「お兄さんが、好きです」
好きです
好きです
貴方が好きです
大好きです
胸につかえたソレを吐き出さずにはいられずに音にした僕に
「嬉しいよ」
大きく頷いた貴方は笑ったんだ。
それで僕がどんなに嬉しかったのか、なんてきっとお兄さんは分からない。
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tkhsが週刊誌に撮られた話。
多分「あの有名院長の熱愛発覚」とかで美女と一緒に宝飾店入ってくやつ。
1.居酒屋で親友2人+山
「あんっつのドぐされやろーーーーー!!」
「り、凜太郎君落ち着いてーーー!」
「これが!落ち着いてられるんかーーーー!?あんのうちの可愛い晴明君に対して!・・・酒呑童子の力見せつけるぞゴラァ」
「いやいや。僕は大丈夫だよ!?」
いや・・・いつから晴明はお前ん家の子になったんだ?とかいう突っ込みしないけれど
いつもより三倍はあれている凜太郎と、その腰に抱き着いて「大丈夫」と困ったように繰り返す晴明。
いや・・・うん
そりゃああの週刊誌の写真を見た瞬間に俺も頭に血が上ったけれど
逆に自分より怒り狂っているヤツがいると冷静になれる、というか
150年間、たった一人を想う、その重さを知っていると言うか
それらをひっくるめれば
(まぁ、ガセだろうな)と予想はつくのだ(ちなみにイラつかないとは言ってない)
だからまぁ、、一番の心配は
「あ~、もう飲みすぎだよ」と酒におぼれたまま寝落ちした凜太郎の世話を焼いている親友兼弟分(だと俺は思っている)
本来だったら凜太郎のように怒ってもいいのに
怒りもせずに、しょうがなさそうに笑う顔
「・・・嫌、じゃねえの?」
アプローチはあっちからだったはずだから、(その悩み事を何度聞いたことか)
むしろ愛されている自信の上での態度だったらいいのだけれど。
(そんなわけねぇよな。晴明だし)
「ん?」
「だから、恋人がこんな風に写真撮られてばらまかれて、気になんねぇの?」
真直ぐに問えば
「う~~~ん。しょうがないな、って思うんだ」
と自信が無い男は笑った。
―一体可哀想なのはどっちだろう?ー
3.
アレから飯綱君と別れ、凜太郎君を介抱して自室に戻る。
『あんのドぐされやろー!』なんて自分の事みたいに怒ってくれた凜太郎君に
『だから、恋人がこんな風に写真撮られてばらまかれて、気になんねぇの?』と心配してくれた飯綱君。
本当にありがたい仲間。
大好きな友達。
だから
(大丈夫。大丈夫)
飲酒をして火照った頬をどうにかしたくて、冷蔵庫を開けて、一本だけ残っていた
あの人が『今度一緒に呑もうね』なんておいていった缶ビールを煽る。
ごくりごくりと、喉を通る炭酸が痛くて
お腹にたまるそれが重くて
ケㇷという音と一緒に「思ったよりも早かったなぁ」なんて言葉が零れたらもうダメだった。
ずるり、と壁を伝うように座り込んんで、体育すわりの格好になった膝に額を乗せる
(大丈夫。分かっていた)
『好きだよ』と彼は言うけれど
それは彼の将来に対してアドバイスした僕に対して憧れに似た感情を、きっと誤解したんだってことは。
だけれど、あまりに真直ぐに好きだと言ってくれる彼に、嬉しくて、もしかしたら手をとってもいいんじゃないか?みたいに思ってしまっただけ。
(明君が勘違いをしてくれたまま、なんてことがある筈もないのに)
綺麗な女の人との写真。
傷つかない訳じゃない
哀しくない訳じゃない
だけれど
それよりも何よりも
(僕より、ずっとお似合いじゃないか)
(だから)
「終わりにしなきゃね」
中途半端に残ったビールは、もう飲めそうもなかった
4.
『お兄さん、今週末会えるかな?』
届いたメールに
『うん。大丈夫』
楽しみだとは、返せなかった。
5.
