耳飾 ねぇねぇ、とリンクシェルの通信に応じると同時に聞き慣れたヴィエラの声が届いた。
「今、何してる?」
日課のペルペル族の依頼を完了し、報告していたところだったのでその旨を伝える。今日の分まだだった!とひとりごちた彼女が指輪を用いたテレポで飛んできた。モンクに切り替わり駆け足で受注した依頼の中でモンスターを討伐するものがあったらしく、上目遣いで見つめて来られる。苦笑して頷くと、にっこり満足気に微笑み返された。
「で、何の用だったんだ?」
ひと段落した辺りを見計らって声をかけると、あぁ!と思い出したかのように彼女はいつもの踊り子の姿に変わる。見て見て、と背伸びしてきた彼女の耳元で、見慣れないイヤリングが揺れていた。
黒と赤、そしてピンクの天然石が用いられたイヤリングは繊細かつ緻密なデザインで仕上げられている。よく見ると同じ石をあしらっている部分もありながら、微妙に左右の石の配置などが異なっている。
「アシメ仕立てか?」
左右不対称のデザインをそう呼ぶのだと、かつて教わった表現を使うと彼女が意味深に口角を上げた。返答を誤ったかと不安になっていると、ゆらゆらと首を傾げながらどう?と尋ねて来られる。
「どうって……似合ってると思うが……」
彼女の動きに合わせて揺れる耳飾りを眺めながら答えるとうんうんと力強く頷かれた。
「他には?」
「ほかには?」
まだ不足があるようで彼女の質問を鸚鵡返しにし、少し考え込む。用いられている石はオニキスのみ特定でき、ピンクの石はローズクォーツにしては落ち着いた色合いや輝きを放っていた。赤というより褐色に近い石もどんな種類なのかも判別できず、表情が険しくなる。
正解が分からず疑問符を浮かべていると手を出すよう言われる。
「はい、ディンの分」
自身の片手に収まる小さな包みの中には、彼女の耳元で揺れているものと同じデザインのピアスが収められていた。
「ドマ町人地のエーテライト前でね、青空市場?なんか手作りの品を売るイベントやってて」
そこでたまたま天然石を用いたアクセサリーを仕立ててくれる人の店と、自分達のイメージに合った逸品に出会ったらしい。聞いているだけで楽しそうな場面とそれに興奮した様子が伝わってくる。
「理性の石と、己の心を守る石だって」
手元から目を離せずに目を瞬かせていると、あしらわれている黒い石を彼女のしなやかな指がそれぞれ示しながら説明してくれる。
「こっちのピンクいのと赤いのは、私達のメッシュのイメージ!」
なるほど耳飾りに用いられている石は2人のイメージを表していたらしい。一度目線を上げて色合いを確認してみて、なるほどと頷く。では今までの説明に該当しない、小ぶりで艶やかなピンクの天然石は何を表しているのだろうか。
「そしてこれはインカローズ」
伏せていた目をインカローズからこちらに向けて、意味深に微笑みかけられた。初めて見て聞いた石だと思いながら頷くと、彼女は微笑んだまま頷き返してくる。
「着けないの?」
しばらく見入っていると不思議そうに首を傾げられた。自分では買わないだろう繊細かつ上品なデザインは仕立てた人のセンスを窺わせる。慎重に外し、耳に着けてみた。うんうんと今日一番満足気に頷いた彼女の耳元で同じように揺れている耳飾りを見て、もしやと思う。
「もしかしてこれ、アシメじゃなくて」
「お気付きになられましたか」
やや大袈裟に髪をかき上げふふん、と鼻を鳴らした彼女が顎に手を添えてこちらに向き直った。
「迷ったから両方買っちゃったよ!」