小さい時に出会った君は、体が弱い俺の手を取って、一緒にバスケをした。いつも笑顔で俺を迎えに来て、お決まりのコートまで手を繋いで。俺を日陰に座らせて一人でシュートをしたり、俺を誘って少しだけバスケをしたり、二人で座ってお喋りしたり。俺と違って元気な体で走り回る君の姿は羨ましくて、それと同時に、いつも全力で楽しむ姿が大好きだった。あの時の思い出がなかったら、今の俺はここにはいない。
えいじくん、今日もかっこいい。
小さな俺が心の中でいつものように叫んでる。小さい時にバスケを教えてくれた神は、今日も俺の目の前で神的なプレーを見せてくれた。
「深津さん、さっきの見てくれました?」
「ピョン」
神は、俺より一つ下。本当は俺の方がこうやって聞きたい立場なのに。できれば年上、もしくは同学年で会いたかった。それなら俺が可愛がってもらえてた。俺が一つ上なだけで、いつも強引に俺を引っ張ってくれていた手が、今は姿を現すことはない。
「今のパス、最高っした」
「ピョン」
えいじ君の方が最高だ。
世界で一番最高だ。
そう言いたいけど、今の俺はキャプテンでみんなをまとめる立場。個人的な想いで、特別扱いはできない。
「大好きです」
「ピョン」
えいじ君は昔からこの言葉を言ってくれる。この大好きに特別な意味はない。今は自分のプレーが上手くいったのは俺のパスがあったから、感謝の意味を込めての“大好き”だ。でも、いつも言ってくれる。疲れてても、凹んでても、この言葉が俺の心を支えてくれる。
「深津さん、…あの、今日、部屋行っていいっすか?」
「ピョン」
いいプレーができた時は、こうやって近づいてきて、俺の耳元でご褒美をねだる。
「やった!かずくんと一緒にいられる」
ばか、今はそれはダメ。
…手、繋ぎたくなる。
小さい時、バスケットボールは外でやるものだと思っていた。体育館の中でやると分かったのは、小学校を転校してからだ。転校といっても、前の学校に行く事はほとんどなかった。というより、行けなかった。俺は病気を抱えていて、病院から出ることができなかった。でも手術してリハビリして普通に生活できるまでには克服して、運動もできるようになった。入院中、知り合った男の子にバスケを教わって、ほんの少しの間だったけど、会う度に外のコートで一緒に遊んだ。それがきっかけで転校した学校にバスケットボールクラブがあったから、そこに入った。俺は彼のようになりたかった。いつも楽しくプレーする姿に憧れた。あんな風に生きたい。そう思わせる彼を見て、手術をする勇気ももらった。バスケをしていたら、いつか彼に会えるかも。そう思って、上手くなるように必死に努力して、彼みたいに楽しくプレーして、結果、バスケに夢中になった。上手くなることが楽しい。知っていく事が楽しい。何もかもが楽しくて、生きている事が幸せだ。俺は生きる希望を与えてくれた彼に心から感謝している。だから、俺の中で彼は神になった。