Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    亜久堂 御狐

    @AKUDO_FOX 雑多。意味がわかったらわたしとあくしゅ。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 17

    亜久堂 御狐

    ☆quiet follow

    祓本の夏五が焼肉食べにいくそうです。

    #夏五
    GeGo

    焼肉と一緒にすんな「悟、それまだ。こっち焼けてるから先に食べな」
    「これ何?」
    「カルビ。さっき頼んだご飯と一緒に食べるやつ。あ、ついでにタレ頂戴」
    「あの海苔ご飯?へー旨そ。タレ何がいい?」
    「レモン。悟はなにで食べてるの?」
    「塩。飲み物頼むけどなんかいる?」
    「通だね。私ウーロン茶。あと好きなの頼んでいいよ。食べ放題だしまだまだいけるでしょ?」
    「傑もな。じゃあこっからここまで二人前ずつ~あっ土手煮食いたい」
    「土手煮ちょっと摘まんでいい?一つもいらないけど一口食べたい」
    「おっけ」
     金曜日の夜、家族連れで賑わう食べ放題の焼肉店に二人は来ていた。奥まった座敷に通してもらったから平気だろうと、入店時につけていたキャップとマスクを取る。悟はサングラスをつけたままだ。本人曰く視力が良過ぎて辛いらしい。一般のサングラスよりも暗めのそれでは焼き加減がわからないだろうと、傑が率先して肉を焼いている。もしその目のことがなくても傑は焼肉奉行になっていただろう。元来、世話焼きな質なので。
     注文、皿集め、その他雑務は悟の仕事だ。誰が決めたわけでもないけれど、二人で焼肉を食べに行くとなると自然とこうなる。何も言わなくても息が揃って気兼ねなく食事が出来る。
     ふと悟は思った。あー僕、傑いないとダメだわ。と。高校で出会ってビビッと何か運命的なものを感じ、もうプッシュで強引にコンビを結成。そこから十年ほど。四六時中一緒で最早熟年夫婦の域だ。なんなら「ん」の一言で傑のして欲しいことが大体わかる。悟のアドリブについて来られるのは傑だけだし、傑のちょっと偏屈な所をいなせるのも悟だけだ。相棒としてはもうとっくになくてはならない存在。それは十分に分かっていた。

      けどプライベートも必要だわこれ。
     サングラスの隙間から覗き見て、改めてそう思ったのだ。もうもうと立ち上がる煙の中、鋭い眼差しで肉をひっくり返すトングを持った傑を見て、だ。恋愛も友愛もすっとばしているくせに、自分には傑が必要だという思いだけはしっかりと心にあった。
     「なぁ、」
     頬が膨らむほど詰め込んだ肉も米も飲み込んで、思いつきのまま声をかける。傑は加減を見ながらも聞く姿勢を向けてくれた。なんと言おうか。なんと言ったものか。傑が次の言葉を待つ以上、何か言葉は発さなければならない。
     「……………肉焼くのうまいな」
     ひよった。本当はもっと、核心に迫ることを言いたいのに。どうしてもこの十年の心地良さを失ってしまうかもしれない恐怖と天秤にかけてしまう。多分傑は本当に言いたいことがこれではないことに気付いたのだろう。目を丸くすると次の瞬間ふはっと吹き出すように笑った。
     「そうだね。悟と行くうちにすっかり慣れたよ。焼くだけの料理なら私にもできるかな」
     前に番組で傑に料理を作らせた時、漢(というか野生み溢れる)仕上がりになって弄ったことを根に持っている。意外とねちっこい。でも別に嫌いではない。ウッザとは思うけど、傑らしいし日常生活で言われても全然大丈夫。
     …大丈夫って何がだよ。ぶんぶんと首を振ってよこしまな考えを吹き飛ばす。
     「コツが掴めてきてね、裏を確認しなくてもひっくり返すタイミングがわかるんだ」
     そう言って、僕にはちっともわからないがいい具合であるらしい肉をひっくり返した。コツを掴んだと言うだけある。ずっと見ていたわけでもないのに焦げるまでもいかないしっかりとした焼き目が見本のようについている。相変わらずの良い塩梅。さっきまで食べていたにも関わらず、思わず喉を鳴らした。
     「…悟とのタイミングはいつも掴めないけれど」
     他の既に両面を焼いていた肉を取り皿に置かれる。米を口に入れてしまったためもっと食べたいという欲求が強まった所に追加。これでタイミングが掴めないだなんてどの口が言うのか。
     「僕達のタイミングはいつも"その時"だろ」
     デタラメで言ってるわけじゃない、本心だ。思いついたその時に言うことで大抵上手くいってる。振り返ってみれば、僕が傑に何か遠慮することなんてなかったし、傑も僕の提案を拒絶することはなかった。それは気を使うだとか渋々折れるといった体ではなく、いつだってそれがのちに良い結果になると信じている信頼からの了承だった。
     でもそういえば傑から何かを持ち掛けられるってあんまりないかもしれない。僕の知らないところで、タイミングが掴めないと悩む傑がいるんだと思うとちょっとだけ気分が良い。
     「そっか…そうだね。……悟————」
     じゅうじゅうと油が弾ける音に乗って台詞が耳に流れ込んでくる。箸からするりと肉が落ちて白米で受け止めた。本当にタイミング掴めないんだな。
     いくらなんでも肉焼きながら告白はないだろ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👍👍👍💖💖💖👏👏👏👏💖💖💖💖💖💙💙💙💙💙💙💙💙💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works