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    jojoformaggio

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    jojoformaggio

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    2年くらい前に書いたイルホル。
    もう埋もれて出てくることはないと思うので再掲します。

    #イルホル
    trampoline

    男と猫の話。 男がソファに座り、猫を膝に乗せて撫でている。
    その猫は黒く長い毛をなびかせながら、気持ちよさそうに男の大きな手に撫でられている。

    「イルーゾォ」
    「みゃお……」

    名前を呼ばれた猫は返事をするように軽く鳴き、立ち上がり優雅に男の肩に飛び乗ると頬をざらついた舌で舐めてもう一度小さく鳴いた。

    「お前は本当に可愛いなぁ」

    男が両手で猫を持ち上げると、ソファに寝転がりお腹に猫を寝かせる。
    男は窓から入ってくる風に眠気を誘われ、大きなあくびをするとそのまま目を閉じて寝息を立て始めた。

    「………」

    男が眠ったことを確認すると猫はゆっくりと男を起こさないよう移動して、男の唇に鼻を軽く擦り付けた。
    愛おしそうに男を見つめ、また元の場所に戻り体を丸くして目を閉じ思い馳せる。

    猫は前世の記憶を持っている。
    自分は背の高い男だった。
    恋人も居た。同じく男だった。
    その男こそ、今自分を飼っているこの男だ。
    男は、前世での名前はホルマジオといった。
    今は違う名前のこの男が、猫を飼ったのは最近だった。
    雨に濡れているこの猫をたまたま見つけ、放っておけなかったらしい。
    猫はこの男がホルマジオだと気付いていたが、男は猫がまさか前世の恋人だとは思ってもいないだろう。
    今の生活を見ていると、前世の記憶があるとも思えない。

    それならば何故、何故この男は自分に「イルーゾォ」と名を付けたのか。

    何か思うことがあったのか。本当は自分に気付いているのではないか。
    猫は悲しげに鳴き、男が自分を思い出すその日を待っている。

    それから数年経ったある日、男はいつものように猫の毛繕いをしていた。
    長い毛を櫛で梳いていく。猫は男にしてもらう毛繕いが好きだ。
    艶のある毛が綺麗に揃えられていく。
    鏡の前で男は猫を持ち上げて、綺麗にした毛に指を通す。

    「イルーゾォ、綺麗になったな」
    「みゃ〜」

    鏡の前で男は猫を抱きしめる。
    拾ってきたあの日、猫はボロボロだった。
    あの日から何年経っただろう。
    拾った恩からか、猫はよく懐いてくれていると男は感じていた。
    もちろんそれだけではないが、男には前世の記憶は無かった。

    「なぁイルーゾォ……笑わないで聞いてくれよな」
    「みっ?」

    男が猫の頬を撫でて微笑む。

    「オレさ、お前のこと……ずっと前から知ってる気がするんだ。そんなわけないのに……何でだろうな。もしかして前世でもお前の飼い主だったのかなぁ」
    「っ!!」

    男は笑いながら猫の腹をわしゃわしゃと撫でる。猫としては気が気では無かった。
    男が自分のことに気付いてくれそうなのだ。

    「みゃー!」
    「はは、お前もそう思うのか?」

    違う。
    オレは人間だった。お前の恋人だった。
    思い出してくれ。

    猫は必死に鳴いたが、男は猫の機嫌が良いとしか思わない。
    会話が成り立っている気がして男は気が良くなり、猫に上等な猫缶を用意した。

    「み〜……」
    「食わねぇのか?」
    「みゃ!」

    ガツガツと猫缶を食べる猫を見て男は嬉しそうに笑う。
    そうじゃないのに、と猫は美味しいご飯を貪りながらどうやって気付いてもらおうかと思考を巡らせる。
    男が自分と猫の映る鏡に目をやる。
    実はこの鏡も、男が一目惚れして買ったものだった。
    どうして鏡に一目惚れなんかしたのだろうか。
    拾ってきた猫も同じだった。
    一目見て、この猫を連れて帰らなければ行けないと感じたのだ。何かが引っかかる。
    この鏡と猫に、何があるのだろう。