待ち合わせ時間は10時。
今はその30分前の9時30分。
駅前のロータリー近くの大型百貨店前。
ふと、よこを見れば磨き抜かれた鏡に映る自分は、思わず苦笑してしまうくらいにめかしこんでいて。
凛太郎君曰く「晴明君、よぉ聞けや。たかが洋服、されど洋服やねん。服という名の勝負やねん。アレがカッコいいって思うとるなら君だって負けへんようにきかざらなあかん。だって恋は戦争やで」と選んでくれたタートルネックに引き締めるように暗い色のシャツ、スキニーパンツ。凜太郎くんだけじゃなくて、荊棘さんも「コレは絶対や!」って太鼓判を押してくれたチェスターコートを上に羽織って。髪も教えてくれたみたいに上手には出来なかったけれど、それでもいつもよりも丁寧に櫛を通してハーフアップにした髪。
別れるくせに、なんて思うけれど。
ううん。違う。別れるから最後ぐらい、「綺麗」だと思ってくれたらいい、なんて。
じわりと滲みそうになる涙を、グイっと乱暴にチェスターコートの袖で拭う。
「ねぇ、お兄さんフラれちゃったの?」
「え??」
ふいに横からかけられた声に、うつむいていた顔を上げて声の主を映せば
ことり、と片側に首を傾けている、見知らぬ人と差し出された120円のコーヒー缶
「は?え??」
僕が怪訝そうにしたのを、笑って。
「お兄さんめっちゃおしゃれしているのに、すげえ辛そうにしているし。結構な時間ずーっと立ち続けてまってんじゃん」
「・・・・よく、見てるね。あと、ありがたいけど。コーヒーは要りません」
どうやら僕が辛そうにしていたから心配してくれたらしい親切君(仮)(親切にしてくれたから親切君と便宜上言わせてほしい)は気にする風もなく。ふぅん。じゃあ、俺がのんじゃおう。なんて言いながら彼は僕の隣、その壁にもたれながら、コーヒーの缶をポケットにしまった。
「そりゃぁねぇ。お兄さん目立つもん」
「・・・目立つ?かな?」
「気づいてない?結構さっきから道行く人がお兄さん見てたよ?」
「?そんなに挙動不審だった?」
少しの間の後、親切君はぶふーと吹き出しながらしゃがみ込んで「お兄さん。マジでやばいね」とゲラゲラ笑った。
「ヤバいくらい!?」
「やばいやばい。激やばで沼で無自覚な悪女だねぇお兄さん。」
「男だけど!?」
「見りゃ分かるって。そこじゃねえなぁ。面白いなぁ。俄然興味がわいてきちゃった。ねぇお兄さんが今日フラれたらさ、ここに連絡」
がさごそと親切君から差し出された名刺っぽい紙は、ぬっと僕の背後から現れた手に握りつぶされた。
「何してるのかな~?」
「明くん」
くしゃり、と忌々しいものを握りつぶすように、小さく小さくなった名刺をポイと足元にすてた明君は嗤ってるのに、笑ってはいなくて。
そのアンバランスさに、背筋がゾッとした。
「待ちぼうけしてたお兄さんをナンパしてたんスよ」
「・・・・・へぇ~。そうなの?お兄さん」
(うわっ)
一段と下がった気温にサーっと血の気がひいていく
(怖い・・・怖すぎる)
「ち・・違います!。ちょっと、体調悪くなった僕を、心配してくれたんですよ!」
怖いけど、親切君(仮)が僕なんかをナンパするという大変不名誉な虚実を覆すべく
声を上げれば、二人ともに信じられないような生き物を見た目をされた後。
「ま・じ・かぁ~~~~www。あ~こりゃ。大変だね。」と
明君を見て親切君(仮)は笑った。
**************
(何か?怒ってる?)
多少のアクシデントはあったものの。親切君(仮)とは「泣かせちゃダメだよ!」なんて言い捨てて風のように去っていく姿をぼんやりとみていれば
『・・・ちょっとだけ、散歩しない』なんて手を握られ、歩くこと、はや一時間。
いつもだったら笑顔(それがどんな笑顔であっても)絶やさない明君にしては珍しく、真顔中の真顔をしていて。
うん、君そんな表情できたんだね。だなんて思ってしまう。
(まぁ、それもそっか)
恋愛経験が無い僕には分からないけれど、きっと別れを告げる方だって何も感じない訳じゃないのだろう・・・多分。
だけど
息を吐いて
ちょっとだけ困ったように僕を見て
言葉を飲み込む明君の困り果てたさまに
(君が困る事じゃないのになぁ)
なんて思って決心をする。
するり、と繋がれた手を離せば
「お兄さん?」と僕を写さなかった瞳が、やっと僕を見据えるから
だから
「別れましょう。」
ダイジョブ。笑え。傷ついた顔なんて一切見せるな。
だって僕は分かっていたから
君の其れが錯誤の恋だって。
君の進路を示した僕に対して、君は感謝だとかあこがれだとかのプラスの感情を恋だと間違えた、なんて知ってるんだ。
知っていて、それでもあの日「好き」だと告げてくれたことが嬉しくて
僕が正せなっただけの事。なのに。
目を見開くたかはし先生は「は?」なんて息を吐き出すように零した言葉に
聞こえなかったのかな?なんて解釈をしてもう一度同じ言葉を繰り返す。
「別れよう。」
ほらさっきよりは上手く笑えているでしょう。
大丈夫。ズルかったのは僕だから。
君が傷つく必要なんてないんだから。
(これで終わりかぁ)なんて思えたのはほんの数秒だった。
鬼の力そのままに、離した手を掴まれて公園の壁に押し付けられた衝撃はすさまじくて、痛みに呼吸すら一瞬止まった。
(っ!!!)
