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    「満月」「おやすみ」「お月見」
    いつもの全員生きてる捏造だらけの設定です。先月の続きのような感じですが読まなくて大丈夫だと思います。

    ##K暁

    KKが目を覚まさない。
    連絡を受けた暁人は幸い土曜の朝だったのですぐにアジトに向かった。
    アジトのメンバーの報告をまとめると、KKは昨夜依頼を解決して報告書をまとめた後に仮眠すると言ってソファに横になり、何をしても(恐くて内容は聞いていない)起きなくなったこと。依頼は特別なものではなく、また間違いなく完遂しており現場には怪異の残滓もないこと。ガジェットにも何の反応もなく外部から呪われている可能性も低いこと。
    『そもそも彼を間接的に呪うのは難しい』
    「名前を棄てて死んだことにしているから?」
    エドは首肯し、暁人は霊視をしてKKの状態を確認する。
    「攻撃は受けてないけど、体内のエーテルが不安定ですね」
    「怪異に攻撃された傷が残っているか、あるいは知らずに心を乱されたか」
    凛子の言葉に首を傾ける。KKは気は短いし大人げないしすぐ感情を露にするが余程のことがない限り我を忘れたりしない。多分。
    『とにかく彼は夢を見続けている』
    「もしかしてKKの夢に入る……とか?」
    段々暁人は話の流れが掴めてきた。荒唐無稽だがここは元からそういう場所だ。一年も経てば慣れたもので暁人は悪夢ではなさそうだなともう一度KKの様子を確かめて頭側の床に座り込んだ。
    するとデイルが見たことのない配線のはみ出したヘッドマウントディスプレイを持ってきた。
    「これは新しいガジェット?」
    『本来は適合者のエーテル回路と擬似的に繋がることで霊視を可能にするための試作品だ』
    「全然わかんないけどこれでKKと繋がれってこと?」
    『感覚的にダイブすると言った方がいいかもしれない』
    怪異に近づいた際に幻覚のようなものを見ただろうとエドに言われて一年前の夜を思い出す。凛子と接触した際やごみ屋敷で建物の構造がめちゃくちゃに変わったり現代アートのようなオブジェクトが現れたりした。
    『KKとの魂の繋がりをケーブルの代わりに繋ぐことは可能かい?』
    「ケーブルというかワイヤーだと思えばできる……かも?」
    KKの魂を引き剥がされ、取り戻した時のことを反芻して暁人は頷く。
    「夢を見る時間は睡眠時間に比例する。 しかしこの場合はどれほどになるかわからない」
    「わかりました。 起きるタイミングは凛子さんにお任せします」
    「なるべく優しく起こすわ」
    暁人は迷いなくHMDを装着してKKの身体に寄り添った。
    『起動する。 おやすみ、暁人』

    お盆を過ぎれば暑さも和らぐ。昼ご飯の後も祖父は田んぼへ、祖母は畑へ行ったので来るだろうと少年は根拠もなく確信していた。
    果たしてバイクの音がして、若い男が家の前でヘルメットを外す。
    「遅かったな」
    「宿題、終わっちゃった?」
    少年の憎まれ口を気にも留めず男ははにかむ。こんな山と川しかない田舎には似つかわしくないいかにも都会の人間である男は何故か二か月前から月に一度少年に会いに来ていた。
    「自由研究はとっといてある」
    「なんでさ」
    「オマエが来るのを待ってた」
    素直に言えば切れ長の瞳が見開いて、すぐに破顔した。
    十近く年上の男なのに何故か可愛いと思ってしまった。
    それを隠すように少年は男の腕を引いた。
    「自由研究なら家に入らなくていいだろ」
    男は少年に気さくに話しかける癖に深入りするのを避けていた。名前も聞こうとしないほどに。不確かな情報でも一瞬で広まる田舎ではそれが珍しくて少年も彼について聞かないようにしている。名前とか仕事はとかどこに住んでいるかとか。
    「自由研究って妖怪探索?」
    「それもいいな」
    男は少年の妖怪好きに気付いているらしい。どこかで話しただろうか。記憶がぼんやりしている。どちらにしても否定的ではないようで素直に嬉しい。
    「龍魚って知ってるか?」
    突然の少年の言葉に男は首を横に振る。少年は枝を拾って地面に描いた。
    「背に葵の紋、体の左右に蝶形の鱗、八尺もある明治時代の怪魚だ」
    「八尺かぁ……大きいね」
    なんだか美味しそうだなという口振りだ。まだ昼を摂っていないのだろうかと少年はいぶかしんだ。
    「まあ正体はチョウザメらしいけどな」
    「なるほど、当時の日本では珍しい魚だから知られてなかったんだ」
    「オマエ、食うことしか考えてないだろ」
    「バレた?」
    チョウザメといえばキャビアだ。少年は食べたことがないが。男は悪びれもせず釣りに行くんだねと立ち上がるので少年は頷いた。
    「遠いところ?」
    言外にバイクに乗るかと聞いてくるのでチャリでも行けるが乗ると答え荷物を取ってくると家に駆け込んだ。

