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    甘味桜

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    甘味桜

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    懐かしいもの発掘したので供養。
    このネタは後に第3弾聴いた直後の話に流用される。

    暗闇の中、ふわふわと揺蕩う意識が浮上した。
    重い瞼を持ち上げ、ゆるりと辺りを見渡す。
    自室のベッドに横たえられているのか、目の前には見慣れた天井が広がっていた。
    「樹、起きた?」
    「……黄島さん」
    ぼんやりと前を見つめていると、ベッドの横から朝陽がひょいっと顔を覗かせた。
    その表情には、うっすらと安堵の色が滲んでいる。
    「あの、私は……」
    状況が掴めずそう尋ねると、朝陽はいつもの飄々とした調子で答えた。
    「倒れたんだよ。覚えてない?」
    「倒れた……?」
    目覚めたばかりで、未だはっきりとしきらない頭で、朧気な記憶を辿る。
    今日は、朝起きた時から少し体が重くて。
    けれど大したことは無いと仕事に向かった。それから、青斗と一緒に資料の整理をしていたのだ。結構量があるな、なんて話をしていて、それから……。
    「思い出した?」
    途中から、ぷつりと記憶が途絶えている。
    おそらく、その間自分は意識を失っていたのだろう。
    そういえば朦朧とする中で、青斗の焦る様な声を聞いた気がする。
    「いやー、急に倒れるからさすがに焦ったよ。一番びっくりしたのは青斗だろうけど」
    「それは、すみません」
    「まぁ、樹が体調管理下手なのは、今に始まったことじゃないけどね」
    「どういうことですか、それ」
    思わずムッとして言い返そうとしたものの、朝陽に真剣な目を向けられ、口を噤んだ。
    「そのまんまの意味だよ。樹、組織に入る前から根詰めすぎて、体調崩すことあったでしょ? 頑張るのはいいけど、たまには休むのも仕事のうちだよ」
    声も口調も変わらないのに、朝陽の眼差しがつきつきと胸に刺さる。
    彼の言う通り、確かに以前から樹は時折体調を崩すことがあった。その原因は、大抵が疲労でその度に気をつけようと思うのに、何度も同じことを繰り返してしまう。
    正直に言ってしまうと、これが当たり前になってしまっていたのだ。
    体調を崩してはじめて自分が無理をしていたことに気付く。だからそれまでは、大丈夫だと。
    「あとで青斗にお礼言っておきなよ。樹をここまで運んで、色々用意してくれたの青斗だから」
    「えっ……」
    「じゃ、みんなに起きたこと伝えてくるから。なんかあったら呼んで」
    朝陽はそう言い残して、さっさと部屋から出ていってしまった。
    「……」
    樹はゆっくりと上体を起こした。
    服はパジャマに着替えさせられ、サイドテーブルにはスポーツドリンクが置かれている。制服は皺にならないよう、きちんとハンガーにかけられていた。おそらく、これらも全て青斗がやってくれたのだろう。
    自分が倒れた時の彼の心情を思う。優しい彼は、きっとひどく焦って、心配してくれたのだろう。
    馴れ合うためにこの組織に入ったわけではない。けれど、彼ら……特に青斗に絆されているという自覚はあった。自分もそうだが、他のメンバーも彼には妙に甘いのだ。
    ふと、外から控えめなノックの音がした。
    静かにドアを開けて入ってきたのは、他でもない青斗だった。
    彼は樹のことを見ると、ほっとした表情で微かな笑みを浮かべた。
    「おはよう、樹。調子はどうだ?」
    「お陰様で、随分楽になりました」
    「そうか。よかった」
    青斗はそう言って、朝陽の座っていた椅子に腰掛けた。
    「すみません、青斗。色々と迷惑をかけてしまって」
    「迷惑だとは思ってないよ。その代わり、凄く焦ったけど」
    「……すみません」
    もう一度、謝罪の言葉を口にする。自分の中の良心が痛んだ。
    「……なぁ、樹。樹にとって、俺は頼りない?」
    「え?」
    申し訳なさから、つい俯いた樹であったが、青斗の言葉に思わず顔を上げた。
    彼は眉を下げ、どこか寂しそうな顔で続ける。
    「頼りないから、なにも言ってくれなかったのかなって……」
    どうしてそんな考えに至ったたのか。聞こうとして、やめた。そんなことは聞かなくてもわかることだ。
    「青斗、違うんです。あなたのせいではありません」
    青斗はとても優しい。それは、彼の美点だが同時に欠点でもある。自分のせいではないことまで、青斗は背負おうとしてしまうから。
    「これは私の至らなさが原因です。勝手に高を括って、無理をしました。……本当にごめんなさい」
    「樹……」
    今回の件で、本当に反省した。
    朝陽の言っていた通り、時には休むのも仕事だし、無理をすれば、逆に周りに迷惑がかかる。
    「じゃあ、樹。次は俺を頼ってくれないか? いや、俺じゃなくてもいい。しんどい時は周りを頼ってくれ」
    「はい、そうします」
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