【くにちょぎ】5月新刊冒頭 それは、決して、思い余った末の衝動的な行動ではなかった。
今夜、食事も湯浴みも済ませた後に、恋刀である山姥切長義の部屋を訪れることは、三日も前から決まっていた。軽く酒でも飲み交わそうという約束だった。
長義との仲に「それらしい」名前がついてから数か月になる。
国広の方から想いを打ち明けて、それが叶った形だった。幾度となく逢瀬を重ね、他人の目の無いところでは手と手、あるいは唇と唇が触れ合うようなことも今では珍しくなくなっていた。言葉を交わすたび、触れるたびに想いは募り、同時に仄暗い欲求もまた募っていた。長義は唇に触れさせはしても、決して同衾を許す素振りは見せなかった。
夜に私室を訪れるよう誘われたのはその頃だった。
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