冬支度冬に向けて、快適に家に籠もるために二人は買い物に来ていた。
ヴォックスに連れられて、シュウはバスグッズが置いてある場所へとついていく。
升目状に区切られおしゃれに飾られた棚に、色とりどりの香り付きの入浴剤が並んでいる。
緑や白、ピンクや赤など、まるで花のように並んだそれらはシュウの目にも留まった。
”この香りはリラックスできそうだな”、”この香りは贅沢な気持ちになりたい時には良さそうだ”など、吟味しているヴォックスを見つめる。
(少し、不思議な感じだな…。少女チックといえば失礼かもしれないから、こういう場合は高貴という言葉が似合いそうだ)
そう考えていると、ヴォックスがシュウの視線に気づく。
「どうした?」
「なんでもないよ、ただ…君の持ってる薔薇の花弁のそれ、高貴な雰囲気が君とあってるなって思って」
”どうもありがとう”と、わざとらしく綺麗な発音で返し微笑むヴォックスは、それをカゴに入れる。
「ふふ…そういう見方もあるな。写真を撮ったら映えるだろう、良いアイデアだ」
ヴォックスの視線は再び他の商品へ向く。
彼の視線の先にあるものを見つめ、再びヴォックスへと視線を戻す。
(湯上がりの君はきっといい香りがするんだろうな…)
ただなんとなく、ふとそう思っただけなのに、どんどんと連想が続いてしまう。
彼の濡れた髪はまとまるのだろうか、とか、濡れた肌のまま部屋に戻るのだろうか、とか、肌と湯気から伝わる香りを想像してしまい、いたたまれない気持ちになって視線をそらせた。
「シュウ、この白い猫のやつは、好きなんじゃないか?」
「へっ、え?」
ヴォックスの手に持っているのは”溶けて泡になるバブルにゃんこ”というかわいい白猫を模したものだった。
「溶けると中から白猫がでてくるらしい。それだけではなく泡で楽しめるなんて好きなんじゃないか?」
無邪気に笑うヴォックスに、先程までの邪念が脳内をよぎり、長く顔を見る事ができずに思わず視線が泳いでしまう。
「泡風呂は入ったことがあるか?楽しいぞ」
「ど、どうだったかな…」
返事に詰まるシュウに、ヴォックスはゆっくりと近づく。
「入ったことがないなら作ってやる。一緒に入ろう」
「……えっ!?」
戸惑うシュウの耳元に、ヴォックスは含みを込めた声で囁く。
「…顔が真っ赤だぞ、シュウ。一体何を想像したんだ?」
目の前の金の瞳がにんまりと見つめている。
固まっていると、手を引かれ、ヴォックスが嬉しそうに話す。
「そうと決まれば紅茶とコーヒーとおまえ好みの菓子も用意しないとな!ついでにあたたかそうなブランケットやパジャマも用意するとしようか!」
「えっ…え、泊まる前提!?」
「この際、全部試すまで付き合ってもらうぞ!」
手を引かれ、まだ先の約束に向けて冬の準備をする。
シュウはヴォックスと過ごす冬が待ち遠しくなった。