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    まるこ

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    流花ONLY
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    まるこ

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    るかーくんの誕生日ケーキ

    #流花
    flowering

    ※ケーキ屋のおじさん視点
    ※流川家捏造しています


    「もうそろそろかな」
    今日は12月30日。年内の営業は今日で終わる。多忙で狂いそうになったクリスマスは終わったし、世間はすっかり正月に向けての準備で忙しいため、この店もゆったりとした時間が流れていた。
    その時、あるお客さんを思い出していた。
    近所に住む、流川さんちの楓くん。
    昔から、誕生日に同じケーキをずっと買いに来てくれる常連さんだ。
    お姉さん、お兄さんがいて、一番下の子が楓くん。
    一月一日がお誕生日。だけど正月はどこも洋菓子店がやってないので、前倒しでお祝いしているとのこと。
    うちに買いに来てくれるお客さんもその日生まれの子は少ないし、お正月かつ、男の子で"楓"という名前も珍しく、そして何より、近所でも評判の美丈夫だったのでよく覚えていた。楓くんと同級生の上の子から、学校に私設のファンクラブまで作られていると聞いた時は驚いたけと、すぐに納得した。とにかく印象に残る子だったのだ。
    小学校低学年くらいまでずっとお母さんと一緒に買いに来てくれていた。口数は少ないけど、キラキラした目でケーキを見る目が可愛らしかった。年頃になって、いつしか姿を見せてくれなくなったけれど、誕生日ケーキだけは今でも毎年流川さんが買いに来てくださる。
    楓くんは小学生から始めたミニバスにのめり込み、中学ではバスケ部のキャプテンまでつとめているということだった。あんなに格好良くて、キャプテンまでできるなんて、きっと素晴らしい青年になっているんだろうと思っていた。

