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    じろ~

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    じろ~

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    もだもだするマシュフィンの第三弾です!今回はドットくんだけでなくランスくんも巻き込まれています!
    「それは甘く柔らかく」と「まだ未知のそれ」の続きのお話です。

    #マシュフィン
    marshmallow
    ##マシュフィン

    彼との距離は、一歩ずつ いつものお茶会でのことだ。
     以前のようにランス、フィン、レモンが所用で遅れるというので、ドットは一足先に三〇二号室を訪れていた。
     扉を開けると、そこにいたのはいつもどおり筋トレに勤しむマッシュ——ではなく。
    「……はぁー……」
     部屋中の空気が重たく感じるほど凹んだ様子のマッシュだった。

     どこからどう見ても落ち込んでいます。元気がないです。
     そういったジメジメしたオーラを放つマッシュに、ドットは思わず引いた顔をした。
    「うわっ、めんどくせー感じになってっけど大丈夫か? お前」
    「大丈夫じゃない……」
     ズーンと沈んだ顔でうつむく彼は、頭からキノコでも生えてきそうな落ち込みようだ。それにドットはため息を吐くと、「ちょっと待ってろ」と言って席を立つ。
     気分を落ち着かせる効能のあるハーブティーを淹れて、マッシュの前に置く。彼は顔を上げて礼を言うと、ちびちびと口を付けた。
    「んで、どうしたんだよ」
     自分もお茶を飲みながら話を促す。すると、マッシュは少し黙った後ためらいがちに口を開いた。
    「……フィンくんに避けられてる気がする」
     その言葉に、ドットは目を瞬かせた。
    「マジ⁉ お前ら普段からあんなにベタベタしてんのに⁉」
    「えっ、そんなに仲良く見える?」
     ほんのり顔を赤らめたマッシュに「急に惚気んじゃねえ。今この場で暴れてやろうか?」と言いかけたものの、ドットはお茶を飲み込むことで何とかそれを我慢した。モテる主人公とは、こういった場で冷静に話を聞いてやれるやつなのだ。知らんけど。
    「……でも、最近は近づくと距離置かれるようになった……」
    「あー、そうだったか……?」
     言われてドットは普段のマッシュとフィンを思い浮かべる。この二人は正直、ずっと距離が近い。それはもう、完全に付き合ってね? というような距離感なのである。だから、ドットにはマッシュの言う「避けられている」が、普通の人の距離感になったようにしか思えなかった。
    「具体的にどんな時に避けられてるって感じるんだ?」
     そう聞くと、マッシュはカップを弄びながら答える。
    「フィンくんを褒めようとした時」
    「おー……お前あれちゃんと実践してんのか……」
     妙に感動し、ドットは鼻の下を指で擦った。自分が教えた相手との距離を縮める方法を実行してくれていることが、なんとなく嬉しいような気恥ずかしいような。
     そう思って微笑むドットに、マッシュは言う。
    「そのせいでフィンくんに嫌われたんだ……やらなければよかった……」
    「んだとコラ表出ろ! 出ねえとこの場で暴れてやるからな⁉」
     キレるドットと沈むマッシュで場が混乱状態に陥った時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


