ある穏やかな日の事だった。
「君には僕を救えないし、僕にも君は救えない」
牧師は降旗に背を向けたまま言った。降旗は白丘がコーヒーを淹れてくれると言うので座って待っていた。
黒い液体が透明なポットの中にぽとりぽとりと落ちる。
なぜ急に白丘がそんな事を言い出したのか、降旗にはめっきり分からなかった。
「そんなの分からないじゃないですか――」
降旗はムッとしている。心のどこかでは目の前にいる恩人の苦悩をどうにも出来ないことなど自分でもうっすらと感じていたからかもしれない。
「――私の心理学的な知識で助けになれることがあれば、と考えています」
白丘はふう、と息を吐き出すとくるりと振り返った。
「降旗くんが看てきたという患者も一体どれだけの人が本当に救われたんだろうね」
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