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    雪ノ下

    @a_yukinoshita

    雪ノ下(ゆきのした)です。
    DIG‐ROCKの日常系SSを中心に色んなお話を書いています⸝‍⋆

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    雪ノ下

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    2022.01.21『12.09の邂逅』再録

    2021.12.09に叶希とクロノがしていたツイートのその後妄想

    Main:TOKI・KURONO

    #ディグロ
    diglo
    #二次創作
    secondaryCreation
    #SS

    『12.09の邂逅』「よければ一緒に行かないか」


    事務所でファンレターを受け取った帰り道、上着のポケットに突っ込んでいたスマホが着信を知らせた。画面を確認すると、表示されていた名前は"黒乃さん"。緑の電話マークをタップする指が緊張からか少し震えた。
    連絡先を交換して暫く経つというのに未だに電話でのやり取りには慣れない。つぐと違って人との距離を縮めるのが上手い方ではないし、何度か顔を合わせているとはいえ相手は事務所の先輩だ。ルビレのハードスケジュールっぷりを知っている手前、メッセージひとつ送るのでさえ躊躇してしまう。
    タイミングはいつがいいか。どれくらいの頻度なら迷惑でないか。色々考えた末結局は連絡をしないのが一番迷惑をかけずに済むという答えに行き着いて、スマホから指は遠のくばかり。けれどまったく音沙汰なしというのも"一応交換はしたけれど連絡をとる気は一切ありません"などというあらぬ誤解を与えかねないし……とまたモヤモヤ。
    その繰り返し。それ故こうしてクロノさんの方から積極的に連絡をもらえるのは助かっていた。


    「えっ、と……?」


    一緒に……?どこに?何をしに?
    言葉の意味を計りかねて頭をフルスピードで回転させる。事前に何か約束をしていただろうか。必死に記憶を手繰り寄せるが思い当たる節がない。
    二の句を継げずにいると、通話越しに困惑が伝わったのかクロノさんはすまないと前置いて続けた。


    「今から例のパイを買いに行くんだが、叶希くんも一緒にどうかと思って」

    「例のパイ……」


    言われてすぐにピンときた。そういえば先程"メモ"というハッシュタグを付けてツイートしていたっけ。実は自分も少し気になっていた。ちょうど小腹も空いてきたところだし、そうしてもらえるなら正直とてもありがたい。


    「いいんすか?」

    「もちろん。日が落ちて気温も下がってきた。風邪をひくといけない」


    是非送らせくれという柔らかな声に、今日は素直に甘えることにした。


    「事務所出てすぐのところって言ってたよな……」


    ディグプロを後にして辺りを見回すと、沿道に見覚えのある高級車がハザードを焚いているのが目に入った。今日はこの車種なんだなとぼんやり思っているあたり、ルビレと共有した時間の長さを実感する。
    そろそろと近づいてサイドウィンドウ越しにぺこりと頭を下げる。こちらに気づいたクロノさんは微笑んで、運転席の方から腕を伸ばして内側からドアを開けてくれた。……ほんとスマートだよなぁ。


    「こんばんは」

    「こんばんは。待たせてすまない、乗ってくれ」

    「はい。……あ」


    乗り込もうとして、躊躇う。流石に助手席はまずいんじゃ……


    「どうした?」

    「いや……助手席はアカネさん専用なのかと」

    「え」


    きょとんと目を丸くしたクロノさんは一拍置いて吹き出した。


    「大丈夫だ。マシロやハイジも座ったことがある。……あぁでも確かに、メンバー以外だと叶希くんが初めてかもしれないな」


    え、そうなのか。"初めて"という言葉に心臓がドキリと音をたてる。


    「じゃあやっぱり後ろの方が、」

    「どうして?是非"最初の一人"になってくれ」


    優しい声で返され一瞬ピタリと動きを止める。
    本当に?クロノさんはそう言ってくれるけれど、本当に自分でいいのだろうか。
    暫く悩んで視線を彷徨わせていたが、せっかくの申し出を断るのも失礼だ。よろしくお願いしますともう一度頭を下げて乗り込んだ。


    「パイってアカネさんのお使いすか?」

    「直接頼まれたわけではないんだが、以前気になると言っていたのを思い出して」

    「へぇ」

    「仕事が立て込んでいて暫く外に出れそうにないと言っていたから、代わりに買ってくることにしたんだ」

    「きっとめちゃくちゃ喜びますよ」

    「あぁ。そうだと嬉しいな」


    席について暫くは固まっていたが、ひとつふたつ会話を交わすうち徐々に緊張が解けてゆく。同時にじわりじわりと睡魔が忍び寄ってくるのも感じていた。寒風吹き荒ぶ外とは違って暖房がきいた車内は心地よく、適度な揺れも手伝ってつい船を漕いでしまう。
    ……いけない。このままではアカネさんに寄りかかって爆睡してしまった時の二の舞だ。同じ轍は踏まないようにしなければ。
    そう叱咤するものの強烈な眠気に完全には抗うことができず、夢の淵と覚醒とを行き来していると、運転席のクロノさんがオーディオのボリュームを絞った。


    「寝ていていいぞ。まだ少しかかる」

    「いえ……平気です」

    「変に気を遣う必要はない。叶希くんが忙しくしていることくらい想像がつく」


    "アカネさんにもそういう時期があったから"と音のない声が聞こえた気がした。
    学業とアルバイト、そしてバンド。どれも自分にとっては必要なもので、両立させようとがむしゃらに突っ走った結果ガス欠になった。そうなって初めて己の立ち位置を、目指す場所を再確認した。
    最近ようやくバランスがとれてきたところだが、サイボーグではないのでどうしたって疲労は溜まる。以前はそんな自分に気づかないふりをしていた。けれど。


    「……甘やかし上手すよねー、クロノさんて」

    「そうか?」

    「そうですよ」


    今の俺の周りにはこうして"大丈夫か"と立ち止まらせてくれる人達がいる。
    全部ひとりでこなさなければ気が済まないわけでも誰かに寄りかかりたくないわけでもない。けれどいざそうしてみようと思ったところでやり方がわからない。甘えることにも、甘やかされることにも慣れていないはずなのに。
    どうしてかリラックスしてしまうのはきっと、俺が少し肩の力を抜いた時にこの人が嬉しそうに笑うから。
    今まで浮かせていた背をシートバックに預ける。車窓を滑る冬の街並さえ温かく思えて、せり上がってきた欠伸をそっと噛み殺した。
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