    〇 〇 〇


     ランスは隣にチラリと目をやった。そこではまたしても自分に頼ってきたフィンが、なんだか百面相している。顔を赤くしたり青くしたりして汗をかきながら課題をこなす彼に、ランスはどうしようかと考えた。脳内のアンナが、ランスにこう囁く。
     ——お兄ちゃん、お友達が悩んでるみたいだよ。お話、聞いてあげようよ!
    「そうだな、アンナ……」
     頷いて、ランスはフィンに向き合った。
    「フィン、さっきからどうした。凄い顔色だぞ」
    「いや僕の方がどうしたの? って聞きたい時間が流れてたよね、今」
     フィンは顔を上げると一番にツッコミを入れてくる。どうやら元気はあるらしい。
    「話は聞いてやる。妹が心配しているからな」
    「怖い! この場に妹さんがいる前提で話してくるの怖い! でもありがとう!」
     フィンは震えながらも、言葉を選ぶように宙を眺めた。ややあってから、彼は口を開く。
    「……あの、これはあくまで僕の友達の話なんだけど」
     お前の友達はオレらしかいないだろ、と思ったが、アンナが「意地悪なこと言わないの!」と怒るので何も言わずに話を聞く。
    「その友達が、その……毎日凄く褒めてくれる人がいて、悩んでいるんだって」
    「褒められるのはいいことだろう」
    「そうなんだけど……」
     フィンは視線をウロウロさせた。ただでさえ赤かった顔が、羞恥なのか更に赤く染まっていく。
    「褒め方が……なんか凄くて……」
    「どう凄いんだ」
    「……こっちの顔を手で挟んで、す、すごく顔を近づけたり、とか」
    「それは……」
     ランスは考え、首を傾げる。
    「……頭突きか?」
    「違うよ。褒めながら頭突きしてくる人いたら嫌だよ」
     冷静にツッコミを入れられ、ランスは無言で「早く続きを言え」というオーラを出す。
     その圧に呑まれたのか、フィンはうう、と呻きながら小声でこう答えた。
    「…………なんていうか、キスできるような距離だったから……へ、変に意識しちゃって…………」
     その言葉に、ランスは思考を止めた。その状況は、どこかで聞いたことがあるような気がする。
     そこで、アンナが興奮気味に話しかけてきた。
     ——お兄ちゃん! 今のお話、私が大好きなあのシリーズにそっくりだよ!
    「あのシリーズ……ああ、良く話してくれた恋愛小説か」
     その言葉に、フィンがビクッと反応した。もはや湯気が出そうなほど真っ赤になった彼を眺める。
     ——ヒーローがね、主人公に向かって甘い言葉を囁きながらちゅーしようとするの! 凄いよ、お話のまんま!
    「アンナ、そんなふしだらなシーンを読むにはまだ早すぎるぞ‼」
    「怖いよさっきから‼ 僕の話聞いてるときにアンナちゃんと話すのやめてよ‼」
     思わずランスが目をカッと開き叫ぶと、フィンも続けて叫ぶ。二人そろって周りから白い目で見られ、二人はきまり悪く居住まいを正した。
     しかし、とランスは考える。フィンの話を聞く限りだと、アンナが言うとおり恐らく恋愛関連だと思っていいだろう。恐らく相手に好意を持たれていて口説かれている最中。
     そこまで考え、ランスは感慨深くこう言った。
    「そうか……フィンももうそんな年頃なんだな……」
    「ランスくんは僕の何なの⁉ あと同い年だよ!」
    「……お前、明らかに好かれているだろう、相手から。お前の気持ち次第じゃないか?」
     ランスが真面目に指摘すると、フィンはピャッと飛び跳ねる。
    「す、好かれてるって……友達だよ⁉」
    「だからこそだろう。近しい相手に友情ではない好意を抱いていることに気が付き、関係を発展させるために行動する……よくある話だ、と妹が言っている」
     その言葉に、フィンは頭を抱えた。
     足をジタバタさせしばらく悶えた後、彼は消え入りそうな声で囁く。
    「…………ほんとに、そうだとしたら、どうしよう」
     その様子に、ランスは思う。
     この感じからして、脈しかないだろう。脳内のアンナもそうだそうだと言っている。
    「フィンがそれに嫌だと思わないなら、応えてやってもいいんじゃないか」
    「こ、応えるって……」
     狼狽えた声を出すフィンに、ランスは言い聞かせるように話す。
    「まずはお前がやられたように相手を褒め返してみたらどうだ? それで反応を見れば、お前のことをどう思っているかある程度分かるだろう」
     その言葉に、フィンは顔を上げて目をパチクリさせた。
    「そっか……うん、やってみる。……ありがとう、ランスくん」
     そう言って照れくさそうに笑うフィンに、ランスは脳内のアンナに話しかける。
     こいつ、途中から「自分の友達の話」だという設定を忘れていたな、と。


    〇 〇 〇


     ドットがジメジメしているマッシュの代わりにドアを開くと、そこにいたのはランスだった。
    「んだよスカしピアス。お前普段ノックなんてしねぇだろ」
    「うるさいぞこのトゲトゲ頭が。心の準備が必要だと言うから、覚悟を決めさせてやったんだ」
    「はぁ? 覚悟って……」
     そこまで言って、ドットはランスの後ろに隠れるように立っているフィンに気が付いた。彼は真っ赤な顔で、何やら深呼吸している。
    「お? どうしたんだよフィン……ってアッ」
     思わず普通に声をかけた直後に、マッシュが彼に避けられているという話を思い出しドットは口をつぐんだ。フィンは思い切ったようにドットの脇をすり抜け、マッシュの側に行く。
    「マッシュくん」
    「…………フィンくん」
     ノロノロと顔を上げたマッシュに、フィンは恥ずかしそうに潤んだ瞳で話を切り出した。
    「あの……最近ごめんね。僕、変な風に避けちゃったかも」
    「……」
    「マッシュくんが褒めてくれることが多くなって、僕その……」
     そこでフィンは一旦言葉を切る。スーハ―、と大きく息を吸って吐き、彼はグッとこぶしを握ってこう言った。
    「あの、マッシュくんのこと見るとドキドキしちゃって! 大変だったんだ!」
     ドットはその叫びにへぁ、と変な声が出る。
     思わず隣にいるランスの顔を見ると、彼は何かを悟ったように首を振る。
    「…………本当?」
     黙っていたマッシュが、やっと口を開いた。
     暗く沈んでいた瞳に微かな光を宿して、彼はフィンを見つめる。
    「うん、マッシュくん、凄いかっこよく褒めてくれるから……その、まるで小説のヒーローみたいだなんて思って」
    「かっこよかった? 僕」
     それに、フィンはこくりと頷く。相変わらず真っ赤な顔で、彼はこう言い切った。
    「マッシュくんはカッコいいよ。いつでも」
     マッシュが立ち上がる。思わずと言う風にフィンを抱きしめる彼と、抱きすくめられてますます顔を赤くして慌てるフィンを眺めながら、ドットは呟く。
    「アイツら、オレらのこと、忘れてね?」
    「一体何を見せられているんだろうな、オレらは」
     ランスのそのセリフに、ドットは深く頷いた。
     とりあえず、レモンちゃんが来るまでは好きにさせてやるか……。
     そう思い、ドットはランスを促してそっと部屋を出る。
     気遣いができる男はこれだから困るぜ、と言うと、ランスは珍しく何も言わずに頷いた。

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