ゆ〜つ〜ば〜夏の別バージョン書きかけ「どうも〜! あなたの、世界の、みぃんなの孫、かんちゃろで〜す!」
ノートパソコンの上部についているカメラに向かって俺は手を振る。チャット欄には「ばんは〜」「可愛い」「孫w」と見慣れたアカウントや知らないアカウントからのチャットが入ってきた。まだ登録者数が少ないので生配信をしたところで視聴者数はそこまで伸びないけど、こういうのは地道な努力が大切ってどこかで見た気がするので俺は暇を見つけては生配信をしようと決めた。
* * * * *
「え? テーブルの上のコレ?」
俺は酔いで視界がぼやけてきた中チャットを読む。『テーブルの上にある四角いの何?』と書かれたそれに反応して、テーブルの上に置いていた小さい包みを持ち上げた。ノートパソコンのカメラに映るように見せると『そう』『確かに。気になってた』と続けてチャットが入る。
俺は卵色の紙に書かれた「極楽浄土」の文字を見る。
「コレね〜、なんか、届いたんすよ、家に」
へら、と笑えばチャットには『家に?』『大丈夫?』『かんちゃろ可愛いから心配』『家どこ?』と書き込まれる。一緒に入っていたのは「極楽浄土」の中身である通和散の取扱説明書とアナルビーズとジョックストラップのパンツだ。酔っ払っている今なら怖いものはないかもしれない。
「欲しいものリストあるじゃん、あれで来たみたいでぇ」
ハイボールが死ぬほど飲みたいから! と入れていた業務用ウイスキーのペットボトルと一緒に届いたものたちをカメラに映るように並べる。チャットが今まで見たことないスピードで流れていった。『マジで?』『大丈夫?』『心配になる』という言葉も流れているけど、中にはやっぱり『見たい』『今使ってよ』『かんちゃろの可愛いとこ見たい』というものもある。
何となくうっすら気づいていたけど、俺の視聴者って半分ぐらい変態だよな。その変態たちに引かない俺も俺だけど。
グラスに残っていたハイボールを飲み干してから「氷持ってくる〜」と俺はカメラの前から動いた。右手には空のグラス、左手にはこっそりパンツを握りしめて。見たいって言われたらさぁ……やるしかなくない?
氷を入れたグラスをカメラに見せてからウイスキーをポンプで注ぐ。これは毎回同じ濃さのハイボールが作れるから最高だ。誰がくれたのか分からないけどありがたい。ウイスキーだけでも嬉しいのに、ポンプと炭酸水もつけてくれた。まぁ、その人がアナルビーズもくれたわけだけど。
「てなわけでぇ、いい感じに酔っ払ったし使ってみようと思います!」
俺は作ったばかりのハイボールを半分ほど飲んだ。こういうのは勢いが大切だよね。
「これ、通和散っていって、江戸時代とかのローションみたいで……ええと……まず口に含む……」
包みの中に入っていた和紙を口に入れる。取扱説明書の通りに噛んでみたけど、歯にくっついてしまった。うええ、待って、何これぇ。
「ぬめぬめぇ?」
と声に出すと、チャットに『頑張れ』『ツバ出して』『えっち』と書き込まれる。そうだよな、唾を出さないといけないんだよな。眉間にシワを寄せながら噛んでいると、どうにか唾が出始めた。そこからは早くて、いつの間にか口の中には唾以外のものが溜まってきた。
どれぐらい必要なのか分からないけど、もう口の中がいっぱいになってきたので俺はべえ、と左手のひらに全部出した。小さくなった紙を右人差し指でくるくる回す。うまくカメラに映すのが大変だけど、これを見せておかないと意味がない気がした。
「できたよ〜、確かになんかね、ぬるぬるしてるかも」