「お兄さんは、僕と別れたいの?」
それでも息を突かせぬような速さで声すら出せない僕の鼻先数センチまで顔を寄せて明君は言う。
落ち着いた声だった。
大人にふさわしい声は、だけれど彼には不釣り合いの音。
(な・・・んで?)
なんでこんなことになってるのかなんて分からない。
だって僕が別れ話すれば、君は笑ってくれるでしょう?
なのに
僕の眼に映る君は酷くつらそうな歪んだ笑顔で刃物のような言葉だけを自分に振りかざす。
「僕の何が厭になっちゃった?マッドなところ?」
(違う)
「それとも仕事でなかなか会えないところ?」
(違う)
「それとも・・・・種族が違うから?性別?」
(違う)
「あぁ、それとも、僕の姿がバケモノだから?」
(違うよ)
全部全部全部間違いだよ。
だって
ソレを言うのなら
ヘタレだし。仕事柄ドタキャンが多かったのは僕もだし。それに種族が違って
君を遺すのも、君に何も残せないのも僕の方だし。なにより僕には『退魔の力』があるんだから、よっぽど君たちにとっては気持ち悪い存在だろうに。
だけど
それでも
「でも、お兄さんがなんて言おうと、俺は別れる気はないから」
(僕は、君と一緒に居たいよ)
ぎりぎりと握られた手首も居たいけれど、それよりずっと胸が痛いし
居たいよ
「僕がお兄さんを逃がすと思ってる?」
此処にいたいよ
「思い違いもいいところだよ。だってこんなに僕は貴方が好きなんだ」
君の側にいたいよ
「ねぇ、ずっと一緒にいると言って」
君が引いちゃうくらいに貪欲に君の側にいたいよ。
壁に押さえつけられていない方の手をかろうじて動かせば、明君の頬に触れる。
「おにいさん?」
指先に冷たく濡れた感触
なんだ
なんだ
「一緒に居たい、って、言っていいかな?」
一緒だったんだ。
****************
あの後、気を失ったらしい僕はなぜか明君の部屋のベッドに寝せられて
ベッド横には元生徒の歌川さんがいた。
僕が目を覚ますと、「起きましたか?じゃあ、検温しちゃいましょう」や「とりあえず経口から水飲めそうですか?」やら・・うん君が立派になったことは嬉しいのと同じくらいに僕がダメな大人すぎてちょっとだけ涙が出そうになった。
「とりあえず現状としては手首に罅が入っているのと。あとは軽度の脱水と栄養失調。あとは過労ですね」
「うん・・面目ない・・・」
「心配、しました」
「うん」
彼女曰く、ウキウキワクワクで覚悟を決めてデートに行った明君が二時間も経たない頃に真っ青になった僕を抱えながら帰宅したらしい。
それからは抱き上げたときの僕の軽さで色々と察したらしい明君は結構マジで治療してくれた・・・らしい・・
「安倍先生は、無茶するから」
「・・・本当に申し訳ございません」
しかも話を聞く限りでは歌川さんは概要は知っているけれど、僕の怪我の原因までは知らないらしく・・・
(本当に!心底!いたたまれない)
ん?
「そいうえば明君は?」
(あと、覚悟って???)
問えば、ふふふ、と元生徒は笑いながら。
「正解は、明さんから聞いた方がいいですよ」とほほ笑んだ
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この後、プロポーズのターンに入る・・・筈・・・多分。
「結婚しよう」
僕の左手、その薬指にキスを落とした。
「ひゃーーー!」
その姿が余りにもカッコよすぎて、変な声が出た僕をみて「何それ」って笑う。
いやだって、色気の過剰摂取だよ?そりゃ変な声だって出るさ!
「君が、カッコいいのが悪い」
「カッコイイって思ってくれるの?」
こくり、と頷けば。さらに笑うから。
甘く甘く笑うから
「うう・・結婚しても尻に敷かれる未来しか見えない」といえば
「・・・・?すでに敷かれまくってる僕にソレを言うの?」と返された
ん?
(お互いがお互いに自分の方が相手を好きだと思ってる)
〜名前の呼び方編〜
いつからか「晴明」と僕の名前を呼ぶようになった。
いいんだけど
いいんだけどさ
何故に?と聞けば
「・・・お兄さんだと、お兄さんって思われちゃうのは嫌だなって、思っただけだよ」
「ふむ」
全く分からん。
分からないけれど、名前で呼ばれるのは君が僕は君のモノだと思ってくれているみたいで嬉しいと言えば
「そういわれると、僕も晴明に特別に呼ばれたい」なんて言い出すから
え~~~~~・・・
「旦那様、とか?」
と言えば噴き出されたんだけど
解せぬ