正直に申し上げます(友人Ver) 友人である『いづっちゃん』こと伊月暁人は、たいそうなイケメンだ。それを本人に言うと「何言ってるんだよ」と照れくさそうにするけど、そんな時までイケメン。
ただ両親を早くに亡くしたり、妹さんが入院したりでどこか思い詰めたような表情が最近増えてて、友人一同はけっこう心配してた。
あいつが何をしたって言うんだ、神様って意地悪だと憤る者も多かったが(いづっちゃんはイケメンなだけでなく良い奴なのでファンも多いのだ)、学生身分の俺たちに出来るのはせいぜい声をかけたり、出られなかった授業の内容を知らせてやることぐらいで。
触れたら切れてしまうんじゃないかという張り詰めた空気……お盆を越えた頃がそのピークだったろうか、それがある時からゆるまった。
危なかった妹さんが助かったらしいと聞き、みなで「良かったな、落ち着いたら飯でも行こう」と声をかければ、そりゃもう嬉しそうに微笑むもんだから、男女関係なく見とれてしまったほどで。
詰め込んでたバイトを減らし、授業にもきちんと出るようになったいづっちゃんは、青白かった顔の面影などもうない。それどころか――。
「なぁ、最近のいづっちゃん、変わったと思わね?」
「あー、健康的になったよなぁ」
それはそう。そうなのだが。
「いや、それだけじゃなくてさ」
言いよどむ俺に友人は「なんだよ」と首を傾げる。
なんだろう、なんと言えばいいんだろう。
「こう、雰囲気が」
「雰囲気」
元々いづっちゃんは良い奴だし、兄であるせいか面倒見もよくて、凛としつつも穏やかな空気をまとう男であったと思う、うん。
だけど最近、そこに甘さというか……花のようなものを感じるのは俺だけだろうか。
「とか言ってたら、あそこにいるの伊月じゃん」
「え。あ、ほんとだ。連れがいるのか」
声をかけようとした道路の向こう側の友人が一人でないことに気づき、呼びかけようとあげかけた腕を下げる。
いづっちゃんと同じくらいの身長の、だがそこそこ年上そうなスーツ姿の男だ。親戚の人か、バイト先の上司か。そう思ったものの、それにしては目つきが鋭く立ち振る舞いも隙がないというか、どうにもカタギの人に見えない。
「あれ大丈夫? その道の人じゃない??」
「多分……? 伊月、意外と腕っ節あるし」
「でもヤのつく自由業の方ならアウトじゃん?!」
「笑ってるし、知り合いっぽい感じがするんだよなぁ……って、あ」
「え」
カタギじゃない人(仮)が、いづっちゃんの頬に触れた。その瞬間の、目を伏せたいづっちゃんの表情をなんといえばいいんだろう。
喜びと、切なさと、愛おしさと、恋しさと……そんなものをぎゅっと煮詰めたような、甘い顔だ。色気がある、と言ってもいい。
「あわわわわわ……!」
「……お前が言ってたの、あれか」
そう言われて、時々感じてた『花』と、今見てしまった『色気』が同系統のものだと理解する。
「ち、近からずも遠からず?!」
確かに甘いと思ったけど、さすがにあそこまでじゃない。
友人の知らない一面を見てしまって(しかもあれ、ただの友人が見ていい顔じゃない気がする)動揺する俺のはたで、唯一気持ちをわけあえそうな相方は「まあ幸せそうでいいんじゃないか」とのんびりつぶやいた。
「どんな関係かは知らんけど、あの伊月にあんな甘えた顔させるの、ただ者じゃないだろ」
それに単純だが俺の動揺も少し落ち着く。まあ「どんな関係もクソもないだろあれは。どう見てもあれだろあの二人」というツッコミもあるけれど。
「そっか。……甘えられるのか、いづっちゃん」
二十歳やそこらで色んなものを背負い込んだ俺の大事な友人は、やっとそれを一緒に持ってくれる人に出会ったのかと。
とりあえず。
「ヤのつく自由業じゃないといいなぁ……」
俺の心底からの心配に、横の友人はこらえきれず吹き出したのだった。