    ふと、男が鏡面に触れる。
    ぐにゃりと鏡面が揺れて自分じゃない誰かが映りこんだ気がした。

    「っ!?」

    慌てて後ろを確認するが、猫以外には誰も居なかった。
    もう一度恐る恐る鏡に目を向ける。
    猫が居るはずの所に、確かに誰かが映っている。
    それはいくつもおさげを束ねた男だった。
    このおさげの男に、見覚えがある気がした。

    「イルーゾォ……」
    「みゃお!」

    猫が男に近付く。
    鏡面から目を離せない男に猫が近付く度、鏡の中ではおさげの男が近くなる。

    「イルーゾォ……なんだよな……?」
    「みゃ〜」

    猫が男に擦り寄る。
    鏡の中のおさげの男は、飼い主の男を抱きしめている。 飼い主の男の頬を涙が伝った。
    何故自分が泣いているのか理解出来なかったが、男は猫を抱き上げるとそのまま涙を流し続けた。

    「分かんねぇ……分かんねぇけど……お前はオレの大切な……大切な誰かだったんだな……」
    「………」

    猫は黙って男の涙を舐めとる。
    次に鏡を見た時には、もうおさげの男は映っていなかった。
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    高間晴

    MAIKINGチェズモクの話。あとで少し手直ししたらpixivへ放る予定。■ポトフが冷めるまで


     極北の国、ヴィンウェイ。この国の冬は長い。だがチェズレイとモクマのセーフハウス内には暖房がしっかり効いており、寒さを感じることはない。
     キッチンでチェズレイはことことと煮える鍋を見つめていた。視線を上げればソファに座ってタブレットで通話しているモクマの姿が目に入る。おそらく次の仕事で向かう国で、ニンジャジャンのショーに出てくれないか打診しているのだろう。
     コンソメのいい香りが鍋から漂っている。チェズレイは煮えたかどうか、乱切りにした人参を小皿に取って吹き冷ますと口に入れた。それは味付けも火の通り具合も、我ながら完璧な出来栄え。
    「モクマさん、できましたよ」
     声をかければ、モクマは顔を上げて振り返り返事した。
    「あ、できた?
     ――ってわけで、アーロン。チェズレイが昼飯作ってくれたから、詳しい話はまた今度な」
     そう言ってモクマはさっさと通話を打ち切ってしまった。チェズレイがコンロの火を止め、二つの深い皿に出来上がった料理をよそうと、トレイに載せてダイニングへ移動する。モクマもソファから立ち上がってその後に付いていき、椅子を引くとテーブルにつく。その前に 2010

    高間晴

    DONEモさんの好きな場所「海と雪原」を踏まえて、チェズモクが雪原の夜明けを見に行く話。
    巷で流行りの「おじさんが〇〇だった頃の話」構文が使いたかった。
    ■夜明けを見に行こう


     とある冬の夜更けに、二人で温かいカフェオレが飲みたいと意気投合した。ベッドから二人抜け出すと、寝間着のままでキッチンの明かりをつける。
    「……そういえば、前にあなた『ヴィンウェイにいたことがある』というようなことを言っていましたよね」
     コーヒーを淹れながらチェズレイが訊ねた。モクマはコンロから温め終えた牛乳の小鍋を下ろしながら「えー、そうだっけ?」と答え、火を止める。チェズレイはおそろいのマグカップにコーヒーを注ぎ分け、差し出される温かい牛乳の鍋を受け取る。その表面に膜が張っていないのは、二人で暮らすようになってからモクマが気をつけ始めたおかげ。モクマひとりで飲む分には膜が張っていても気にしないが、神経質なチェズレイはそれを嫌うためだ。
     チェズレイはモクマの記憶の引き出しを開けようと、言葉を続ける。
    「ほら、ここで暮らしはじめて間もない頃ですよ。ボスにヴィンウェイ名物を送るためにスーパーに行った日」
    「……んー? ……あ! あの燻製サーモンとナッツ送った、あの時の」
    「そうそう、その時です」
     チェズレイは鍋からコーヒーの入ったマグカップに牛乳を注ぎ、黄 3173