バレンタイン今日の部屋はいつもより華やかだ。
そこにはつい先程までバレンタインという名のイベントを楽しもうと集まっていた人たちから貰った、チョコレートやクッキー、花束が綺麗にラッピングされて溢れていた。
それらを眺めて、シュウは思いを寄せていた。
普段は恥ずかしくてあまり言葉にできないことも、プレゼントを渡すことで感謝や愛を表現することができた。
皆はどんな気持ちでプレゼントを用意したのだろうか?
扉を叩く音に、思考が途切れる。
「シュウ、約束していたアイスケーキを持ってきたぞ」
「ヴォックス!」
溶けてしまうから直接届けに来てくれると約束していたプレゼントを片手に、ヴォックスは
シュウの隣に座った。
美しい赤いバラの形を繊細に象ったそれは、うっすらと冷気を零し幻想的に皿の上に乗っている。
それに似合う金色の上品なスプーンを差し出して、ヴォックスは微笑んだ。
「見た時にとても綺麗だと思ってな…シュウにも見せたくて、この日のために用意していたのだ。さあ、食べてくれ」
「ありがとう、ヴォックス」
間近で微笑む彼を前に照れ笑いで返事を返し、受け取った花弁をスプーンですくう。
食べるのがもったいない程に、本物に似せて作られた妖艶なそれは、どことなく彼を想像させた。
口の中に広がる上品に広がる甘さにうっとりとしていると、同じように魅入ったように見つめる視線に気づく。
「美しいお前が、美しいものを食べている所を見れるなんて、夢の中にいる様だ。お前に贈り物ができて本当に嬉しく思うよ」
甘味さえ逃げてしまうような低く甘い声音に、心臓が一瞬止まったような感覚になる。
溶けかけた花弁を飲み込むと、冷たい感覚が冷静さを取り戻してくれた。
「あはは、ヴォックス、ごちそうさま。珍しいものをありがとう」
「シュウ」
重なった手から少し高い体温が伝わり、同じように熱い視線が向けられる。
「お前が用意したチョコレートは、皆に配っていた宿敵の形をしたものだけなのか?」
「え、えっと…その、別に用意したものはあるには、あるんだけど……」
本命をせがむヴォックスの表情に耐えかね、シュウは隠していた小さな箱を取り出した。
箱の中に、二つの小さな手作りのチョコレートが入っている。
「あのね、ヴォックス。これはほんの出来心で、あっ!まだ食べないで!!」
説明を終える間もなく、ひとつを摘み、口に運んだヴォックスが目を細めて笑う。
「私を想って用意してくれたのだろう?ふむ、なるほど…」
「あ、だめ…どうして…」
ひるんだシュウから残りのひとつを奪い、口に運んだヴォックスは、欲望に満ちた瞳でシュウを捉える。
口移しで流れ込む、甘い香りと舌を溶かすような口づけがシュウを動けなくした。
「ん、っふ…う…ん♡んっ…♡んぅぅ…♡」
「ふ、ふふ…♡ひとつは私に、ひとつは自分に用意しておいたのだろう♡」
顔を赤くし、息を荒げ頷くシュウを見下ろし、ヴォックスは確信し、動けないように両腕を掴み押さえ込む。
隠されていた媚薬の効果が、血流にのって体を沸騰させるかのように熱くする。
「とても甘美な味で誘われて、断れる訳がなかろう。やはり、お前と二人きりになる口実を作るために、選んだプレゼントは正解だったようだ」
「…全部、見抜いてたの…いじわる…」
「さあ私の瞳を見て、シュウ…♡特別なプレゼントのお礼をさせておくれ…♡」
金の海を照らすような、熱のこもった夕日に惑わされて、甘い香りを纏った低い声が体の敏感な所を撫でていく。
互いのプレゼントで重ね合わせた想いを確かめると、二人は甘美な世界に溶け込んだ。