こっちにくるな 無邪気な淵源の四男・デリザスタは元来、自由闊達に己のやりたいことだけをやる男だ。
ストレスは肌に悪いから、できるだけムカつかない娯楽を。気に食わない奴がいたら即消去。適当な冗談を言って緩く楽しく生きる、それがデリザスタの信条だ。
会議に呼ばれた兄弟達をぐるりと見渡す。皆形だけは真面目な顔をして席に着いているのが可笑しい。汚れ一つ無い服や肌からは、拭うことが出来ない血の匂いが染み付いているというのに。
「オニーサマ達は相変わらずだなぁ」
ヘラリとそう言うと、三男のエピデムが肩をすくめた。
「そういうあなたもですよ。一番血生臭いじゃないですか」
「あー、エルフ生搾り飲んでから来たから。さーせんオニーサマ」
そう言いつつプリンを食べる手を一切止めようとしない彼に、内心ウエッと舌を出す。己の拘り以外は全てどうでもいいというエピデムの態度は、その徹底具合がたまに空恐ろしい。
デリザスタは楽しさを追求するタイプだが、エピデムは本当にプリン以外の全てに興味がない。人生を彼なりに楽しんでいそうなことだけは分かる。
二男に目を移す。ファーミンは宙を見て、次はアレが欲しいとブツブツ呟いている。
マジで趣味悪、とデリザスタは呟く。
ファーミンは手に入れた物にすぐ興味を失ってしまう。一旦手中に収めたからには壊すまで遊ぶタイプのデリザスタとは、趣味が何から何まで違った。未知への好奇心というにはあまりに刹那的なそれは、彼には酷く滑稽に映った。
五男のドミナは行儀良く席に座り、辛抱強く父を待っている。
そのあまりの真面目さと必死さに、デリザスタは心の中で嗤う。
ドミナは兄弟の中でも特に父への忠誠心と愛に溢れている。誰よりも忠実であろうとするその姿は、もはや滑稽とかダサいとかを通り越してただひたすら哀れだった。
最後に、長男のドゥウムの顔を盗み見る。目元が隠されたその顔は、凍りついたように表情を変えない。ドミナ以上に真面目なこの男は、揶揄い甲斐もなくつまらない男であった。強さだけは確かだが、それだけでは人生は潤わないのだ。
足を組み直し、鼻を鳴らす。
全く理解もできない、仲も良くない兄弟達。子供を利用しかしない父。
側から見れば酷い家庭なのだろう、と適当なことを考える。心臓を預けたおかげで無限の治癒能力と魔力を手に入れて、それで思い切り好き勝手できるのだから、自分からすればこんなにいい環境も無いのだが。
親兄弟との仲良しこよしごっこほど薄寒いものも無い、とその時のデリザスタは思っていた。
事実はこうだ。
こんなの認められる訳がない、とデリザスタは歯軋りする。
相対する兄弟——レインとフィンは、短い会話でお互いの全てを理解したかの如く、一つになって彼に斬ってかかった。一糸乱れぬ連携に、デリザスタは目を剥く。
こんなことがあって良いはずがない。
何の損得も無く繋がる兄弟なんて、言葉も無く通じる兄弟なんて。ましてやそれが、自分が気持ちよく蹂躙できない相手だなんて、認めたくなかった。
——気持ち悪い。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!
こっちにくるな、このイカれた兄弟が!
脳内の声を掻き消すように、デリザスタは鉾を振るう。しかし激しく音を立てて迫る剣は、更にその威力を増していく。余裕を失い真っ白になっていく脳内に、レインの声が鋭く突き刺さる。
「必死にはならないんじゃなかったのか?」
瞬間、振るわれた剣のせいでデリザスタは視界を失った。再生し切らない脳はぐちゃぐちゃと崩れ落ち、溶けていく体の感触で己が負けたのだと知った。
もう姿も見えない兄弟に、デリザスタは怨嗟の声を上げる。
気持ち悪い、気持ち悪い、こんな奴らに、この俺が!
絶対に殺してやる、そう叫んだその声ごと断ち切られて、残っていた体の感触がプツリと消えた。