雪その日はヴォックスとカフェで待ち合わせをしていた。
店の中から眺める外の景色は、曇り空をしており、時折寒そうな風が人々を撫でていた。
手に持ったコーヒーに温まりながら通り過ぎる人々を眺めていると、目の前に大きな人影が立ち止まる。
男はコンコンと音を立ててガラスを叩き、注意を引く。
目の前のガラスに息を吹きかけて曇らせると、指でハートを描いた。
ハートから覗く月のような瞳が茶目っ気たっぷりににんまりと笑う。
「ヴォ、ヴォックス…!外は寒いでしょ、早く中においでよ…!」
ガラス越しでも分かるほど向こう側で笑った男は、一時の別れを惜しむように手を振ると出入り口の方へ歩いていった。
目の前に座った男は注文したコーヒーを飲みながら話す。
「やたら冷え込んだと思っていたが、雪が降ってきたようだな」
「あ…」
外を眺めるとひらひらと風に揺れ雪が降ってきていた。
天気予報によると更に雪が強まるとの情報がでていた。
「この天気では仕方がない、今日は私の家に来ると良い」
予定を変えて、ヴォックスの家でゲームをすることにした。
お土産にカフェのスイーツが入った袋を手に持って外に出る。
「ヴォックス、手袋は?」
「ああ、シュウに会えるのが嬉しくて、そればかり考えていたら忘れてしまったよ」
好意をストレートに伝えてくるヴォックスに、一瞬ひるんでしまう。
「そ、そう…寒いでしょ?片方、貸してあげるね」
「優しいな、シュウ。だがそれだともう片方は寒くないか?」
ヴォックスは手袋をつけていない方の手を握ってくる。
自分より少し高い体温が、冷える指先に絡まり、溶ける雪のように体に染み込んでいく。
「これなら少しは暖かろう」
まるで陽の光のように笑う彼の表情に、心まで溶かされそうになる。
熱くなった顔を隠すためにうつむくと、ヴォックスが顔を覗き込んできた。
「かわいそうにシュウ、雪の精霊の寒さに頬が赤くなっているぞ」
「ま、またそんな変な言い方して…!」
やられっぱなしは嫌なので言い返そうと見つめ返すと、ヴォックスは顔を近づけたまま静かに囁いた。
「家でもっと温めてやろう」
驚いて言葉にならない息が喉を通り、かすんだ音を出す。
その様子を愉快そうに見つめる彼に、重なった指を強く握り返す事で返事をした。
空からふわりと風に舞って降る雪が肌を冷たくかすめていく。
気温に反してどんどん高くなっていく熱を冷ましてくれる雪に、心のなかでお礼をした。