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    おわり

    @owari33_fin

    アズリドとフロリドをぶつけてバチらせて、三人の感情をぐちゃぐちゃにして泣かせたい

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    ミーティア3️⃣ Az-23 『リーチ兄弟』

     大昔の珊瑚の海には、自分の場所となる巣穴があっても、陸のようにきっちりとした土地という概念はなかった。昔の人魚は人間とは違い、海の秩序が保たれていれば良く、まるで魚と同じ、仕事なんて事すら考えず、自由気ままに生きていたらしい。
     そんな人魚が、今や陸に住む人間と同等の学問を学び、職に付き、法律を作り上げ、個々の土地に家を作り、商店やリストランテ、大型商業施設が出来上がって陸と変わらない生活を過ごしている。もちろん、スマートフォンも普及して、陸と変わらず通話もできるし、マジカメだって流行っている。
     そう……人魚がそうやって海の中に陸と変わらない娯楽を得られたのも、気ままな人魚に法律という概念を作り上げたのも、大昔に陸の王子と結婚した人魚の姫に手助けした海の魔女のおかげだ。そして、その海の魔女には手助けした下僕がいた。それがリーチの祖先だと囁かれている。
     珊瑚の海ではリーチの名は絶大で、二人はそれだけでエレメンタリースクールでもミドルスクールでもカースト上位の存在だった。
     僕の母さんも、有名リストランテの凄腕シェフでありオーナーとしてそれなりに知名度もあった。そんな母さんや魔法士として優れたおばあちゃんの力もあり、そのおかげで、僕はミドルアッパークラス以上の家庭に生まれたが、それでもリーチと比べれば吹けば飛ぶレベルだ。
     見た目だって、必死に磨き上げなければならなかった僕と違い、その場にいるだけで二人はオーラが違った。誰に付くことも、付かれることも嫌う二人は、どこまでも自由で、その次元の違う存在に僕は多分嫉妬していた。いじめられて、仲間はずれにされて、その頃の冴えない僕は、まず二人の視界にすら入っていなかった。
     その頃の僕は、世界を恨んでいた。
     どこからどう見ても冴えないデブで、頭も悪く、ノロマで、のくせタコの人魚特有の怪力だけはあったから、みんな余計に僕に近寄りたがらなかった。
    『アイツ、のろまなくせに力だけは強いから、怒らせて殴られでもしたら大怪我するぞ!』
     そう……僕が簡単に追いつけない距離から、僕を指さして笑って馬鹿にして、みんなが僕を置いていった。そんなことを繰り返される度に、腹が立って、許せなくて、絶対に見返してやると、世界を呪って死にものぐるいで努力した。
     その頃、母さんと恋人関係だった義父に誘われジムに行き、勉強だって躓いたところまで戻って、ただひたすら繰り返し頭に叩き込み、見た目だって(癪ではあったが)義父の見た目を参考にし、僕は外見も中身も磨き上げ。ミドルスクール入学とともに、僕を笑って馬鹿にした奴らに復讐した。
     甘い言葉と笑顔で、心の底から相手を心配し相談に乗り、ほんのちょっと対価と引き換えに手を貸してやる。そうやって、気づいたときには大切なものを失って、僕の足元で怒ったり泣いて懇願したりする奴らを蹴り飛ばしてやるのは本当に気分が良かった。
     その僕の腹の底からの高笑いを、あの馬鹿ウツボがスマートフォンで撮影していた。
     黒歴史を払拭して、カースト上位の人魚として生まれ変わった僕を脅す気かと警戒すれば、二人はその映像を見て、僕が蹴落とし復讐した相手の惨めな命乞いを笑い飛ばし「ねぇ、次は何すんの?」と、鏡合わせの顔で悪い笑顔を浮かべた。
     最初は、カースト上位の二人と共にいれば、僕の存在価値を回りに証明することも、あのリーチの友人なんて称号があれば僕を馬鹿にするやつなんか金輪際現れないだろうと、この二人を存分に利用してやると思っていた。が、本当にこの馬鹿ウツボは、僕の神経を逆なでする最悪の性格をしていて、我慢に我慢を重ね最後、完全にブチギレた僕は、二人をボコボコに殴った夜、自分の人生が終わったと、タコ壺の中で冷静さを取り戻し、事の重大さに震え上がった。
     リーチの子息をタコの筋力で殴った。それはもう思いきり。きっとあの二人の両親はカンカンに怒って、もし母さんやおばあちゃんに迷惑がかかったらどうしよう、復讐されて怪我をさせられたり、最悪殺されたりしたらどうしよう。考えれば考えるほど怖くて……翌日、僕は学校を休んだ。考えすぎて知恵熱になったからだ。
     タコ壺の中に籠もって、もう一生、ここから出ない方がいいのではと、熱で朦朧とする頭で考えていると、僕の部屋の外、おばあちゃんの今まで聞いたこともないような嬉しそうな声が聞こえた。
    「アズール、学校のお友達が来てくれたよ」と……
     顔面に僕が殴ってついた青痣をくっつけたままの二人が部屋に入ってきて、思わず警戒してタコ壺の奥に隠れれば、二人はその前を陣取って薄暗い中を覗き込もうとする。
     これはきっと俗に言う〝お礼参り〟というやつだ。どうにかして、おばあちゃんを連れて家から逃げ出して警察に……とまで考えれば、二人がスクールバッグから宿題のプリントを取り出し、タコ壺の前に置いた。
    「これぇ、きょーの宿題」
    「それにこれも」とお見舞いだと渡されたのは、僕が次に復讐しようとしていた相手のマジカメの裏アカウントのIDだ。
    「アズールがいなければ学校がつまらないので、早くよくなってくださいね」
    「そうそう! 早くドカーン!! っておもしれぇことしよーよ」
     ケタケタ笑う二人は、昨日あったことなんか全部なにも無かったかのような顔で僕の前で笑っていた。
    「顔……」と、暗闇の中から八本ある一本の足先だけ出して聞けば、顔を見合わせた二人は笑い合い「次は負けねーから」と「ボクたちが勝ったときは、その脚一本くださいね」なんて言うものだから、僕はそれまでの丁寧語を捨てて「誰がやるか馬鹿ウツボ」と笑って言い返してやった。
     今思えばそんなキッカケで、三人で陸に上がり、ナイトレイブンカレッジに通い、モストロ・ラウンジ開設にと、それなりにこき使ったつもりだが、よく二人はあそこまで僕に着いてきたもんだ。
     だがそんな僕も、双子の馬鹿ウツボと知り合ってそれなりにはなるが、一度も二人の家に行ったことがなかった。なにより、二人が来てほしくないと思っていたようにも思えた。
    「あんなつまらない家業は継ぎたくない……」なんどもそう繰り返し言っていた、僕はそんな二人の家に、今向かおうとしている——