    バイクは想像より快適だった。男が暴走族ではないのだから当然なのだろうが。
    度々釣りに来る川は穴場ゆえに誰もいない。240cmの魚がいる深さはないがそれなりの魚影は見えた。
    「スタージョンって知ってる?」
    予備の釣糸を垂らしながら男が突然謎のカタカナを発する。
    「何かのキャラクター?」
    「チョウザメのこと。 漁の最盛期だから海外では八月の満月をスタージョンムーンって言うんだって」
    「へえ……外国はシャレてんな」
    八月の満月。少年は今まで気にしたことがなかったはずだが何かが気にかかる。
    あの日も満月で、吉凶と捉えたかそんな余裕すらなかったか。
    「確かに珍しい魚は吉祥魚って言って幸運を運ぶんだと……オマエも龍魚の仲間なんじゃって……」
    思わず以前から思っていたことを口走ってしまう。しまった、男が鶴の類いだったらと口を押さえるが遅すぎる。
    男は釣糸から少年に視線を移して首を傾けた。
    「僕が?」
    「……オマエが」
    諦めて肯定するとやはり男は困った表情を見せたがどうだろうと返答は曖昧だった。
    「どっちかというと疫病神かも」
    「何でだよ」
    意図せず低い声が出る。しかし俯いた男は気付かず力なく頭を揺らした。
    「だって僕のせいで麻里は……KKだってもしかしたら……」
    「マリ? けーけー?」
    知らない名前だ。なのに少年の脳裏に顔が浮かぶ。小さな手から釣竿が落ちる。ただのヤマメが逃げる。
    「ごめん……長く潜りすぎた……帰らなきゃ……」
    フラフラと男が立ち上がる。顔色が悪い。行くなここは危険だオレを置いていかないでくれオマエのせいじゃないむしろ。
    言葉が出ない。
    「……あ、きと」
    「そうだ次……月見の時に」
    約束を一方的にして、男はその場から消えてしまった。

    気が付けば中秋の名月だ。
    少年は少しずつ理解し始めていた。
    ここは少年の記憶の世界だ。毎月家から祖父母の家に来ているのではない。ずっとここにいる。祖父母も存在しない。たまに来るあの男が異物なのだ。
    「……何でオレはここにいる?」
    自分は小学生の子どもではなかったはずだ。もっと、あの男より年上だった。
    そしてあの男は、伊月暁人は。
    「……来たな」
    取り繕う必要がなくなったのか歩いてきた男はすっかり顔色が良くなっていた。一ヶ月経ったのだから当然だろう。
    「……あれから何日経った?」
    「釣りは昨日だよ。 寝直したから大丈夫」
    実際は多少無理しているのだろう。縁側に腰かけて夜空を見上げる横顔にはわずかに疲労が見えた。しかし原因である自分が追求する権利はない。少年も月に視線を向け話題を変えた。
    「そうか……オレはどうなってるんだ?」
    「今日で四日……五日かな? KKだけ時間が止まったみたいになってる」
    そこで男は堪えきれないように笑いを漏らした。
    「子どもなのに喋り方がKKなのギャップがスゴいね」
    「うるせえ、オレはまだ混乱してんだよ! つか最初に言えよ!」
    「だってKK、なにも覚えてないし、混乱させると危険かなって」
    一度目の夢の後、凛子たちと話し合って少しずつ情報収集することにしたらしい。
    そしてあまりに夢が平和すぎたので油断して潜りすぎたのが先月のようだ。
    「いつも言ってるがオマエはツメが甘いんだよ」
    「まあKKが思い出したってことでチャラで。 それで戻れそう?」
    いつの間にか置いてあった月見団子を一つ口に放り込む。黄泉竈食(よもつへぐい)になりはしないか。
    「KKは現実が嫌になった?」
    「いや……イイモンでもねえが、オレがビビってんのは暁人、オマエにだな」
    「僕?」
    暁人の手から団子が溢れ落ちて慌ててキャッチする。若いだけあって反射神経がいい。その暁人より若くなったって何の解決にもならないのに。
    「オレはオマエに言わなきゃならねえことがある。 情けねえがビビって後回しにしていたところをつけこまれたっぽいな」
    全く、どこまでも情けない。暁人もツメが甘いのはKKじゃないかと怒ったような泣いたような表情を見せた。
    「ここまで追いかけるくらいなんだから何でも受け止めるよ」
    「ああ……起きたらちゃんと言う」
    迷いさえ振り払えば目も覚めるだろう。
    「オレを眠らせていたのはオレ自身だ。 オレがこの……遅い夏休みを終わらせる。 だからオマエは先に起きてろ」
    「わかった。 待ってる」
    暁人は大きく頷くとはにかんで月明かりを頼りに家の敷地から出ていった。
    鈍い男ではない。何を言われるか薄々勘づいていて、答えも考えているだろう。KKも然り、脈があることは気づいている。
    ただその先に怯えていたのだ。満ちた月が欠けることばかりを。
    「そうだな……毎月満月はあるもんだ」
    九月の月は何というのか、その次も暁人に聞いてみようとKKは心に決めた。
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