    そんな訳で、今年もそろそろ流川さんがいらっしゃる頃かな、と思っていた時だった。
    入り口に背を向けて伝票の整理をしていたら、ドアが開く音がした。
    「いらっしゃいま…」
    振り返ると、入り口に頭をぶつけそうなほど大きな身長の学ランの二人組が入って来た。
    革靴をコツコツとならせてショーケースに近づいてくる。
    おっかなかったけど、片方の子は、おそらく、たぶん、流川楓くんだった。あの頃よりうんと大きくなったけど、その風貌は変わっていないから。一体、何年ぶりだろうか。
    そして、隣にいるもう一人の男の子は、ヤンキーっぽくてコワモテな上、テレビや雑誌でしか見たことがないような鮮やかな赤い髪をしていた。くわえて坊主頭ときている。
    そんな二人が、ずうぅん、とかなりの存在感で入り口に立っていた。
    ハッキリ言って、ちょっと怖かった。
    そのインパクトに驚いていて何も言えずに居たら、楓くんは目が合うなり「流川っす」とペコっと頭を下げてくれたので、ハッと我に返った。
    「か、楓くん、だよね?」
    「うす」
    「いやぁ、大きくなったねぇ!」
    「うす」
    やっぱり、あの楓くんだった。よかった。
    安心して、つい大きな声が出てしまった。
    「いつもの一つください」
    「おい、それじゃわかんねーだろ」
    「あぁ、大丈夫だよ!これだよね」
    「っす」
    楓くんが毎年ご指名のケーキは、至ってシンプルなチョコレートケーキだ。
    こだわりがあるすれば、甘すぎないようにして、チョコレートの風味を損なわないよう濃くしっかりと味わえるようにしているぐらいだけど、気に入ってくれている。
    「すげーなおっちゃん!」
    「毎年、ご贔屓にしてもらってるからね」
    「そーだ」
    「かーちゃんがだろ!……あ、なあ、これとかもうまそーじゃん。派手だし」
    「これでいい」
    「んだよ、少しは色んなの食ってみろよ」
    「…俺は、一回好きになったら、それだけでいいから」
    「ふーん、つまんねー奴」
    「………」
    「おっ、これもうまそ」
    お友達はそんなことを言いながら、楓くんの肩に手を乗せて、ショーケースを楽しそうに見ている。お友達は笑うと、大きくて鋭く光る目が、線のように細くなって、とたんに人懐っこく見える。
    楓くんは、そんなお友達にすごい熱視線を浴びせていたが、彼は気にも留めてないようだ。
    「楓くん、プレートの名前はどうする?」
    「プレートは別に…」
    「つけてくれんだからつけてもらえよ。そーだ!おっちゃん、名前キツネにして」
    お友達は、いたずらっ子のような笑顔でそう言った。
    「キツネ?」
    「そう、キツネ。俺が授けてやったこれ以上ないコイツの二つ名。ピッタリだろ?このズルそーな顔に」
    「どあほう」
    「キツネくん、お誕生日おめでとう。これに決まり!」
    キツネか。僕には、由来が全く想像がつかない。でも、フー、とため息をつき、呆れているような楓くんは、それでも本気で嫌そうな感じはしない。
    さっきから、すごいなこのお友達は。
    こう言ってはなんだが、楓くんはパッと見ても、雰囲気があるというか、「近寄るな」と言うオーラが出ているのに、物怖じせずにからかっている。ヤンチャ…いや、溌剌として豪快で、楓くんとは全く正反対に見えるからできるのかも。そして、二人とも学ランにドラムバッグということは、おそらく同じバスケ部なんだろうな、など、不躾ながら色々と観察してしまう。
    気を取り直して、念のため、本人に本当にキツネでいいのか聞いてみたら、「…いいっす」と返ってきた。いいんだ。ちょっと冷や汗が出た。
    しかし、楓くんはそんな自分をよそに、「ほらな、コイツも気に入ってんだよ!」と大きな口を開けて笑うその子を、また見つめている。口では「うるせーサル」と言いながら、幼い頃から変わらない、キリリと上がった眉毛を緩やかにしている。
    本当に仲が良いんだろうな。
    お客様なのに、小さな頃を知っているからか、勝手に成長を感じて感動してしまった。
    お友達のリクエストどおり、プレートの名前には"キツネくん"と描いた。今日から、お友達の家に行って年越しするみたいなので、保冷剤を多めに敷いてあげた。世間話を少ししてから、外に出て見送った。
    「…はい。いつもありがとうね。早いけど、お誕生日おめでとう」
    「っす」
    「じゃあなおっちゃん!」
    「また来てね! 良いお年を!」
    「良いお年をー!!」
    「………なあ、今日、何」
    「鍋、キムチ、文句あるか」
    「ない」
    「途中でスーパー寄るぞ」
    「ん」
    「お前、ちゃんと手袋しろよ」
    なんだか所帯染みた会話をしながら、自転車を二人乗りしていく光景を、微笑ましく思いながら見送った。
    嵐のように一瞬で過ぎ去ってしまった。
    家に帰って、流川さんと仲の良い妻にこの話をしたら、後日、流川さん経由で、その赤い髪の男の子は桜木花道くんという名前なんだと教えてもらった。

    また会えたらいいと思っていたけど、二人の姿を見たのはそれが最後だった。
    翌年の30日も、その次の年も、彼らは来なかった。
    楓くんがアメリカにバスケ留学したと、また妻から聞いた。


    * * *


    あの日から3年が経った今日、季節は夏。
    店のドアが開いた。また伝票の整理をしていた僕は気付かなかった。振り向いて来店の挨拶を言おうとしたら、そこには、流川さんちの楓くんと一緒にケーキを買いに来てくれたお友達…桜木花道くんがいた。
    「…あっ!君は」
    「おうおっちゃん。儲かってるか!」
    忘れるはずのない、あの強烈な赤い髪も健在だった。

