明日はデート。たぬきさんちのけあき K暁
美味しいご飯を食べて、ゆっくりお風呂に入って、寝るまでの時間を穏やかに過ごして、新しく買った広いベッドに枕を二つ並べて好きな人の隣で眠りにつく。それがどれだけ幸せなことか。ベッドサイドテーブルにコトリと数珠を置く音。前に僕の背中に数珠の跡がついてしまってから外してくれるようになった。僕もそれに倣う。寝る前の儀式のようでそれはそれで気に入ってる。以前は離れ難くて抱きつくようにして眠っていたけど、時期が時期故に暑いから今はそうしない。冬はまたくっつき虫になるのだけれど。
「KK、明日はデート行きたい」
「デート?どこにだ」
「うーん、横浜とか?美味しいもの食べに行きたいな」
「中華街散策か。いいだろう」
枕にもふっと押し付けた頭を、KKの手がゆっくりと撫でていく。そのままするりと頬まで滑り降りてきて、手を離すときにほんの少しだけ泣きそうな顔をするものだから、何を考えているかなんてもう分かってしまう。
「KK、またそんなこと考えて」
「なんだよ」
「KKを残すことなんてないんだから、そんな心配いらないって」
その言葉に少し不服そうな顔をするKKだから、僕は体を少し起こして指を組んだ上に顎を預け、わざとらしく頬をぷぅっと膨らませて見せる。
「これでも僕は真剣なんだよ」
少しだけ視線を揺らしたあとに、KKの頬がふっと緩んだ。さっきまで見ていた恋愛ドラマのセリフをそのまま引用したことに気がついたのだろう。
年下の男の子が、憧れの年上の女の人と一線を超え、火遊びはこれくらいにしなさいね、なんて諭されるワンシーン。密かに自分と重ねていたことがバレるが、きっとKKも同じことを考えていたんじゃないかな。
僕も表情を崩して、その手を解いてぎゅうって抱きしめる。
「KK、縁起でもないけど、KKが死ぬまで、いや死んでも、離してあげる気はないからね」
「ああ……俺も、離してやれない。ごめ」
「ごめんじゃない」
「……それなら、愛してる」
「ふふ、僕も、愛してる」
まさか意趣返しされるとは思わなかった。それでも、さっきよりずっと柔らかな雰囲気になったKKを見ていると、それでよかったと思う。
「KK、朝ごはんは軽くしてね」
「はいはい」
明日はデートだ。