     * * *

     陽光の国。リーチが陸の拠点として使っている〝家〟にはプライベート・ジェットで向かうと言われ、訪れた空港でリーチの名を出さなくても、フロイドの顔を見ただけで主任クラスの 空港職員がすぐさますっ飛んできて、ボクたちを笑顔でVIPルームに案内し、ものの数十分で整備されたリーチ家が所有するジェット機に案内された。
     小型ながらに速度の出る飛行機に乗り込めば、船なら二日、陸路なら数日かかる距離を、機内食が出る間もなく、ものの数時間で進み陽光の国の空港に着いた。その後はヘリポートまで移動して、こちらもリーチの所有するヘリで移動し、広大な庭付き豪邸のヘリポートに着陸した。
     ヘリを降りれば、慣れた足取りのフロイドの後ろ、僕はそれなりの緊張感を持ちながら後を着いて行った。
     途中、物騒な印象の黒づくめの男たち何人もとすれ違ったが、フロイドを見ると途端に腰を直角に曲げて挨拶する。それにフロイドが「ん」とだけたまに返す。この一連の流れで、この男は本当に、リーチ家の人間なのだと思い知らされた。
     バカでかい建物は、外観は街の風景に合わせて作られているのに、一歩中に入れば、深い海の底を思わせる居心地の良い色合いをしている。白と黒の大理石に、上手く深海の紫を差し色に使うセンスの良さ。長い廊下を飾る調度品もどれも博物館に置かれていてもおかしくないレベルだ。
     貝殻の上、真珠のように美しい人魚の像が、尾びれを靡かせる彫刻をしげしげと観察する。これ一つで一〇億マドルはくだらないだろう。するとそんな僕を見たフロイドは「これぇ、昔ジェイドと登って遊んでて壊したんだよねぇ……修復術士を呼んで直してたけど、ここに持ってきてたんだぁ」と、あはっ! と笑い、それはきっと物の価値が分からないウツボに触らせないためだろうと、その英断に拍手を送りたくなった。
     スタスタと慣れた通路を歩くフロイドの後ろをついて歩くと、重厚で三メートルの高さはある黒い光沢の両開きドアを前に、フロイドが入室許可を取ろうとしている。
     名乗りを許されたフロイドが「オレぇ」と一言、ドアの内側から皮膚がビリビリする、怒りにドスをにじませた声が「オレぇなんて名前のやつは知らねぇな」と、フロイドの入室を拒否した。
     結局その後、気持ちの悪い猫なで声で「パパの可愛い息子〜」だとかなんとか言って、余計に入室を拒否され、最後はキレたフロイドが高そうなドアを足で蹴って暴れれば、しかたなく開かれたドアからジェイドが顔を出した。
    「おやおや、アズール。この前ぶりですね」
     一瞬驚いた顔で僕を見たジェイドは、心底楽しそうにニヤリと唇で弧を描く。この前ぶりと言われて思い出すのは、ジェイドのせいで迷子になったサミュエルのことだ。
    「あの時はどうも。お前のおかげで、僕の息子が大変な目にあった……お前には後でしっかり、慰謝料を請求するからな」
    「アズール、あの子供はアズールの本当の子ではありませんよね?」
    「僕とリドルさんの子だ。戸籍の上でそうなんだ、反論は認めない」
     きっぱりと言い放てば、ジェイドは「おやおや」と言って、フロイドより細かでギザリとした歯を見せた。
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