すぅ、はぁー、ふぅっ…
気合いを入れる為に深呼吸する。あの最後の日以来、ちゃんと目を見て話すのは八年ぶりだ。今日の部活で新入生の顔は見てるはずだけど、俺自身を覚えてるかは不明。だから、「誰?」っと言われた時のシュミレーションもできている。心の準備は万端。あとはこのドアを叩くだけ。ドアを叩くのに、ここまで緊張するのは初めてだ。でも俺は、この日の為に八年も準備した。中学でも同じところに行けたけど、俺は敢えて高校を選んだ。体と心を整えて、全てにおいて、かず君を包み込めるように。でも、やはり最初の一歩はどうしても躊躇してしまう。
「よしっ」
勇気を出してドアを叩く。ドキドキと心臓が高鳴り、扉が開いた瞬間、もうダメだった。最後に別れてから、ずっとずっと求めていた、大好きな人にやっと触れられる。気づけばドアの鍵を閉めていた。
「かず君」
俺は話す前に、既にかず君を抱きしめていた。
この行動は俺の中のシュミレーションに含まれていない。衝動的に。本能で勝手に体が動いていた。でも、もう、後戻りはできない。
「俺の事、分かる?」
かず君が俺の事を忘れていたら、今の俺の行動は、かなりの異常者だ。
「え、いじ、君?」
はぁ、…
どうしよう…
覚えててくれた。
「嬉しいっ!覚えててくれたんだっ!」
俺の名前を呼ぶかず君は、すごく目が大きくなってて、めちゃくちゃ可愛い。相変わらず、いい匂いがして堪らない。嬉しくて、さっきよりも力強く抱きしめたら、体のラインがはっきりとわかった。俺の体にぴったりと収まって、引き締まった体に柔らかい肌の感触が、リアルに下半身を直撃する。
「かず君、会いたかった」
こうやって触れるのずっと待っていた。あの日から、ストーカーのようにかず君だけを追いかけて。
「…おれ、も」
「ほんとっ?嬉しい!…かず君、大好き」
俺の背中に手を回して、ぎゅうっと抱きついてくるかず君は、あの時と同じ、俺だけのかず君だ。
「可愛い。かず君、好き。元気になったんだね」
ずっと見てきたから分かってる。でもこうして触れてると、体がかなり大きくなって本当に元気になったんだと実感する。
「手術して、今は問題なく運動できるベシ」
「ベシ⁈その言い方、可愛いね。でも、そっかぁ。元気になったんだ!じゃあ、これからはいっぱい遊べるし、いろんなとこ行けるし、ずっと一緒にいれるね。…あっ、今は、先輩なんだった。先輩ってわかってるけど、二人の時は、昔と同じように話したい。敬語も使いたくないし、かず君って呼びたい。ダメ?」
正直、ダメと言われても、昔みたいに接してしまう自信がある。それくらい今のかず君は、昔と同じ、ふにゃっと蕩けるような顔で俺を見つめてくる。部活の時とは全然違う顔を、俺だけに見せてくれる。
「いいベシ。俺もそうしたいベシ」
「やった!かず君、大好き」
照れて少し顔を下げる仕草がなんとも可愛い。お陰で赤くなってる耳だけが露になる。その耳元にチュッとキスをすると、びっくりしたのか肩をすくめる。
「あっ、ごめんね。昔の癖で、つい。…嫌だった?」
「…嫌じゃ、ないベシ」
恥ずかしいのか、俺の首元に顔を押し付けて、顔を見せてくれない。
「ほんとっ!良かったぁ…。嫌われたらどうしようかと思った。じゃあ、二人きりの時は、これからもやっていい?」
「…いい、ベシ」
かず君の頭が、鼻の位置にずっとあって、かず君独特の甘い匂いがずっと香って、どんどん俺自身が反応する。
「かず君は相変わらず可愛いな。今度、いっぱい舐めさせて」
さすがにこの言葉はまずかったか。それとも俺のギンギンに反応してる下半身に気づいたのか。抱きしめる体が震えてきて、パッと体を離す。
「ごめんね。嬉しくて調子に乗っちゃった。怖がんないで」
なのにかず君は、俺の服を掴んできた。
「ちがっ、」
「ほんと?嫌じゃない?」
「…嬉しい、ベシ」
はぁ、よかった。嫌じゃないらしい。むしろ嬉しいと言われた。でもあの震えがなんなのか、気になるところではある。ずっと見てきたかず君は、幸運な事に人との接触は少ない。だから、強引に事を進めて、怖がらせないようにしないと。
「良かった。俺もかず君に触れられて超嬉しい。だから、これからも触ったりキスしたりするけど、大丈夫?」
「うん…昔みたいに、してほしい…ベシ」
昔みたいにって…
俺の心配なんて吹き飛ばすみたいに、そんな事を言ってくる。かず君はずっとあの時のまま、本当に純粋だ。今の俺が昔みたいに抱きしめたら、押さえが効かなくなる事を分かってない。分かってないところが最高に素敵だ。真っ白なかず君を早く俺色に染めたい。こうやって腕を引いたらすぐに俺の中に収まるかず君。本当に可愛くて、見えるとこ全部にキスしたくなる。また耳元にチュッとキスをすると、ちゃんとピクンと反応してくれる。
「じゃあ、今日はもう遅いから、部屋戻るね。また、こうやって来てもいい?」
「いい、ベシ」
「やった!じゃあ、おやすみのキスしていい?」
うんと頷くかず君は、昔の延長線くらいにしか思ってないんだろう。でも、こんなに近くにかず君を感じてるのに、耳や頬だけじゃ収まらない。顎をクイっと持ち上げ、最高に可愛くて、綺麗な顔がアップになる。この唇にすごくキスしたかった。ほんの一瞬、怖がらせないように。ふにっと触れた唇は予想以上に柔らかくて、マショマロみたいだった。
「初めてしちゃったね。かず君の唇、思ってたよりも、もっと柔らかい。マショマロみたい。ずっとしたかったから、めちゃくちゃ嬉しい。また、いっぱいさせてくれる?」
赤みを増して、蕩けるようにうんうんと頷くかず君を、これ以上直視したら暴走しそうで、目を逸らす為にぎゅっと抱きしめる。危うく襲いかかるところをどうにか踏みとどまった。でも、これだけ触れ合っていると、またキスしたくなる。この柔らかい頬も大好きだ。消灯時間が迫り、離れたくないけど、離れないといけない。名残惜しく頬を撫で、最後にもう一度キスがしたいと、顔を近づける。目を閉じてくれた瞼にキスをすると、開いた瞳がふるふると淡く揺らいだ。こんな綺麗な顔をこれ以上見たら、もう限界だった。また襲いそうになった腕に力を入れ、触れないように拳を握る。おやすみと言って、忍者のように足早に部屋を出る。俺の動きが早すぎて、呆気に取られてるかず君に、ごめんねと心の中で謝って、そそくさと部屋に戻っていった。部屋に戻ったらすぐに爆発した。今までにない長い射精だった。抱きしめてる間、ビンビンに勃起していたが、幸いにも腰に体が当たらなくて、それはバレずにやり過ごせた。でもバレていたらおそらくそのまま押し倒して、事に及んでいた。そんな失態をしなくて本当に良かった。これでまだ俺は、完璧な男を演じられる。