    それから、お客さんもいないことをいいことに色々話をした。楓くんは今日一時帰国するので、この後空港に迎えに行くということだった。夏は、バスケはオフシーズンらしい。
    桜木花道くんも現在、大学でバスケをしており、もうすぐアメリカの姉妹校に留学できるらしい。追いついて、流川をぶっ飛ばすんだと目を輝かせていた。切磋琢磨し合う若者に、僕も若い頃の気持ちを思い出すようで、熱い気持ちが込み上げて来た。
    しかし、桜木花道くんはそんなことを言いにわざわざここに来たわけではないだろう。
    「何にする?」
    「…えっと、アイツが…流川が好きなやつなんだっけ」
    「これだよ」
    「おお、そうだ、こんなだった。ケーキは、これしか食わねーって言ってたから、アイツ」
    「嬉しいこと言ってくれるねぇ。何かのお祝い?」
    「あぁ、誕生日だ」
    「あれ、楓くんの誕生日ってお正月じゃ…」
    今は真夏だ。あと4、5ヶ月はある。
    そういうと桜木くんは、頭をかきながら、照れくさそうにポツポツと話してくれた。
    「んーまぁそーなんだけどよ…アイツが向こう行ってて祝えなかった分、祝ってやろーと…」
    「桜木くん…」
    「あー、なんて心優しい男なんだろう、俺ってば!」
    腰に両手を当てて、顔を赤くして、ふんぞりかえっているようなポーズを取っている桜木花道くん。怖い見た目とは裏腹に、お友達思いの良い子じゃないか。
    そんな桜木花道くんに感動した僕は、「ていうかおっちゃん、なんで俺の名前知ってんだ」という質問に答えることもせず、「これ、ウチからのプレゼントってことで、持って帰ってよ!」と言って、看板商品のシュークリームとプリンもそれぞれ二つずつ渡した。「いーんか!!サンキューおっちゃん!」と、目尻に皺ができるくらいの笑顔で言ってくれた。小さいけど腹の足しにはなるだろう。
    「そうだ、誕生日ならプレートいるよね」
    「ん、おお」
    「楓くん、お誕生日おめでとう、でいいね」
    そう聞くと、桜木花道くんはしばらく固まった後、どんどん顔が赤くなっていった。
    「……おお」
    「ちょっと待っててね」
    彼は俯き、「か、えで…」と、楓くんの名前を呟いている。もしかして初めて知った、とかそんなはずはないよね?暖房が効きすぎているのかな?と思いつつも、ホワイトチョコで作られたプレートに丁寧に名前を書いてゆく。
    「これでいいかな?」
    「おー、ばっちし…」
    文字のまわりに、キラキラなんかも書いたりして。オッサンのセンスにしては可愛らしく書けたと思う。何十年と書いてきたものだけど。
    慎重に箱に閉まって、彼に手渡した。「サンキュー」とケーキを受け取ると、じーっとそれを見つめた。わずかに眉を緩ませ、すごく大切なものを見るように。その顔はどこか、見覚えがあった。
    「…あっ、思い出した。キツネだ!」
    「ぬっ」
    「確か、楓くんにそう言ってただろう?」
    さっきプレートに名前を書く時、なぜか違和感があると思ったんだ。ずっと書いてきた名前なのに。
    「キツネじゃなくてよかった?」
    「………う、ん」
    「ならいいんだけど、いやー、キツネって書かれて、なんだか楓くん、嬉しそうにしてたからさ、そっちの方がいいのかなって」
    「……」
    「小さな頃から、キリッとしてた子だから、びっくりしたんだよ、あんなふうに穏やかな顔で…」
    「ふんぬー!!」
    「ぅおおっ、どうしたの」
    そうやって僕がペラペラしゃべっていたら、桜木くんは自分の顔をビタン!と叩いた。おかげで元々赤くなってた顔がより赤くなっている。
    「楓でいいっ!」
    「わ、わかった!ごめんね、調子に乗って…」
    「ぬぅ…」
    「…あの、ぜひ、またきてね!」
    「くる!!世話んなったな!!」
    顔面スレスレまで近付いて僕にそう言った桜木花道くんは、頭から湯気を出しながら、ずんずんと大股で歩いて、大事そうにケーキを抱えて帰っていった。
    やっぱり桜木花道くんは良い子だ。人は見かけで判断してはいけない。あんなに照れてしまうとは思わなかったけど。
    次はぜひ、二人で来て欲しいと思った。
    彼らが有名になっても、いつでも買いにこられるように、ずっとこのケーキを作り続けようと思った。
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