紅葉帰り道、二人肩を並べて歩く鬼と呪術師の姿があった。
二人は紅葉の季節を迎えた道を歩いている。
「昔は今ほど建物はなく、自然の中に家があるような所に居たときもあったな」
ヴォックスはまぶたを閉じ、回想に浸るように空を見上げた。
「秋になると朱や黄金色に色づいた葉が風にのって落ち、川の流れにのって山から降りてくるのだ。
それを見ると、ああ、涼しくなったなとよく思ったものだ。
子供は誰が一番大きな葉を見つけられるか競い合い、大人は落ち葉で子供たちに芋を焼いていたものだ」
過去を穏やかに語り終え、ヴォックスはシュウを見つめた。
語られた風景に思いを馳せていたシュウは素敵だね、と返事をする。
「しかし今は、違った紅葉を見慣れ、親しんでいる」
彼の視線は色づいた木々が規則正しく並ぶ道路に向かう。
「昼間にみる紅葉は、華やかで活気がある。
人々は食べ物を持ち合い、音楽を聴き、語り合う。
しかし、私は夜の紅葉の方が好きだ。
闇夜に隠された美しい情景に想いを馳せ、どんな姿であったか、どんな色であったか、ひとつひとつ思い出し、私は心を震わせる」
ゆっくりと瞬いて、金色の瞳がシュウを捕らえる。
「他の者は知らぬ、美しい景色。
私だけが独り占めでき、味わうことのできるそれは、私の唯一の楽しみであり、至上の娯楽となった」
「あえて夜景を選び、思いを寄せるなんて雅だね。
何だか僕もそれを見たくなってきちゃった…」
無邪気に笑うシュウの頬に手を当て、ヴォックスは額を当てるように顔を近づける。
「できることなら叶えてやりたいところだが、きっと難しいだろうな。
何故ならその紅葉は、私の目の前にあるのだから」
その含みのある言い草に、シュウは一瞬身を強張らせた。
彼の言いたい事は、本当に景色の事であっているのだろうか?
『私の美しい紅葉』
熱を持った視線で優しく、低く、目の前で囁かれる。
言葉の指す意味を汲み取ったシュウは、首から上がかっと赤く染まり、目を見開いた。