こうして彼は命を知った 何回繰り返したのか覚えていない。
わかるのはお父様——無邪気な淵源が、時を巻き戻しては六人目の兄弟を殺そうとしたこと。そして、自分たちが総出になって襲いかかっても奴を……いや、奴らを殺せなかったことだ。
デリザスタは遠のく意識の中で、それだけをはっきり感じ取った。本来なら時間遡行による世界線移動の記憶なぞ、魔法の主たる父にしかできないはずであった。
それを何の悪戯か、頭を吹き飛ばされた衝撃で知覚してしまったらしい。
二度目も三度目も四度目も、そしてそれ以降も、デリザスタはあの憎き兄弟に敗れていた。
黒と金が混ざった髪に、揃って立ち向かってくる強い眼差し。髪色が似ているならそのイカれ具合までそっくりかよ、と心の中で悪態をつく。
負ける道理など無いはずだった。これまでに三百人もの「真面目くん」を葬ってきたのだから、今回も片手間に捻り潰せるはずだったのに。
手の中の勲章を毟り取られ、デリザスタは声の限り叫ぶ。
ワインを片手に、輝かしい功績に酔いしれることが好きだった。ストレス発散に振るう鉾は、自分が誰より高次な存在であると教えてくれた。目を剥き歯を食いしばって立つ奴らを痛ぶるのが、何よりも楽しかったはずだ。
必死になどなりたくなかった。あんなに惨めな存在に成り下がりたくなかったから。
もう再生もできない体で、彼はなぜかふと己の兄弟のことを思った。皆こういう風に敗れたのだろうか。それとも、己だけがこんなに嫌な死に方をしたのだろうか。
どの世界線でも、兄弟と理解し合うことは無かった。デリザスタは長男の真面目さも、二男の好奇心も、三男の執着も、五男の愛情も、そして六男の強さも理解しなかった。理解したくなかったから、それで余計なストレスを負いたくなかったから、理解しようともしなかったのだ。
それぞれの個を生きて、そしてデリザスタは今強く結びついた「兄弟」に敗れ去ろうとしている。
本当に気持ち悪い、イカれた兄弟だ。認めたくない。認めたくない。認めたくない!
何百回でも、何千回でも、何万回でも、必ずこの兄弟を殺さなくてはならない。
この時初めて、デリザスタは必死になる自分を正しく認識した。すぐ命と共に消えるであろうこの衝動を、失いたくないと強く胸に刻んだ。