『ぷりんぱにっく』「……、」
冷蔵庫を開けた瞬間思考が停止した。
開いた口が塞がらないとはきっとこういう状態のことを言うのだろう。原因は今目の前に広がっているこの景色だ。
何を言っているかわからないかもしれないが、冷蔵庫の中がプリン一色なのだ。
プチッとお皿にのせられるプリン。とろけるプリン。真っ白なミルクプリン。焼きプリンからプリンアラモード。
種類は違えど右から左、上から下の棚まで全てプリンで埋め尽くされている。
左隅の、申し訳程度に空けられたスペースに買ってきた食材をなんとか詰め込んだ。俺が買い出しに行っている間に一体何が……
「悪かった」
「……アカネさん」
振り返ると、今まさに思い浮かべていた人物が大きな体を縮こませて立っていた。いつもはスパンと言い切る口も今日はどこか歯切れが悪い。
どう返していいかわからず黙っていると、まだ怒っているかと若干上目遣いで見上げられる。その姿にふと幼い頃のアカネさんを思い出した。昔からバツの悪いことがあると決まってこの顔をする。
無意識なのだろうが、そんな目をされたら怒るに怒れない。
そもそも事件があった当日にアカネさんとマシロにはプリンとビールを買ってきてもらっているし、謝罪もしてもらった。まったく怒ってなどいない。首を横に振ると、ほっとしたようにアカネさんの体から力が抜けた。
「いい時間ですし休憩にしましょう。マシロとハイジも呼んで」
「そいやアイツら一緒に買い物行くっつってたな」
「都合がつけばいいんですが」
「連絡してみる」
それならば自分はコーヒーを淹れようとキッチンに向かう途中、後ろから「クロノ」と呼び止められた。
「ほんとに悪かった。今度から気をつける」
「いえ」
これ、ありがとうございますと冷蔵庫いっぱいのプリンを指さすと、アカネさんは満足そうに頷いて今度こそ通話ボタンを押した。会話を聞くにどうやら二人とも来られるようだ。きっと夕飯も食べていくだろう、買い出しに行っておいて正解だったな。
気持ちの大きさが物理にまで反映されてしまうのはアカネさんの癖のようなものだ。感謝にせよ謝罪にせよ、返ってくる時は倍以上の大きさになっている。
今回のプリンのように到底二人では消費しきれない量でも、それがアカネさんが自分に向けてくれている気持ちの大きさだと思えば嬉しい。ふ、と口元が緩んだ。
「でも、流石にあの量はやりすぎですよ」
「どのプリンにするか決めらんなかったんだよ」
「次は一緒に行きましょうね」