぎながら前を行く女子二人の後ろを歩きながら、夏油は五条にそっと耳打ちした。
    「もっと素直に褒めればいいのに。あれじゃますます嫌われるよ」
    「……うるせー」
    そう言いながら、五条は前を歩く歌姫の白い頸に目を奪われずにはいられないのだった。

     歌姫の声を聞くと、胸がちりちりする。姿を見ると、脳に火がついたように熱くなる。その感情は果たして恋なのだろうか。五条にはそれがいまいちよくわからなかった。今も硝子と一緒に夜店を楽しんでいる歌姫の後ろ姿を見て、胸が焦げるような感覚に襲われていた。
     
     「あー、金魚すくい!久しぶりにやろうかな」
    「金魚は高専で飼えるんですかね」
    「確かに水槽とかなさそうよね。あ、射的もある!こっちにしよ!」
    そんな五条の心情を知ることもなく、歌姫と硝子は夜店を蝶が舞うようにあちらこちらと見て回っている。五条はリンゴ飴を口にしながらその後ろを夏油とともについていっていた。
    「ったく、いい歳して落ち着きねえなー」
    「悟こそ子どもだねえ。女の子がかわいい浴衣を着て楽しそうにしているところに一緒にいられるだけで役得じゃないか」
    夏油はイカ焼きを食べながら、ぼやく五条に向かってそう言った。
    「本当お前はそういうところチャラいよな」
    「君には言われたくないね」
    さっきからなんとなく落ち着かない自分と違い、余裕綽々と言った様子の夏油に五条は「けっ」と吐き捨てる。
    「えー、当たらないー!」
    「先輩、もっと上ですよ」
    歌姫と硝子は射的ゲームに興じている。500円で一人3発、賞品を狙って打つことができるらしい。歌姫はすでに二回打ってしまっていた。どうやら賞品棚の端の方にある、それほど大きくはないクマのぬいぐるみを狙っているらしいが、全く当たる気配がない。こんなのも当てられないで、普段どうやって呪霊を祓っているんだか。五条は頭の中でそう独りごちた。残りはあと一回だ。歌姫は今度こそ、というようにきりっと身構え、最後の一発を放った。
    「あー!外れたー!」
    弾は見事にぬいぐるみの左脇を通過してしまった。歌姫、マジでどん臭え。
    「あーあ、あれ可愛いのにな」
    「今度は私がやります。先輩にあのぬいぐるみ取って見せますよ」
    そう言って硝子は持っていた巾着袋から財布を取り出そうとする。しかしそれより先に、横からすっと紺色の浴衣を着た腕が伸び、屋台の店主に500円玉を手渡した。
    「え、五条もやるの?」
    驚いたように歌姫が声をかけた。五条は黙っておもちゃの鉄砲を受け取り、構える。
     
    ぽん。

    一発で当たった。さっき歌姫が狙っていたクマのぬいぐるみは後ろに倒れ、店主はそれを拾って「兄ちゃん、やるね」と言いながら五条に手渡す。
    「えー、なんか腹立つ……。」
    歌姫は複雑そうな表情を浮かべた。こんな夜店のゲームでまで五条に負けるなんて、とちょっとむくれているようだ。そんな歌姫に向かって、五条は今しがた勝ち取った戦利品を「ん」と差し出した。
    「……え。何」
    「やるよ」
    「え?私に?」
    「欲しかったんじゃねーの」
    歌姫には五条の行動が予想外だったと見え、目を丸くして一瞬固まった。五条は斜め下にちょっと俯き、「要らねーんならいいけど」と呟く。それで歌姫は、五条が自分のためにそれを取ってくれたのだ、と気づいた。
    「……いる。五条、ありがとう」
    「ん」
    そう言って五条は「あと二発、何狙うかなー」とまた鉄砲を手にした。歌姫はクマのぬいぐるみをそっと胸に抱いて、その様子を見ていた。
    「いやあ、青春だねえ」
    「えー。カッコつけすぎじゃん?」
    五条と歌姫より一歩下がったところで二人のやりとりを見ていた夏油と硝子はそう言葉を交わす。
    「せっかく私が先輩にいいとこ見せようと思ったのに」
    「まあまあ。悟にとっては好きな人とこうやって楽しむのなんて初めてなんだから、大目に見てあげなよ。……ところで硝子」
    夏油はこそこそと、硝子に何やら耳打ちをする。硝子は夏油のいうことに耳を傾けていたが、話を聞き終わると眉を顰めた。
    「めんどくさ。五条のためにそこまでしてやる必要ある?」
    「ま、親友としては初めての恋路を応援してやりたいわけだよ。硝子には歌姫先輩と一緒に楽しめなくて残念かもしれないけど」
    そう言って、夏油は五条と歌姫の方を見やった。この放っておいたらその仲が全く進展しなさそうな二人のために、夏油はある計画を立てていたのだ。

    ——ここまでしてやるんだから感謝してもらわないとね。

    親友の胸のうちを知ることもない五条の背に、夏油はそう心の中で語りかけた。

     花火の開始時間が近づいてきた。四人は花火が眺めやすい河川敷に移動する。大勢が同じ場所を目指して移動するので、人の流れができている。その流れにうまく乗って歩かなければ、簡単にはぐれてしまいそうだ。歌姫は密かに五条や夏油が一緒であることに安心していた。二人とも長身なので、そう簡単に見失うことはないからだ。特に五条の特徴的な白髪は良い目印だった。そう思った歌姫は、密かに五条の後ろにぴったりついて歩いていた。それに気づいた五条は、素知らぬ顔をしながらも後ろが気になってしょうがなかった。なんだ、この可愛い生き物は。まるで親鳥の後ろをついて歩く小鳥だ。
     
    ——どうせなら、絶対にはぐれないように、少し後ろに手を伸ばして歌姫の手を取って引っ張ってやった方がよくないだろうか。いやそうすると、俺と歌姫が手を繋ぐことになる?それはちょっとどうなんだろう。いや、俺はいいけど、歌姫に嫌がられたら。伸ばした手を拒まれたら、ショックでもう花火を見るどころではなくなってしまう。それは嫌だ。絶対に拒まれたくない。じゃあやっぱり今のままでいいのか。って、一体何を考えてるんだ俺は。

     五条の思考はこんなふうにぐるぐると回っていた。なんでだか歌姫と一緒にいると調子が狂う。その存在を意識しすぎて、柄にもない行動をしてしまう。夏油や硝子に言わせると、それは俺が「歌姫のことが好き」だという証拠なのだそうだ。でもそれはない、絶対にない、と五条は自分に言い聞かせていた。認めてしまったら、もう歌姫と今までと同じ関係ではいられないような気がしていた。今の関係を変えるのは嫌だ。俺が歌姫を揶揄って、それに歌姫が噛みついてくる、そうやってお互い楽しく過ごしていける日常を、失いたくはない。
     
     
     
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